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お父様はいつだってブレない


 屋敷に帰って一週間。あれから唯ちゃんが見るからに落ち込んでいて心が痛い。


 お陰様で最近のリンゼちゃんは私の面倒を見ているよりも唯ちゃんと過ごしている時間が長いくらいだ。正直めちゃくちゃ寂しかったりするが、それを口実にしてお兄様との時間がちょっぴり伸びたりもしているのでなんとも言えない。


 お姉様も帰ってしまったし、ここ最近の我が家はなんとなく静かな雰囲気に包まれている。


 普段とは少し違った雰囲気も悪くは無い。悪くは無いのだが、これは少し違うのではないか。


 お父様が私の部屋を訪れたのは、そんなことをぼんやりと考えていた夜の事だった。



「――ソフィア。父さんと一緒にまた旅行にでも行かないか?」


「いえ結構です」


 会話終了。いきなり突拍子もないことを言い出すから気遣う余裕すらなかった。なんで今なら大丈夫だと思った??


 最近の私がお兄様に甘えまくっているのは周知の事実だ。あれほどべったりだった唯ちゃんとも少し距離が出来ているし、それらの事情から私が寂しがっていると予測することは容易だろうが、だからといってこれはない。絶対にない。お父様との旅行とかそれお父様がしたいだけじゃないのか。


 それなら寧ろお父様とお母様が旅行に行って、屋敷には私とお兄様だけを残してくれた方が万倍良い。アイラさんとか唯ちゃんの他にも屋敷には沢山の人が住んではいるが「お母様がいない状況で」「お兄様と二人きりになれる」というのはちょっとあのその、欲望が溢れ出るというかね、うぇへへえへへ。


 心のヨダレが蛇口を全開にした時みたいにダバーッと溢れた。


 寂しさを埋めるにはやはり人肌で温めてもらうのが一番有効だと思うのですが、そこのところどうでしょうかね。最近の雰囲気ならそろそろ添い寝くらいなら許されないかな? いやいやお母様達がいないのなら夕食の時からあれやそれやが……うふふふふふ♪


 数々の妄想に耽溺していると「ゴホンッ!」と大きな咳払いが聞こえてきた。私を正気に戻す目的ではなく、どうやら鎧袖一触にされたお父様が気を取り直すための儀式だったようだ。


「いや、すまない。言い方が悪かったな。別に仕事を全てロランドに押し付けて遊びに行こうって訳じゃないんだぞ? 仕事の一環でまた領地に戻る必要が出てきたんだが、ソフィアの気晴らしになるかと思ってだな……」


 ごにょごにょと言い訳っぽいものを続けていたが、私としては前半の部分が気になって気になって仕方がない。「全て」「じゃない」ってことはある程度はお兄様に押し付けるってこと? 自分の仕事はきちんと自分で片付けないとダメじゃないですかお父様、心をポッキリぶち折りますよ?


 望まぬ方向で活力が湧いたことは自覚したが、こんな方法で元気になんてなりたくなかった。


 やっぱり私はお兄様に優しく励ましてもらうのが一番好きだなぁ。


「お気遣いは嬉しく思いますが、私には不要です。そろそろ学院での試験も近いですし、これまでの総復習でもしようかと思っていたところで……。旅のお供にはお母様を誘われるのはどうでしょうか? お父様に誘われればきっとお母様も喜びますよ」


 私が気兼ねなくお兄様とイチャイチャする為にもお母様を連れ出したりしてくれないかなーと期待したものの、「いや、先に誘ったんだが断られてな……」と哀愁漂う感じで言われてしまった。私のせいでもないのに罪悪感がすごい。


 お母様ってお父様のこと大好きだったじゃん、なんで誘いを断るのかな?


 ひょっとして、色気溢れる私のお兄様を狙っていて……? なんて考えが一瞬頭の隅をよぎったけれど、当然そういう訳では無さそうだった。


「そもそも元気がないソフィアを誘うように勧めてきたのが……あ」


 しまった、というように口を噤むお父様。多分だけど、お母様から口止めされていたのではと思う。


「勧めてきたのは〜?」


 上目遣いで甘えるように問い質すと、驚いたことにお父様は抵抗の意志を見せたではないか。いつもはニヨニヨしながら簡単に屈するくせに、珍しいこともあるものだと思った。


 ただ次いで語られた抵抗の理由が想像よりも遥かにくだらなかった。


「……怒られるから言いたくない」


 子供か。いや気持ちは分かるけどね?


 お母様って顔に似合わず怒り方が陰湿なんだよね。いやある意味見た目通りなのか? ネチネチと遠回しに責めるのホントやめて欲しい。そう思わされてる時点で怒り方としては正解なのかもしれないけどね。


「その怒るのが恐いお母様のどこを好きになったんですか?」


 折角の機会だと思って以前から気になっていたことを聞いてみた。


 お父様とお母様。

 比べたら正直、お母様の良いところの方が圧倒的に多いことは自明だけども、お父様はそのどこに惹かれたのだろうか。


「それはもちろんあの美貌だな。当時から体付きだって抜群に良くて……いや、もちろん冗談だからな?」


 ……はあー。お父様って本当に……はぁーー。これだもんなぁ……。


 それが娘に向けて言うような冗談だとでも思ってんの? お兄様相手に言ったとしても確実に白い目で見られてたと思うよ。


カイルの父と飲む時は嫁自慢で盛り上がるのが定番らしい。

昔は子供自慢でも盛り上がったが、今ではロランドの評判が高まりすぎて父親の威厳が保てないのだとか……。

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