尋問開始!
さて。これから行うのは尋問である。
素直に答えてくれるとは思えないので、結果的には拷問と呼ばれるに等しい行為が必要になるものと予想されるが、これは避けては通れない措置なのである。
何でも喋りたくなる洗脳魔法とかあれば話は早いのだけど、そんな便利なものはこの世界にない。薬とかならありそうだけど、そっちは私の得意分野でもない。
今の私に出来る限り手段で話を聞く。
……そうなるとやっぱり、一般的には「拷問」と称される行為で聞き出すのが手っ取り早いという結論になっちゃうよねぇ。
かよわき美少女に過ぎない私達にこれほど似合わない言葉もそうそうないと思うんだけど、そこはあえて考えないことにして。私と唯ちゃんのどちらがより拷問官に相応しいのかと考えれば、万人が万人、私のことを推すだろうと思う。
誰だってそうする。私だってそうする。
しかし忘れてはならない。これは消去法により選別されただけの結果であることを。
勘違いして欲しくはないのだけど、私って本当に平和主義者なの。痛いのとか嫌いだし、痛そうなのを見るのも嫌い。戦争とか馬鹿のすることだと思ってる。
だから拷問だって私がしたいからするんじゃなくてね、あくまでもどーしてもする必要があるから渋々私が引き受けるんであって。隣りにいるのがカイルとかミュラーだったら私だって心置き無く「じゃ、あとよろしくぅ!」って頼んで《読心》だけに注力してたよ。一緒にいるのが唯ちゃんだから仕方なしに私がやるの。
……だから僅かに感じているこの高揚は、他人を痛めつける予感によって引き起こされたものではなくてね。
なんというか、他人との駆け引き? 優秀な頭脳を持った人との言葉の応酬?
そういうものへの期待感からちょっぴりわくわくしちゃってるだけだと思うんだ。尋問や拷問が好きとか、そんな非人道的な理由では決して無いの。
――なので笑顔になってるように見えても広い心で許してください。
心の中で唯ちゃんに向けてそう祈りながら、私は尋問開始の合図となる《覚醒》の魔法を背広男の頭に向けた。そして。
「…………。……、ハッ!?」
……失敗してないよ? うっかりこの世界の人間に魔力が無いこと忘れてて、出力の調整をミスったりなんかしてないよ? ホントだよ?
ちょっとしたアクシデントはあったかもしれないが、本番はこれからだ。
私はあらかじめ用意していた《遠隔操作版・しゃべる君》を通して、背広男の背後、少し高めの位置からお父様の声で話しを始めた。
「やあ、目が覚めたようだね? 逃げられないように拘束はさせてもらったが、なに、心配はいらない。私には君に危害を加えるつもりなんてないからね。いくつかの質問にだけ答えて貰えれば、他の人たちと同じようにぐっすりと快適な睡眠をお約束しよう!」
少女の声だと舐められると思って私にとって最も身近な成人男性のものに声を変えたが、口調は某探偵漫画の怪盗のものを参考にさせてもらった。貴族風の口調だと増長されちゃうかもしれないからね。
……そんなふうに、色々と考えた末の対策だったんだけど。
「くっ、ぐッッ! おお、本当に動けないな! なんだこれは、なんで動けないんだ? ははは、不思議だ! ハハハハハ!!」
――えっ、何この人。こっわ。
ここのリーダーっぽい背広男が一体どのような人物なのか。
その性格を推し量ろうと待ち構えていた私は、目覚めてすぐのこの反応に純粋な恐怖を覚えていた。
「(魔法か? これが異世界の魔法なのか!? ははは、俺は今どんな状況になっているんだ? ああ、見たい! 見たいなぁ!!)」
内心までこれって、ガチじゃん。マジもんの気狂いじゃん。私狂った人の相手はノーサンキューしたい。でも私が相手をしないと唯ちゃんしか相手をする人がいなくなってしまう。
おう、マジか……。私がこれの相手をするのか。……マジかぁー。
まあ対面してないだけマシってことにしとこ。
少しでもポジティブ要素があるってことにでもしないと今すぐ黙らせたい気分になっちゃうからね。我慢だぞー、私ィー。がんばれぇー。
「随分と元気が有り余っているようだね! それでは早速質問をさせてもらおう。――この建物は何かね? 君たちの口から改めて、この組織の目的を聞かせてもらえるとありがたいのだが?」
唯ちゃんと相談して決めた質問をすると、背広男は気が狂ったように続けていた笑いを止め、「おおっ!」と些か過剰な反応を示した。
「この声は誰の声だ? まさか異世界に行くと少女から大人の声が出るようになるのか!? はは、はははは! 凄いな異世界!!」
聞いちゃいねぇー。
私ね、こーゆー話の通じない人って大嫌いなのよね。言葉は人同士の意思疎通の為に使われるものでしょ? 会話する気がないなら人の言葉を話すなって思うよ。
一度深呼吸をしてから自身に《平静》の魔法を掛けると、なんとか理性を取り戻せたと実感できた。
……これが私の冷静さを失わせる作戦だとしたら相当な役者だなー。
そんなことを思いながらも、きっと今のは演技ではないと、私は半ば確信に近い感想を得たのだった。
戦争は馬鹿のすることだと見下しているソフィアさんには「蹂躙できない戦争とか起こすべきじゃないよね」という持論があります。
己の平和が最優先なソフィアさんは、紛うことなき平和主義者であると言えるでしょうね。




