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接敵


 人が誰も訪れ得ないはずの、ありえない場所に白衣が落ちているのを私達は見つけた。


 それ以外の情報なんて何もないです。いやホントに。




 ――で、結局。


 咳払いひとつで恥ずかしい推測を無かったことにした私は、携帯端末と手帳を唯ちゃんにも渡して改めて確認してもらったんだけど、手帳に書かれていることはやっぱり暗号でも何でもなかった。つまりは現在、あの白衣の落し物は私達へのメッセージなどでは無かったという可能性が極めて濃厚な状況にある。


 そうなると益々分からない。

 何故あそこに、唯ちゃんの父親の物らしき白衣なんかが落ちていたのか。


「ふーむ」


「……何か気が付いたことがあるんですか?」


「いやぁ、さっぱり。変な落し物だよねぇ」


 嘘だ。本当はいくつかの可能性に気が付いている。


 だがしかし、縋るような目で見てくる唯ちゃんには申し訳ないけど、私の思い付きなんてほとんどは妄想と変わらないものだ。唯ちゃんの求める真実に掠りもしない事にかけては自信さえある。


 だって他の可能性と考えて真っ先に思い付いたのが「食堂の場所取りでハンカチ置いてく人とかいるよね」というものなんだから当たるわけもない。


 この世界と世界の狭間にある謎空間で場所取りって……。

 たとえ精神に異常をきたしたってそんな狂い方はしないと想う。単なる落し物と考えるのとどっこいの雑推理極まってるよね。


 ちなみにその次に思い付いたのは「なんらかの理由で裸になる必要があったのだとしたら……」というものなんだけど、その仮定にはまず白衣の下が全裸であったという前提が必要になる。そんな変態がいた場所に立っているとか考えるだけでも気分が悪くなるのでこの想定もまあありえないよね。


 ……でも念の為、白衣に触った部位の消毒くらいはしとこうかな。唯ちゃんの手もキレイキレイにしとこうね〜。



 とまあこんな感じで、我ながら妄想力が逞しすぎて逆に何も分からない感じ。


 白衣は確かにここにある。つまりは誰かがこの場所に来た。


 いま確定しているのはこれだけだ。


「ふむぅ。……とりあえず当初の予定通り、日本(向こう)行こっか」


「え、これはこのままでいいんですか?」


「だって何も分からないでしょ。ここでこれ以上考えてても答えなんか出ないからねー」


 分からないものは仕方ない。いくら考えたところでどうしたって想像の域を出ることは無いんだから、そんなの考えるだけ無駄というものだ。妄想と大して変わらないよね。


 個人的な感想で言えば妄想自体は好きな方だし、完全に無駄という訳でもないんだけど、唯ちゃんの情報によってこの白衣の持ち主は彼女の父親である可能性が極めて高い現状にある。そんな状況で妄想してもさ、ほら。想像される絵面が醜いというかね? おっさんがどんな状況で白衣を脱いだのかーとか、別にそんなの興味もないし。妄想だって捗らないよね。


 というわけで、拾得物は《アイテムボックス》に放り込んでさっさと白い世界を後にした。


 世界の境目に蓋をするように置いておいた魔力塊が無くなっていたことから、やっぱり誰かしらは来たんだろうな〜、なんてことを思っているうちに無事到着。懐かしささえ覚えるあの理科室っぽい部屋へと何事もなく辿り着いた。


 ……うん、間違いなく前回と同じ場所に辿り着いたはず。


 目に映る状況その他は前とは全然違うけどね。


「…………ふむ」


 とりあえず、人がいっぱい居る。ざっと見た感じ十三人かな。拾ったのと同じような白衣を着た人がわりかし多いね。


 なんか一人だけドギツイ色のスーツにグラサンつけた明らかに場違い感あふれた人もいるけど、見た感じこの人がここで一番権力持ってそう。唯ちゃんの父親の可能性も無くはないけど、それにしては若すぎる……か? こんなあからさまにヤの付く職業っぽい格好してる人初めて見たわ。コスプレかよ。


「……美しい」


 誰もが突然現れた私たちに驚愕の表情を向けて固まる中で、奥の方で呟く声が聞こえた。どうやら机の陰から薄い頭皮を覗かせていたおっさんの発言らしい。


 視線の向きからして恐らく私を見ての発言だろうが、おっさんに褒められても正直全然嬉しくないね。


 てか私ってカワイイ系だし。美しいってのはちょっと違うんじゃないかな。


「な、なんだお前たちは? 今、どこから現れた!?」


 美しいってのはお母様やお姉様みたいな……とか思ってたら、我に返ったヤーさんっぽい人が懐から拳銃を取り出して誰何してきた。ここで「魔法の国からお仕置に来ました」とか言ったらどんな反応するかなー、という欲が湧いてきたものの、私は空気の読める女。唯ちゃんが恐怖に身を竦ませたのを肌で感じて、即座に思考を戦闘用のものに切り替えた。


 ――お前、唯ちゃんを怖がらせたな? 覚悟は既に済んでるんだろうな?


 拳銃を向けられた恐怖は思ったよりも感じなかった。


 そりゃ防御魔法のかかってない状態で食らったら致命傷になることもあるんだろうけど、そもそも向けられてる殺気がカスすぎる。こんなゴミみたいに半端な殺気、ミュラーに向けたらその瞬間に終わってるよ?


 どうあっても脅威にはならないだろうが、念には念を入れて、展開済みの《並列思考》のひとつにこの男の観測を任せた。


 部屋の中にいる全員の思考に挙動、体温、空気の流れさえも完全に把握している私の前で、唯ちゃんに武器を向けたその愚行。これから存分に反省させてあげるよ。さーて、いっくよー?


いざという時にならないと頼りにならないけど、いざという時には頼りになる。

それがソフィアという女の子です。

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