重要な情報ゲットだぜ!
白い世界で見つけた白衣の男に事情を聞いた。
……拘束しているにも関わらず流暢に語られ続けたその内容は、ほとんどが愚痴で占められていた。
「主任ってば本当に酷いんですよ。俺、この仕事は好きな研究がいくらでも出来るからって聞いて来たんですけど、実際はつまんない計測ばっかりやらされて。異世界の存在を証明した凄い先生だって聞いてたのに言ってることは妄言ばっかだし、異世界との繋がりに関しては『時期が悪い』とか『今日は気温が』なんて言い訳尽くめで、再現性のあるまともな研究は何一つだってないんです。だから俺、『異世界作ったってのもどうせ嘘なんでしょ』ってよく主任に突っかかってたんですけど、そしたらなんかあの人、急に『行くだけなら今からでも行けるぞ』とか言い出して……言い出してぇぇ……! ――ろくな準備もなしにこんなとこ連れて来られて、俺にどうしろってんですか!? 俺、俺もう、このまま死んじゃうんじゃないかって不安で不安で……!」
芋虫のように地面に転がったまま「わぁああ!」と泣き喚く大人とか見たくなかった。
絵面がもう色々と、本当に醜いんだよね。
「それでその主任さんはどちらに行かれたんですか?」
なんとなく飛沫を防ぐ空気の層を生成しながら「とりあえず核心部分だけはよ教えろ」とせがむと、オッサンは顔を上げて大分悲惨なことになっている泣き顔をこちらへ向けた。鼻水が垂れ流しになってて本当に汚い……。
「知りませんよォ!! 道連れにしてやろうと引き込んだのに気付いたら白衣しか残ってなかったんですからぁ!! 今頃研究室でまた爆睡してるんじゃないですか!?」
…………あー。
これは、あれか。天罰執行済みの可能性が大っぽいな。
この白い世界に辿り着いたのがこの人だけで、向こうの世界から消えた人間は二人だけ。となると、消えた一人は必然的にその間のどこかでいなくなったってことになる。
――さて、二つの世界の間にあるのはなんでしょう?
正解は黒い幕。
魔力の浸透がめっちゃしんどい謎空間が二つの世界の間にはあります。
……あそこって完全に通り道って意識だったけど、やっぱり行こうと思えば行けるんだね。どっかに隙間とかあったっけ? 魔力での感覚が遮断されることに警戒してた覚えしかないや。
なんにせよ次の捜索場所は決定した。
そうなると、この人の処分を決めなくてはならないのだけど……。
「不幸だぁ……なんで俺がこんな目に……。喉乾いたし腹も減ったし……。腹減りすぎて金縛りにもなるし……」
やけに大人しく拘束されてると思ったらお腹減ってて動けなかっただけかーい。なんかオッサンが大分可哀想な人に思えてきたよ。
出来心でパンと牛乳など与えてみたら「天使様ァァアア!!」って滂沱の如き涙を流してたし……。
前情報無しでこの世界を彷徨ってたみたいだから、もう精神が限界ギリギリだったのかもしれない。この白い世界は精神的にクるよね。全ての行動が無意味だと思わされるような圧があるというかさ。
「人探しが済んだ後であれば元の世界にも帰せますけど、どうしますか?」
「ひひはえはへへふへんほっ!?」
先に食え。それとアンタ、別にまだ死んでないから。
まさかこの人、まだ私の事を天使だとでも思ってんの?
寝起きで呆けてるだけか、それとも……。お腹が膨れれば頭も働くようになるのかなぁ……?
「お仲間のいる研究室に放り込むだけですけどね」
「ごくん……っ! おぉぉぉ、そっかぁ……! ここが三途の川ってやつだったのかぁ!!」
……もうコレとは会話出来そうにないな。落ち着くまで放置しておこ。
オッサンの方は食い終わるまで放置でいいとして、唯ちゃんの方はどうなのだろうか。目の前に父親を死へと連れ出したかもしれない輩がいるのだが、本心ではどのように思っているのだろうか。
唯ちゃんの愛らしい横顔をじーっとひたすらに眺めていると、私の視線に気付いた唯ちゃんが反応した。こそこそと私の耳元に寄ってきて「すごくお腹が減っていたみたいですね。手遅れになる前に見つけられて良かったですね」なんてことを言ってきた。これは確かに天使ちゃんだわ。
「唯ちゃんはこの人になんか聞きたいことないの?」
「え? それは、その……」
もじもじ天使ちゃんがいじいじしながら言うところによると、どうやら聞きたいことは全部父親の口から聞きたいらしい。そんなこと言われたら頑張らなくちゃならないじゃんん!
「唯ちゃんが早くお父さん会えるように私も頑張るよ」
「ありがとうございます」
うむうむ、美少女の笑顔は何よりの報酬だよね。
頑張ったところで結果が伴わなそうなことには変わりないけど、この流れならワンチャンありそうな気がする。探す範囲も狭まったことだし、これはもしかするともしかするんじゃないのかな?
代わり映えのしない景色を歩き疲れてへとへとの眠りの果てから目覚めると、目の前には二人の美少女たちが。
「遂にお迎えが来たか」と勘違いしてしまうのも納得なシチュエーションですよね。




