唯ちゃんは天使!!
「え?和風の天使と洋風の天使じゃないの?」
「違いますね。そもそも和風の天使とか初耳なんですが。天使に洋風とか和風とかあるんですか?」
「さあ? 俺も初耳〜」
満足のいく食事を経たことですっかり元気を取り戻した白衣のオッサンは名を松田と言うらしい。下の名前は意図的に聞き流した。オッサンの名前とか覚える意味ないよね。
美少女である私達と話せることがさぞかし嬉しいのか、鼻の下をこれでもかと伸ばしながら会話に興じる松田さんの姿には若干の気持ち悪さを覚えるものの、本人も主張していたように唯ちゃんの父親を探すには一人でも頭数が多い方が有利である。唯ちゃんが喜んで受け入れてしまった時点で、このオッサンの同行は決定事項と化したのだった。
……うん、まあ実際は、一人増えた程度で唯ちゃんの父親が見つかる確率が上がるとも思えないんだけど。
何せこれから探す場所は暗黒空間。
じっくりと確かめたわけじゃないから確かなことは言えないんだけど、ここみたいに複数の目で隈無く探す――といった単純な方法は使えないんじゃないかと思うんだよね。
とはいえ、私の魔法が通用するかも怪しくはあるんだけど……。
魔法の成否は術者の精神に拠るところが大きい。
私が「絶対成功する!」と思っていなければ成功するものも成功しないのだけど、そこはまぁ問題ないでしょ。自分で言うのもなんだけど、私って魔法はかなりの得意分野だからね。失敗ですら失敗とは認識しない。その失敗は成功に至る為の種なのだ。
――と、そんなことを考えながら三人で歩き続けること三時間ほどで目的の場所へと戻ってきた。
目の前には最早見慣れた空間の裂け目。
何処を向いても白色しか目に入らないこの世界において明らかに異様な黒い裂け目は、その光の一切を飲み込む闇の先に、まるで死よりも恐ろしいナニカが待ち受けているかのような……本能的な恐怖を煽り立ててくる感覚がする。
まぁどうせこんなの気の所為なんで、ちゃちゃっと中を改めようかね。
尻込みする二人に先んじてひょいっと頭を突っ込んでみた。意外なことに、日本の何処かにあるだろうあの研究室から頭だけがこんにちわする事態にはならなかった。
……っていうか、ここってこんなに幅があったんだっけ? いやまぁ、今だって視界が真っ暗なだけで、頭の先だけ「こんにちわー」してる可能性は否めないのだけど。
試しに頭を守るように《防御魔法》を展開してみた。
身体から放出される魔力、繋がった魔力から得られた感覚からするに、ここはまだ暗闇の世界で正解みたいだ。あっちの世界とはまた違った魔力への抵抗を感じる。
端的に言えば魔力がとても維持しづらい。
魔力を広げて人を探そうにも、これだと半径十メートル程度が限度になるかなー……。
とりあえず腕を伸ばしたり魔力を伸ばしたりして確認するも……うん、これは無理だな。探知系の魔法が一切効かない。この入口を見失ったら戻れなくなる自信しか持てない。危険度MAXって感じ。
確認を終えて頭を引っこ抜くと、松田さんが興味深げに見ていたので位置を交代。どうやら中に頭を突っ込んでる間は声も聞こえなくなってたらしい。心配をしたと唯ちゃんから可愛らしいお叱りを受けてしまった。
うへへ、唯ちゃんってばかーわいいー。
欲を言えばその言葉通り、私の心配だけをして欲しかったところではあるけど、まぁ中の様子が気になるよね。心配しなくても唯ちゃんに黙って処したりしないよ、ちゃんと唯ちゃんの父親が見つかったら唯ちゃんの許可を貰ってから適切な報復をするから安心してよね。
「中はやっぱり真っ暗だったね。入口から離れない範囲でなら人探しも不可能ではなさそうだけど……魔法が使えないから広範囲を探すのは難しいだろうね」
「そうですか……」
簡潔な説明をすると、唯ちゃんはシュンと分かりやすく落ち込んでしまった。
消沈する唯ちゃんなんてみたくはないが、現状は正しく共有する必要がある。唯ちゃんには私が見つけられなかった松田さんを見つけた前例があるし、今回も何かしらの感覚で見事に探し当てるんじゃないかと密かに期待をしてるんだよね。
生きてたら間違いなく唯ちゃんの保護者になるだろうド外道なんていっそ死んでた方が助かるという想いも確かにある。
けど、唯ちゃんがこれだけ慕ってるという事実は消せなくて。……なら最低最悪のクソ親父にも、一欠片の良心みたいなものはあるのかなーって気がしないでもないというか。実際に会って接したことの無い人物だしね。
まあ私が一度低評価下した男を見直すことなんてほぼほぼ無いけど。
男なんて基本的に馬鹿ばっかり。脳と性欲が直結してるお猿さんだからね。
一度過ちを犯したということは一度は理性が屈したということ。そんな男が「もう二度としないから」と言ったところで、どうしてその言葉を信用出来ると?
個人的には人生の五分の一すらも生きていない学生の「一生のお願い!」に匹敵する軽さだと思う。言葉の重みが塵にも等しい。
「……唯ちゃんは、さ。お父さんを見つけたら何を話すの?」
――だから、重みを欲したのだろうか? 何故そんな質問をしてしまったのか自分でも分からない。
それでも唯ちゃんは、私らしくもなく踏み込んだ質問にも嫌な顔をすることなく答えてくれた。
「話したいことは、沢山あるんです。でも最初はたぶん、ソフィアさんのことを話すと思います。素敵なお姉ちゃんに会えましたって」
んっっ、ふ!!!
その答えはやばい。ずるい。キュン死する。ていうかした。
松田さんの言う通りここは天国なのかもしれない。そして唯ちゃんは天使なのかもしれない。
和風の天使さん可愛すぎるんよー……!!
なんなら可愛い子は全員天使。男の子も女の子もみーんな揃って天使ちゃん。
ソフィアは愛らしい容姿の子供にはそれだけで価値があると強く信仰しています。もちろん自身にも高い価値があると確信してます。傲慢天使!
 




