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素顔が可愛い「あの人」の会


 お父様を無碍に扱うとお母様が不服そうにすることがある。


 だがしかし、お父様が望んでいるような対応をしてデレデレの状態にして返すとそれはそれでムカつくらしく、八つ当たり気味に「あまりあの人をからかわないように」とか言われたりする。一体私にどうしろと言うのか。



 そんな理不尽とも思える言動を正しく指摘し、お母様の癇癪を引き起こすこと無く(いさ)めてくれるのがこの人である。


「アイリスも大分甘やかされて育ったのよねー。アイリスもあの件があるまではお父様の事が大好きだったし、人を叱るのに慣れてないのよ。許してあげてね」


 お母様に対して唯一強く出れる存在であるアイラさんに恩を売れたことは、私にとって僥倖だったと思う。


 アイラさんはお母様のお姉さんとは思えないくらい感情表現の豊かな人だ。とはいえやはり根っこの部分は近しいようで、時折見せる芯の強さは「ああ、やっぱりお母様の姉なんだなぁ」と思わせることが度々ある。


 基本的には穏やかな人で、話しやすさはお母様などとは比べるべくもない。その上お母様みたくツンデレ成分を発揮したりもしないので安心して心配を受け取ることが出来る。心穏やかに会話の出来る数少ない人物の内の一人なのだ。


「許すも何も……。お母様が私のことを心配してくれていることは分かりますから。ありがたいことだと思っていますよ?」


 もちろん、もっと素直に心配してくれればいいのにと思わなくもないけれど。


 お母様が突然に「ソフィア! あなたの元気が出るように国中からお菓子をかき集めました! 今日は好きなだけ食べても良いですよ!」とか言い出したら「心労掛けすぎて遂に狂ったか」なんて風に感じると思う。私の感情を敏感に感じ取るお母様のことだ、素直になれないのにはそんな反応をしてしまう私にも原因があるのだろうね。


「ソフィアちゃんはいい子ねぇ。本当に、あの子の子供たちはいい子達ばかりで羨ましいわ」


 おいで、と両手を広げて迎え入れるようなポーズを取られたので、反射的に近づいてみたら抱き締められて頭を優しく撫でられてしまった。顔に押し付けられた柔らかな感触が気持ち良憎い。


 うーむ、でもやっぱり触ってる分には気持ちいいんだよなぁ。お兄様に抱き締められる時とはまた違った物理的な包容力を感じる。


 撫で方はイマイチだけど居心地は良いし、おまけして六十四点ってところかな。人肌ってやっぱりいいものだよね。


 うん、合格。と上から目線な評価を下しながら、ごろにゃんと甘えるように頭を擦り付けた。最近お兄様に甘えまくってるせいか人に身を委ねる行為に前よりも抵抗を感じなくなってる気がする。もちろん相手は選んでるけどね。


「ふふっ、本当にかわいいわねー。アイリスとはこうやって抱き合ったりとかしないのよね?」


「しませんね」


 一瞬にして感情がフラットになった。


 アイラさんの質問を頭で理解した途端、スンッ、って温かな感情が抜け落ちたよ。我ながらびっくりするくらいの変わりっぷりだったね。


 なんなら今こうして、アイラさんに抱かれていることすら恥ずかしく感じる。


 お母様が私を抱きしめて頭を撫でるだなんて、そんなことは……。お酒に酔っ払って理性の箍が緩んでたりしたら、辛うじて有り得る……のかなぁ??


「お母様は素直じゃありませんからね。そんな私に弱みを見せるようなことはしないと思いますよ」


「そうなの? ……その割には結構隙が大きくない?」


「それは否定出来ませんね」


 流石はお母様の肉親とでも言うべきか、皆が過大に評価しがちなあのお母様のことをよく見ている。


 立派な肩書きを幾つも持っているお母様だけど、ぶっちゃけただ感情表現が下手クソなだけの純粋培養乙女ちゃんなのよね。口下手勘違い系ヒロインとしてやっていけそうな程に人との接し方が下手っぴだと思う。


 まぁだからこそ、いくら叱られても憎みきれないというか。そこがお母様の可愛らしいところではあるんだけどね!!


「あの子は昔から失敗を澄まし顔で流そうとしたりしていてね? お父様の追及を素知らぬ顔で受け流すことも良くあったんだけど、いよいよ言い逃れ出来ないと悟った時には私に頼ってきたりしてて……。その困った顔がまた可愛らしいのよねー」


「とてもよく分かります」


 やはりアイラさんは流石だった。お母様のことを実によく分かっていらっしゃる。


 そうなの、お母様はテンパってる時にこそ魅力が爆発するタイプなのよね。


「私としては、自信たっぷりに言い放った言葉がまるで見当違いだったと気付いた時の表情とか最高でしたね。素のお母様はとても可愛らしいのに、それを見せることを極端に恥ずかしがっているというか……」


「ああ。それは、ほら……。あの子は熱烈な求愛を受けてたから。……ね?」


「なるほど、お父様のせいでしたか」


 やばいな。アイラさんとの会話ちょー楽しい。


 お母様の昔の話を聞ける機会はとても貴重だ。この機会にお母様の弱み……じゃなくて、お母様の甘酸っぱい思い出話を出来るだけ沢山聞いておかねば!


翌日。ニヤけ顔のソフィアから逃れる夫人の姿が各所で目撃されたとかなんとか。

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