山賊の人と話をしよう
亜麻色の髪の女の子はレニーと名乗った。
「いやー、あんなところにいるから驚いたよ。キミ何歳? あ、ボクはもうすぐ15で成人するんだ!」
「えっと、6歳です」
テンション高い。
そして珍しいボクっ娘だった。
貴族社会にはいなかったから貴重な人材と言えないこともないかもしれない。
「6歳! やっぱりそのくらいだよね! 誰か大人と一緒に来てはぐれちゃったのかな? あ、私たちは魔物を狩るために来たんだけどね、追い詰めてる途中で急にこっちの方に走りだしたから慌てて追いかけて来たんだ! そしたらまさか、魔物の逃げた先から女の子の悲鳴が聞こえるじゃん? いやー、慌てたよね! キミが無事で本当に良かったよ!」
悪い人ではなさそうなんだけど、元気だ。疲れる。
そして彼女の後ろの木の陰からこちらを覗いている大男。
視線がすごく刺さる。
彼女の関係者なんだろうけど、明らかに隠れ切れていない。その巨体を何故そこに隠そうと思ったのか。餌を狙う熊みたいな目でこっちを見ないで欲しい。
「ん? あぁ、あれがお父さんね。他にも仲間がいるんだけど紹介していいかな? おーいお父さん! そんなところにいないでこっち来て!」
私の視線を追ったレニーが手を振る。
レニーのお父さんはのっそりと木の陰から出るとこちらに歩いてくる。やっぱり大きい。
のすのすと歩いてきたお父さんは、私を見て顔を顰めた。
出会ってすぐに嫌な顔をされたのは初めてだ。ちょっと怖い。
デカくて圧迫感があるし、腕も筋肉が盛り上がっていて太く逞しい。ついでに眉毛も太かった。
「コラ! そんな顔してたら怖がっちゃうでしょ! ごめんね、これでもキミを心配してる顔なんだ。別に怒っているわけじゃないから気にしないでね」
「え? そうなんですか?」
レニーの言葉を信じるなら、敵意どころか善意の表情らしい。
この顔が? と改めて見てみると確かに、眉毛が下がっているのも仏頂面も私を心配している風に見えなくもない。
ジッと見ていると「すまん」と野太い声で謝罪された。と同時にそっぽを向いて頬を掻いている。その様はもう所在無げな父親にしか見えない。
成る程、口下手なのか。
なら会話はレニーと続けるべきかな。
「まぁお父さんのことは気にしないで。それでキミの名前は? どこから来たの? さっきの悲鳴は? 魔物もこっちに来たと思うんだけど見てない?」
会話の主導権を取ろうと考え始めたところで質問攻めにされてしまった。
あれだね、だが先手を取られてしまった! って状態。
どうしようかな、幼い子供がここにいる理由が思いつかない。
何を話し、何を誤魔化すべきか。冷静に頭の中で組み立てる。
「私の名前は、ソ」
「あ! まずここから離れるのが先だよね! まだ魔物いるかもしれないし! とりあえず家来て! すぐ近くだから!」
何も話させてもらえない。
矢継ぎ早に捲し立てると手を掴まれあっと言う間に歩き出した。人の話を聞かない上に発言と行動が同時進行とかアクティブすぎる。こんなタイプの人には会ったことがないよどうすればいいの。
助けを求めて思わず見上げたお父さんも無言で付いてくるだけだ。しかもその後ろにはいつの間にか、見知らぬ男性達が増えている。鞘に入れて帯刀してるお父さんと違って剣を抜き身で持ってるのが見た目の危険度を上げている。
当然といえば当然なんだけどアウェー感がすごい。ここは知らない場所なんだと思い知らされた。私はどこに連行されているのだろうか。
そういえば、家が近いと言っていた。まさか森に住んでる? だとしたらそれって、もしかして、エルフの里的な?
改めて手を引くレニーを見る。
普通の耳だ。長くもないし先が尖ってもいなかった。
残念な気持ちを抑え込んで素直に連れられた先には植物に覆われた砦みたいな建物があった。
保護色で見つけ辛くしているようだ。
それはいいんだけど、威圧感がありあり。ぶっちゃけかなり物々しい。これは家と呼べるものじゃない。
「ここですか?」
念のために聞いてみた。
分からないことは分かる人に聞く。幼いって素敵、何でも聞けちゃう。
でもなんだろうねこの建物は。森の中なら木でできた小屋とかに案内されると思ったのに、小さいとはいえ砦だ。うん、石でできてるし結構大きいし砦だよね? 二階の屋根の凸凹の隙間から矢とか打っちゃうアレですよね?
「うん! ここがボク達のアジト! 山賊団『山熊猫』の棲家だよ!」
山賊……え?
聞かなきゃ良かった。
山賊だろうと女は強し。