さくさくっと制圧完了
建物の制圧は何事もなく終了した。改めて魔法の凄さを思い知らされた感じ。
通路の先にぶわーっと魔力を広げて人がいたら《睡眠》掛けるだけの実に簡単なお仕事でした。私ってもしかしたら、この世界では暗殺者としてやってくのが最も適しているのかもしれない。
……まあそんな他人様から確実に恨みを買いそうな職業に就く気なんて更々無いけど。
そもそも魔法があればこの世界では割と好き勝手できそうだからね。まさか誰も魔力を持った人間がいないというのがここまでやりやすいとは思わなかった。
これだけ魔法の効きが良いなら眠らせないで洗脳とかしといた方が良かったかもね。
まあそれはそれで、元の状態に戻せなくなるほど軽く染まっちゃう可能性が無きにしも非ずだけど。最初に会った武装してる人達なんかは別に廃人になっても構わないからね。人を殺そうとしてたんだもん、自分が殺されたって当然、文句なんてあるはずないよね?
――という、いかにも子供っぽい理論はともかくとして。
マジで全員眠らせたのは失敗だったかもしれない。ここが何処かとかこの場所はなんだとかいう情報が皆無すぎて行動の指針が定まらない。今からでも誰か起こして話を聞くべきかな。
唯ちゃんの父親を見つけたら生きてるのを後悔したくなるほどのお仕置をしてから色々と話してもらうつもりだったんだけど、いないとなると……どうするべきだ? 諸悪の根源っぽいし、絶対先に確保しといた方がいいと思うんだけど…………ふむ。
「唯ちゃん、どうしよっか」
「どう……って、何がですか?」
まだちょっぴり私に対して怯えながら「この人達を病院に運ぶ、とかですか?」なんて言われてしまった。何人もの大人達が倒れ伏している光景は確かにあまり見てて気持ちの良いものではないだろう、これは私の配慮が足りなかったな。
眠らせた人達を部屋の隅に積み上げ《隠蔽》の魔法で視界から消した。これでとりあえずは落ち着いて話が出来るんじゃないかな。
「そうじゃなくて、これからの方針。この建物の中には唯ちゃんのお父さんが見当たらなかったでしょ? 眠らせた人達の携帯漁って連絡先がないか探すとか、誰か起こして話を聞くとか、外に出て他に手掛かりになりそうなことがないか探すとか……」
「外、ですか……」
お、唯ちゃんはお外が気になる感じ?
私としても正直、魔法が一切役に立たないスマホの検分はなんとか避けたいと思ってたんだよね〜。ロック方式が指紋認証以外だったらそもそも中身が見れないしね。
実際白い世界で拾ったスマホが暗証番号でロックされてて超ムカついた。
唯ちゃんの誕生日でも両親の誕生日でも開かなくて、いくつかの思い当たりを試してもらう度に消沈してく唯ちゃんの様子は見てるだけで怒りが込み上げてきたよね。充電が終わるまで待たされた時間を返せって感じだったよ、ホントマジで。
やっぱり唯ちゃんの父親は一度半殺しくらいにして反省させないと……と再燃した怒りを煮え滾らせていたら、外に通じる扉を眺めていた唯ちゃんが呟くように「外には、あまり出たことがなかったんですよね……」なんて言い始めた。やっぱり何回か心臓止めるか、クソ親父。いや確か焼死が一番苦しみを与えられるんだっけ? 溺死とか感電死とか出来そうなのは一通り試すか?
生き地獄ってどうしたら作れるのだろうかと本気で考え始めた私の袖が不意に引かれた。振り返ってみれば、唯ちゃんが不安そうな表情で私のことを見つめていた。
……そんな縋るような目で見られたら、お姉ちゃん何でもしてあげたくなっちゃう!!
「とりあえず外に出てみよっか」
「はい」
本人的には感情を抑えたつもりなんだろうけど、瞳の奥にキラキラと輝く期待感が見え隠れしている。屋敷の庭で散歩してる時とかもやけにテンション高かったのはそういう理由か。いとかわゆし。
念の為に再度眠らせた人の確認、出入り口付近の監視カメラ等の対処を済ませてから外へと向かうと、建物の外は……なんか、建物の裏口? みたいなところに出た。建物内の近代的な雰囲気と外から見た時の寂れた風景とのギャップが酷い。……あとなんか臭い気がする。
これって空気が悪いのかな? となんとなく空を見上げてみれば、私はそこに――身体中にビビビッと電撃が走ったと感じるくらい衝撃的なものを見つけてしまった。
――あれって、電線!? 空を横断する電線が伸びてるー!! うわっ、この風景ちょー懐かしー!!
周りもよく見れば、フェンスとかアスファルトとか色々あって……うわー、超うわぁぁ……って感じ。自転車とか見たの十何年振りだよって話。
唯ちゃんじゃないけどこれはちょっとテンション上がるわ。懐かしすぎて涙出てきた。
建物の中にもノートパソコンとかエレベーターとかあったし、電灯を初めとした文明の利器も当然色々と目に入ってたはいたんだけど……なんだろうね。なんでか分からないけど、空に電線があるのを見た途端に「ああ、帰ってきたんだなぁ」ってしみじみと実感しちゃったんだよね。
隣を見れば、唯ちゃんもあちらこちらに目移りしている様子。
……今はもう少しだけ、この風景をゆっくりと眺めていようかな。次こっちの世界に来るのはいつになるか分からないしね。
〜ソフィアちゃんに関する豆知識〜
異世界転生以前、中学生だった頃は自転車通学をしていたみたいですよ。




