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元気溢れる淑女です


「――てなことがあって大変だったんだよ」


「いや明らかに心配させたお前が悪いだろ」


 翌日、学院にて。


 お母様の勘違いから始まった一連の流れを愚痴と共に零していると、間髪入れずにカイルからのツッコミが入った。自分にも非があったと自覚しているのに、それを他人から指摘されるとムカつくのってなんでだろうね。相手がカイルだからかな?


 とりあえず昨夜のお母様の真似をしてジト目で睨んでみたが、私が物理的な手段に訴えると考え既に防御行動に移っていたカイルは、そんな私を見て「何してんだお前?」と言いたげな顔をしていた。急に頭を守り出した自分の方が滑稽な姿なってるってこと、自覚した方がいいと思うよ。


「まぁソフィアの元気が無かったのなら、それは心配もするでしょうね」


「ソフィアはいつも元気だもんね……」


 あはは、と愛想笑いをしたカレンちゃんから、何故だろう。カイルと似たような呆れた雰囲気を感じた気がする。


 いや、まさかね。まさかカレンちゃんに限ってそんなことはないよね?


 ともかく、ミュラーも概ね同意見のようだし。私はみんなに「いつも元気なキャラクター」として認識されていたみたいだった。


「私ってそんなにいつも元気あるように見えてるの?」


 念の為に一応と思って確認してみたら、みんなの反応は驚くべき速度で返ってきた。


「見えるだろ」「見えるわ」「えっ、違うの?」


 え、そこまで? そんな反射で答えられるほど当たり前のことなの??


 私としては元気っ子代表はネムちゃんしかいないと思っていたが、そうか、私も元気っ子に思われていたのか……。


 愛されキャラ、クラス内のマスコットとしての地位はこの愛らしい容姿だけではなく、どうやら態度や言動にも原因があったようだ。私は自分で思っているよりも遥かに淑女として未熟なままなのかもしれなかった。


「……淑女として、これはあるまじき事態かもね……」


 お兄様と並び立つに相応しい理想の女性。それこそが私の目指すモノだ。


 この世界に存在する全ての男性の中で最も美しく最も気高く、最も果敢で最も頼り甲斐があって、最も賢く最も愛情深く、最も――と、数えるのも馬鹿らしくなるほどの長所だけを集めたような究極存在、お兄様に対して、その隣りに在る女性には当然品格というものが求められる。それこそ全女性の頂点に立つような淑女の中の淑女でもなければ、お兄様の視界を穢すことにしかならないと思う。


 勿論私はお兄様の唯一にして絶対の妹なので、多少の「甘え」は許されている。


 が、しかし。私が私を許せないのだ。

 私のせいでお兄様が侮られる未来が訪れることを、誰よりも私が許せないのだ。


 ならば常にお兄様に寄り添う未来が確定している私は、確実に、誰もが認める淑女にならなければならない。「あの方の隣りに立つには妹様よりも優秀な淑女でなければならない」と有象無象に思わせ、そう思わせた上で「ああ、でも私なんかにはとてもそんなこと無理な話よ!」と挑戦者が挑戦することもなく自らの心を折る程の圧倒的戦力差を見せつけなければ始まらない。


 ……何が始まらないかだって? 当然っ、私とお兄様の禁断極まるラブストーリーだよ!!!!



 ――優秀な兄と、優秀な妹。二人の間に言葉は要らない。


 だって、お互いの考えている事なんて言葉にするまでもなく分かるから。


 目線で。仕草で。表情で。甘く蕩ける吐息で。熱に浮かされた眼差しで。お互いがお互いのことしか見えていないと分かっているから。


 だから、愛を語らう必要なんてない。愛を囁く必要なんてない。


 ただ肌を触れ合わせるだけで、私達は、何処までも深く絡まり合い――



 ……ってキャー! きゃぁああ! 過激ぃ! 刺激的ぃ! でもそれがイイぃいい!! そんな関係に、私はなりたいッッ!!


 だがしかし、きっと印象の一番に「元気が取り柄」と取り上げられるような妹ではそんな関係にはなれないだろう。元気溌剌な妹と兄が蜜月の関係ってあると思う? ……それはそれでありかもしれんね!?


 めくるめく妄想が暴走の一途を辿っている最中、不意に聞こえた忍び笑いが私を現実へと引き戻した。


 聞くともなしに聞こえてしまった声はカイルのもので、私が睨みつけると、ヤツは特に隠す様子もなく「淑女って(笑)」と明確に私を小馬鹿にしてきやがったのだ。許すまじ!


「カイルぅ? 私が淑女だと何がおかしいの?」


 ニッコリ笑顔で威嚇してやると、カイルはそんな私を見て「ふはっ!」と更なる笑いを零した。


 なるほど、堪え切れないほどおかしいんだね? お前の顔面も面白おかしくしてやろうか? おお??


「いや、だってお前……。淑女ってのは人前で恥ずかしい妄想なんてしないだろ普通」


「…………」


 ……ブラフか? ブラフだな。だってミュラーとカレンちゃんが反応してない。私は顔に出してはいないはず。


 つまりこの場では、カイルの発言こそが根拠の無い妄言である。証明終了(Q.E.D)


「お前がロランドさんのことだーいすきなのは知ってるけどさ。卑猥な妄想も程々にしとけよ?」


「……し、してないから」


 まさかの追撃にうっかり動揺してしまった。何故こんなミスをしてしまったのか。


 やだ。もうやだ。ミュラーとカレンちゃんの顔が見れない。


 自分の顔を手のひらで覆い隠すと同時、私は自らの完全敗北を悟ったのだった……。


純情なカイルくんが知らないだけで、この世界の淑女は普通に色んな妄想をしてます。卑猥な妄想だっていっぱいします。

ただ彼女たちはそれを「恥ずべきもの」と考えていないだけで、真面目な顔で「カイルくんは体力があるからあっちの方も凄そうよね」等と日常的に吟味しています。知らないって幸せなことですよね。

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