無謀への挑戦
その後もいくつかの質問を重ねて大体欲しい情報は得られたと判断したので、喧しすぎる異世界オタクには約束通りの快眠をプレゼントしてあげた。思わず溜め息が漏れちゃうくらい相手するの疲れたよ……。
「……お父さんも、この場所に捕まってたんだ」
一緒に話を聞いていた唯ちゃんも何やらしんみり顔で呟いているけど、捕まってたって表現はどうなんだろうね。話を聞いた限りではそもそも外に出る意思なんか無かったようにも思う。どーでもいいけど。
しかしこれは困った事態だ。探し人がこっちの世界では行方不明。恐らくは世界を越えての大脱走中。
こーなると……どうする? どうするのが正解だろう。
探しに行ったところで……って気もするけど、探すことを止めてしまうと生死不明という不完全燃焼状態になってしまう。実はまだ生き延びていて、何処かでまたろくでもないこと企んでいる……なんてことになってしまったら最悪だし、どうせなら白黒ハッキリさせたい気持ちはあるんだけど……。
……探して、見つかる? 見つかる可能性とか本当にあるのか……?
唯ちゃんの様子を窺えば明らかに消沈した様子が見て取れる。
何かをしていれば気も紛れるとは思うけど、うーーん…………。探すだけ探してみる、かぁ……?
「唯ちゃん唯ちゃん。どうする? あの白いトコ戻って周囲一帯探してみる?」
「……はい。お願いしてもいいですか?」
「うん、いいよ」
そっか。やっぱり探したいか。そりゃそうだよね、父親だもん。
私にとっては父親という感覚なんて皆無だが、一緒に育ってきた唯ちゃんにとっては掛け替えの無い大切な家族なのだろう。本人の性格とか捜索の難易度は一旦脇に置いておいて、唯ちゃんの為に真剣に探す必要はあるのかもしれない。
……真剣に、ねぇ。
真面目にやったって不真面目にやったって結果が変わらないなら気楽にやりたいのが本音ではあるけど、すぐ傍で唯ちゃんが見ているからね。いっちょお姉さんの本気を見せつけますか。
「よしっ。じゃあすぐに行こうか」
「はい!」
と元気よく応えた唯ちゃんだったが、ここの人達を放置していくと知ると戸惑いを見せた。放っておけば後で勝手に目覚めるんだけど、倒れている人をそのままにして行くことに抵抗感があるらしい。ていうかずっと抵抗感はあったのだとか。気の利かないお姉ちゃんでごめんなさいね。
唯ちゃんには精神を落ち着かせる魔法が効かないので、仕方なく密かに回収していた拳銃を見せた。「ほら、この人たちはこんなに危険な物を私達に向けようとしてたんだよ」と危機感を煽り、無力化の正当性を丁寧に説くと、唯ちゃんは明らかに納得していない様子ながらも渋々彼らを放置していくことを認めてくれた。
うーむ。やっぱりこの子良い子すぎるなー。こっちの世界で暮らしていけるのかちょー心配。
もしも唯ちゃんの父親が見つかったら、更生はしっかり確実に。この世に生まれてきたことを後悔するくらい魂の奥底にまで「唯ちゃんを大切にしなければならない」ということを刻み付けてやらないといけないね。もちろん、物理魔法を問わず、あらゆる手段を用いて……ね。
こんな覚悟も躾ける相手が見つからなければ全部無駄になっちゃうんだけど、私は自分のだらしなさを自覚している。見つけ出して懲らしめる為という理由でも付けなければ、私はきっと唯ちゃんの父親探しの手を抜くだろう。今だって「切り上げるタイミングはどう判断すればいいのかなー」なんて心配ばっかりしていたりする。見つからないことを前提にした心持ちだ。
確かに。確かに唯ちゃんの父親を見つけ出せる確率は極めて低い。
だが初めから「どうせ見つかるわけない」という心境で臨めば、偶然目に入った僅かな手掛かりでさえ「どうせ関係ないものだろうな」と見逃してしまうことに繋がるだろう。ただでさえ低い確率を限りないゼロに近付けるのは、いつだって人の心が作り出した諦念なのだ。
――だからせめて、本当に「もうムリだよ……」と唯ちゃんが諦めてしまうその時までは。
望みを捨てずに可能性を追い求めてあげたい。唯ちゃんの父親を探し続けてあげたい。
……私は自分に魔法を掛けた。使用頻度の極めて低い《鼓舞》の魔法。
僅かなやる気を無限の活力に変える、言わば全力の状態を長時間維持するソフィアちゃんの本気モードだ。
「白衣が落ちてたのは白い世界だけど、落ちてた場所は世界の境界があるすぐ近くだった。何か見つけたらすぐに言ってね」
「はい!」
魔法を掛けていない唯ちゃんのやる気も充分以上。
さあ、無限に広がる謎空間で、たった一人の人間を探し出す超絶難度の人探しを始めるとしようか!!
「小汚いオッサンを探す」には頑張る気力が湧かなくとも、「悲しそうな女の子の力になる」為には頑張れる子です。
頑張って無駄な労力を支払いましょう。




