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得られた情報


 声を変えた。身動ぎひとつ出来ないように男の姿勢を魔法で完全に固定した上で、その背後、私達のいる位置とは別の場所から声を発する工夫もした。唯ちゃんと私の気配だってほぼ完全に絶っている。


 そこまで入念な準備を整えてこの尋問に臨んだというのに、蓋を開けてみれば尋問相手が話を聞かないお馬鹿さんときた。


 そもそも会話が成立していないので、《読心》を使ったところで当然有益な情報も得られない。徒労感だけがただひたすらに積もった時間だった。


「唯ちゃん。この人話しが通じないんだけど……」


「異世界が大好きな人みたいですね……」


 大声を出しても問題ないようにしているのに、なんとなく小声でヒソヒソと会話を交わす私達。


 荒んだ心に、まるで一筋の清水が流れるような感覚。


 唯ちゃんとの内緒話、とてもいい。げんなりしてた気分がちょー癒されるぅー。


 やっぱり話をするなら会話のできないキチガイじゃなくて謙虚で可愛い美少女だよね。こっちの会話なら何時間だって続けていたい気持ちになるってもんだよ。


 でも残念なことに、唯ちゃんと楽しくおしゃべりしているだけじゃ事態は何も進展しないんだよねー。


 必要なことは大抵面倒事とセットになってやってくる。嫌なことから常に逃げ続けられるとは限らないのが現実ってやつの非情さなのだ。


「おい、どうした? もっと話をしようじゃないか異世界人!! 俺に異世界の話をもっと詳しく聞かせてくれよ!! おーい!」


 ……なんでこの人、謎の力で拘束されたままの状態でここまで元気に振る舞えるの? 危機感イカれてるでしょ、ありえないよね。


 やっぱり拷問に切り替えるしかないのかな。

「喋らないと爪を剥ぐぞ」とか脅せば……いやぁぁ、考えただけでむしろ私がヤな気分になるぅぅ。


 私じゃなくて、相手にだけダメージを与えて……「許してください何でもしますから」って思わず言いたくなるような責め方……なんかないかな……?


 不意に泳がせた視線が寝こけている一人の白衣を視界に捉えて――そっと浮かんできた考えを却下した。

「早く答えないとこの男の下半身から漏れ出たアレコレがお前の顔面を襲うことになるぞ」とか、それこそ絵面が酷いことになる。後片付けとか絶対私したくないわ。


 うーん、うーん。もっと単純に水責めとか? 窒息させるのも悪くないかも?


 他にも、精神に感応する系の魔法で情緒を不安定にするのも有効かなぁ……?


 異常者の精神に異常を与えたら逆に正常に戻るとかないかな? ないか。

 正常に戻したいならむしろ満足するまで異世界の情報を渡した方が可能性としては高そうかなー。


 様々な可能性を考慮した結果、とりあえず異世界の話で釣れるか試してみようという結論に落ち着いた。唯ちゃんが強硬に「あれだけ知りたがってるなら、きっと取り引きができると思うんです」と主張した為である。唯ちゃんの優しさに全米が泣くわ。


「そうかいそうかい、君の主張は理解した! だが残念ながらこちらにも事情があってね。私は君が握っているだろう情報をいち早く把握しなければならないのだよ。……そこで、どうだろう? 私の質問に答えてくれるのであれば、君が求めている異世界の話を――」


「なんだ、何が聞きたい!? いや質問が決まっていないのなら俺が先に――」


「君の所属と組織の目的を!」


 反応すっご。食いつき良すぎて普通に焦ったー。


 咄嗟に繰り出した質問に、今度は簡単に回答が得られた。初めの苦労を返せと言いたい。


「【真なる神(トゥルー・ゴッド)】っつー組織の支部長だよ! 本物の神秘を探究してんの! で、今度はこっちの番だよな!? 俺が聞きたいのは――」


 ……え? なに? ホントにそんな悪の組織っぽい名前なの? っていうか本物の悪の組織なの? あと神秘ってなんぞ?? ……超能力とか魔法とかかな?


 思考を加速し、得られた情報を高速で処理する。


 相手からの「異世界にはどうやったら行ける!?」という質問については「あの辺の空間をこじ開ければ行けるよ」と伝えておいた。どう考えても雑過ぎる答えなのに大喜びしていて普通に怖い。


「では次の質問だ。――異世界について研究していた『雛形』という研究者を知っているかな? 彼の居場所が知りたいのだが」


 ――隣りで唯ちゃんが息を飲む気配がした。


 その反応も当然だろう。

 唯ちゃんと同じく雛形の性を持つ研究者――それこそが唯ちゃんの求めていた父親の情報なのだから。


 私達が密かに緊張感を高めている中、男は「ああ? 雛形だとぉ!?」と知っている者特有の反応を見せた。そして――


「アイツの居場所なんて俺の方が知りてぇよ! あのオヤジ、昨日忽然と姿を消しやがった。今日俺が来たのだってアイツの痕跡を探す為に来たんだぜ? ったくよぉ、逃げ出せないよう部屋に鍵まで付けたってのに、いったい何処……に」


 愚痴っていた言葉が不意に止まる。私と同じ答えに行き着いたからだ。


「――あの野郎。まさか異世界に逃げやがったな!?」


「(だぁクソッッ!! 俺が上に怒られるじゃねぇか!!! あの狸オヤジ、行き方知ってて隠してたな!?)」


 あー、なるほど? よく分かんないけど一枚岩じゃない感じなのね?


 そして唯ちゃんのお父さんは現在行方不明。恐らくはこの世界から脱している、と。



 ……どうしよう。やっぱりこれもう死んでるんじゃないかな?


 生きて唯ちゃんと再会してるビジョンがこれっぽっちも見えないんですけど!!


パパさん死亡説を補強するような情報が得られました。

唯ちゃんの父親は他人に迷惑をかけるのが得意技のようです。

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