教祖発見
何度か「私が」「いえいえ私が」と実に不毛な予定調和の儀を経て、最終的には王妃様の鶴の一声により本件は処罰者なしと相成った。
初めから誰かを処罰するつもりは無かったみたいだからそれはいいんだけど。
もう要件はなさそうなのに王妃様が帰してくれない。
どうもヒースクリフ王子を売り込みたいらしい。
素直ないい子で優しく勇敢で正義感もあってと褒め言葉が出るわ出るわ。
赤い顔で止めようとする王子様に初めは同情もしたけど、よく見れば満更でもないご様子。
あとね、そろそろお兄様が無言なのが気になってきた。
お兄様は控えめな性格だから、嫌なことがあっても我慢しちゃう人だ。今が多分そうなんじゃないかと思うんだけど……。
私のために着いて来てくれたお兄様に嫌な思いをして欲しくはないのだけど、何が気に入らないかが分からない。
王妃様の決定が不服なのか、王子様の優秀さアピールを笑顔で聞き流すのが苦痛なのか、はたまたお兄様の機嫌が良くないというのが単なる私の勘違いなのか。
お兄様の真意はともかく、私も興味無い男の話なんか聞いてても楽しくないのでまずは話の流れを変えようと思う。
というかね。
「あの、ずっと気になっていたのですが。何故私のことを聖女ちゃんと呼ばれるのですか?」
ツッコミどころ満載すぎて罠なんじゃないかと警戒してたけど、もう我慢できない。
今日だけで呼ばれ慣れた感あるけど、そもそも私、聖女じゃないから。
あと、ちゃん付けも恥ずかしいから止めてほしい。
王妃様から見たら私なんてまだ子供だろうけど、流石にちゃん付けで呼ばれる歳ではないはずだ。
と言うより、王妃様はそう呼ばれるのを私が嫌がってるの分かってて言ってる節がある。女の勘というよりは、同族の勘だ。いじめっ子的な。
「うふふ。それはね、聖女ちゃんが、聖女様みたいだったからよ」
うん、全くわからん。
そもそも聖女が聖なる乙女的なアレでいいのかすらわからん。
表情で素直に疑問符を浮かべていると、王妃様がもう一度、くすりと笑って。
「昔のことだから覚えていないかしら? この子が五歳くらいの時にね、助けてもらったことがあるのよ。小さなかわいらしい聖女様で、聖女ちゃん。うふふ、かわいい呼び名でしょう?」
うん、その呼び名がかわいいかは置いておいてね?
五歳というと、わーすごーいうちの子かわいすぎー状態のお父様が知り合いに一通り自慢し終わって、他所の子と同じようにパーティーでお披露目されて奥様方に「何この子かわいいずるい」ともみくちゃにされてた時期……だったと思う。
割と早めに抵抗を諦めてなすがままだったから記憶が曖昧だけど、賢いという噂を聞きつけた人が面白半分に色んな質問してきてたのは覚えてる。子供らしく誤魔化してたけど、困ってそうな人には真面目に答えてたからそのうちの一人だったのかな。
王妃様だぞ。覚えとこうよ、私。
とりあえず下手に掘り下げられても困るからさっさと白状しとこ。
さっき責任の所在を取り合った時に感じたけど、どうもこの王妃様、人畜無害そうな顔の裏で色々見透かされてる気がするし。せめてお母様レベルの腹芸できないと腹の探り合いで勝てる気がしない。
「申し訳ありません。幼い時分でしたので、その、記憶が……」
「いいのよ。私の他にもたくさん子供の相談を受けていたみたいだし、覚えていなくても仕方が無いわ」
あー、あれか!
子供のことは子供に聞こう週間あったあった。
子供の好き嫌いに関する相談から育て方に関する相談まで、それ子供に聞いちゃう? ってのが次から次へと。これもう仕事じゃないかなとか思ってたのが懐かしい。
「聖女ちゃんって呼び名が流行らせられなかったのは、本当に残念だったわ……」
昔に思いを馳せ、嘆息した王妃様を思わずマジマジと見てしまった。
噂の出処、よりによって王妃様か。
「おいしそうに食べてるのみるとね、おいしくなるの。ほめられるとね、がんばれるの」「あかちゃんばっかり、ずるいって言ってた。さびしそうだったよ」
幼女ソフィアの相談所は大人気でした。




