表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1277/1407

コンビニ攻防戦


 とりあえずは最初に来た怪しい施設に戻って偉そう人達の尋問かなー、とさしあたっての方針を固めた私達は、元来た道を戻る……戻らなくちゃ、いけないんだけど。


 でもほら。折角こっちの世界に来たんだから、お土産的な物も必要だよね? ね? ねぇ!?


 ……ちょっとだけだから! コンビニでちょちょちょーっとお買い物してくるだけだから!! ほんの五分程度で終わらせてくるから何卒お頼み申します!! と強く主張を続けた結果、困った顔をした唯ちゃんが「大丈夫です、待ちますよ」ととても大人な対応で許してくれた。悲しそうな顔を無理矢理止めさせる作戦大成功である。


 さてさてそれじゃあお許しも出たことだし? ちゃちゃっとお買い物を済ませましょうかね!


 唯ちゃんを一人店外に残し再び楽園(コンビニ)へと舞い戻った私は、一直線に店員さんの元へ向かった。そして。


「お菓子、アイス、ゼンブください。オカネあります」


 ポケットから取り出した風を装って、とりあえず十万円ほど出してみた。面白い反応をしてくれるかと密かに期待していたのだけど、店員さんは案外事務的に「ああ、はい」とだけ返事を……って、これ私の顔に見惚れてるだけだな。きゃわいい私に見惚れる気持ちもわかるけど、お仕事はちゃんとしましょーね?


 無垢な少女っぽく、不思議そうな顔でこてりと首を傾げると、店員さんは「はあぁ……っ」と感極まったような声を上げた。楽しいは楽しいけどこちとら唯ちゃん待たせてるんだ、そろそろ動いてくれませんかねぇ?


 どうしたものかともう一人の店員さんのいる方向に顔を向ければ、向こうもこちらを見ていたようでがっつり視線が噛み合った。一瞬で事態を把握した店員さん二号は駆け足で近寄ると店員さん一号を押し退けてレジの前に立つ。こっちの人は仕事が出来そうだね。


「すみません、改めてご用件をお伺いします」


 おお、できる人オーラが漂っている。


 これなら普通に買い物が出来そうだね。さっきの人も一回目の買い物の時にはちゃんと対応で出来てたのに、何で二回目の時だけ固まったんだろ? 不思議だなー。


「お菓子、アイス、ゼンブください。オカネあります」


 先程と同じ文言を繰り返す。

 念の為にお菓子の棚のある辺りを指し示して「ゼンブ」と指をくるくる回すと、指の先を追った後に店員さんの視線が私の顔へと戻ってきた。私の整いすぎた容姿に見惚れて、一秒でも長く眺めていたがっている様子……は、ないように見えるのだけど。はてさて。


「悪いけど、そういう買い方はお断りしてるんだ。何処の配信者の真似事かは知らないけどお店に迷惑がかかるようなことは止めようね? 欲しい商品があれば在庫探してくるから、今回はそれで我慢してよ。ね?」


 超真っ当に叱られてしまった……。


 言ってることは分かるのだけど、出来ればその在庫ごとまるっと全部買い取りたいなーと欲を出した結果、私はさらなる媚を売ることを決定した。「ゼンブ、ホシイ……。ダメ、ですか……?」とカタコトで懇願。縋る視線は当然の如く、涙目うるるんな上目遣いだ。


 優しく叱ってくれた店員さんは、私の演技に「困ったな……」と困惑顔を見せた。


「君さっき外で普通に日本語話してたよね。そんな演技したってダメなものはダメだよ。大量に買いたかったらこんな所じゃなくてネット通販で買えば? ネットでなら何箱注文してもいくらでも届けてくれるから、家に帰ったらお父さんにでも頼んだらいいんじゃないかな。その顔でお願いしたらお菓子くらいいくらでも買ってくれるでしょ。もしもどうしても無理そうだったらまたここに来な? その時はこっちのお兄さんが好きな物をいくらでも奢ってくれるからさ。なっ、そうだよな? そのくらいの甲斐性はあるんだよな?」


「え!? ……お、おうっ! な、なんでも好きな物を奢ってあげるよ!」


 おぉ〜……。私の誘惑を無効化するとは、手強いなこの人。


 さては可愛い女の子のおねだりに慣れているな? 家では可愛い妹のお世話を任されたお兄ちゃん属性の持ち主と見たね。


 この対応がそつなくてスマートな感じは女好きなだけのチャラ男には絶対に出せない。こんだけ女の子に優しく出来たら高校だか大学だかでも後輩女子からモテモテだろうなー。


 そして隣りのモテなさそーなお兄さんはどっからどー見てもロリコン星人の住人さんだな、間違いない。


 にこって笑顔向けたら一瞬で挙動不審になるもん、分かりやすいね。

 私こーゆー扱いやすそうな人ってスゴく好きだよ。


「じゃあとりあえず買っても迷惑にならない分だけ全部ください。全種類一個ずつ残せばいいですか?」


「急にめっちゃ流暢に喋るね」


 笑いながらもロリコンさんに指示を出す爽やかお兄さん。


「予算はこれだけ?」と言われたので「必要ならもっと出せます」と追加で二十万程取り出して見せるとようやく驚いた様子を見せてくれた。やっと一矢報いた気分。


 ロリコンさんがカゴいっぱいに持ってきたお菓子をレジに通しつつ「あー、でもこれだけの量になると持てないかもねぇ。お菓子とはいえ結構重いよ、大丈夫?」と気遣い半分、からかい半分の口調で聞いてきたので「お兄さんよりも力持ちだと思いますよ」と答えたら軽く笑って流された。でも実際、持ちやすい形にさえしてくれれば大抵の物は持てると思うよ。


「……で、これ本当に買うの? 冗談で済ますなら今のうちだよ?」


「買いますってば」


 そんな何回も確認しなくても。私がどれだけ日本のお菓子に飢えてたと思ってんの? 本気で買えるだけ買うに決まってるでしょ。


手の届く距離に現れた魅力的な商品の数々を目の前にして、ソフィアの知性は著しく低下しているようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ