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立て篭りへの対処も楽チンぷい


 唯ちゃんと駄べりながら最初の部屋の近くまで戻ると、部屋の中には予想した通り、数人程が未だ眠ったままの状態でいるみたいだった。


 いち、にー、さん、し……うん、最初に《昏睡》を掛けた人数と合致するね。建物から人の出入りも無かったみたいで、そこだけは少し安心できたかなー。


 とはいえこの世界には遠方の相手との連絡手段が豊富すぎる。映像記録は残さず廃棄したつもりだけど、科学の進歩が私の知らない超技術を生み出している可能性だって否定できない。一瞬の油断が致命になりうる怖さはどうしたって拭えないよね。


 私って本来平和主義者なんだけどなー。なんでこう危険が身近にある状況ばっかりになっちゃうんだろ。美少女に生まれた幸福税とか?


 なんて、ままならない現実に阿呆な解釈をつけて気を紛らわせたりもしたけど、結局のところ「やるか」「やらないか」の選択において私自身が前者の選択をした結果であることは疑いようもない。今回の場合でいえば唯ちゃんの幸福のために私の幸福を摩り減らしてるみたいな……いや、これは表現が適切じゃあない気がするな。唯ちゃんの幸福が私の幸福に繋がると信じて……? うん、みんなで幸せになる為に今頑張ろうとか、そんな感じで。


 よっし! と気合いを入れ直して覚悟を決めた。

 面倒事にこれから取り組むぞ〜! という真面目な人であれば本来不必要な覚悟である。


 だってね。なんかこの部屋の中、人や物の配置が変なのよね。扉の前に棚やら机やらてんこ盛りだし、入り口を取り囲むようにして待ち構えてるのはもしかして私への対策なのかな? どうやって外の状況を知ったのかは疑問だけど、これはもうなんというか、無駄な努力ご苦労さまと言わざるを得ない。袋のネズミってネズミの愚かさを憐れむ言葉なんだと今気付いた。


 これだけ頑張って対策した相手の苦労を想うと本当に申し訳ない気持ちになるんだけど、状況を把握するのに使っていた魔力を伝って部屋の外からさくっと全員に《睡眠》を掛けた。こちらは特に対策もなかったようで、一斉に人が――パン!


「っ!」


「あー、大丈夫だよ。中の人が根性見せただけだから」


 ……わー、ビックリしたねー。自分の脚撃って眠気に抗うとか現実でやる人いるんだね。


 まあ魔法由来の眠気には痛みとかあんまり関係ないんだけど。


 それでも念の為にと《睡眠》の効果をちょっぴりだけ強めてあげると、自分の脚を撃った人は痛みに呻きながらも大きく船を漕いでいた。そのまま倒れるのを何とか堪えつつ、拳銃を持ったままの右手を……え? 再度脚に向けて……? あ、ああー! 先っぽで傷口をぐりぐりと! これは痛そう! 呻き声がめちゃくちゃ痛そうだよぅぅうぅ!!


「うぐあぁぁあぁ……ぁ……」


 ドサッ。


 ……うん。でもまあ結局はそうなるんだよね。一瞬、脚に穴を増やしまくるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたよ……。


「ど、どうなったんですか? 大丈夫ですか?」


 発砲音が聞こえた時点で音を遮断していた為に先程の呻き声や人の倒れる音が聞こえなかっただろう、不安そうな顔をした唯ちゃんが、耳元に顔を寄せ小声で必死に話しかけてくる。


 その様子がもう、えげつないくらいに可愛らしすぎてな……?


「ここはもうすぐ戦場になるかもしれない。私達も、相応の覚悟を決める必要がある」とか言ってからかいたい欲望がズガドンと私の煩悩に正拳突きした。心臓(ハート)が可愛いの圧力でペタンコになりそう……。


 もしかしたら、私は悪者の相手をミスって死ぬより唯ちゃんの可愛さに殺される可能性の方が高いのかもしれない。


 そんなことを思いつつ、なんとか掻き集めた理性で応答した。


「これまでと同じやり方で全員眠らせたから問題ないよ。ただその過程で一人だけ、眠らないように頑張りすぎた人がいたみたいでね。拳銃が暴発しちゃったみたいなんだ」


「そうでしたか……」


 うん、そういう事にしておこう。とりあえず魔法で止血して、流れ出た血はえっとえっと、人の山作って隠しとけばいいかな。


 雑に隠蔽工作を施した後にバリケードの撤去に取り掛かった。ドアの前にこんなに物を積み重ねて、もう……余計な魔力を使わせないで欲しいよね。


 ほいほいほいっとパズルゲームのように棚と机を動かしたら、やっと扉が開くように……ならなかったねね。ガチャって鳴ったね。鍵が掛かっていて開かなかった。鍵が掛かるならそりゃ鍵くらい閉めますよね、うわ恥ずかしー。


 魔法で解錠して再度ドアノブを捻ると今度こそ扉は開くようになった。電子ロックじゃないのマジ助かる。


 ……って、あれ? んー……んんん?


 あー、折角隠したのに微かに血の匂いが漂ってるなぁ。

《嗅覚強化》してない唯ちゃんには分からない程度かもしれないけど念の為に対策するか。私達の周囲の空気だけ調えて……っと。


 雑多な作業を済ませるとようやく少し落ち着くことが出来た。手近な椅子を二つ引っ張ってきて腰掛ける。唯ちゃんと繋いでいた手はもちろん今も繋いだままだ。


「さて、と。今のうちにこの偉い人に聞きたいこととか纏めとこっか」


 この、と示すように派手な背広の男の上半身を持ち上げた。


 明らかに一人だけ浮いてる人。

 根性があって、リーダーっぽい振る舞いをしてた人。


 多分この人なら何かしらの情報は持ってるんじゃないかと思うんだよね。


根性で自傷までしたのに何事もなく眠らされた後、無理矢理起こされて拷問にかけられることが確定しているお兄さん。

悪いことをすると最後には己の身に返ってくるものなんですよね。

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