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なんか聞き流してるうちに終わったっぽい


 そもそも喪神病とは何が原因で発症するのか。何故発症した人は意識を失ってしまうのか。


 それは「そうあれ」と女神様が定めたからだ。


 女神様の被造物であるにも関わらず、人間が感情を昂らせる様は実に醜い。故に女神様は喪神病という病をこの世界に蔓延らせた。要は「もうちょっと大人しくしようね」という意味を込めて一定以上の感情を強制的に排したのだ。



 ――というのが、私の知る喪神病の成り立ちなんだけど……これツッコミどころが多すぎるよね。女神様が定めた仕組みを「〜〜病」って呼ぶとかウソでしょって思うもん。


 なお神様(リンゼちゃん)情報によると、喪神病は戦争大好きな人間共がこの世界を壊さない為に作ったシステムなんだそうな。冗談っぽく改変したはずの「ちょっと大人しくしようね」がドンピシャすぎて笑うしかない。


 そしてそんな裏情報を知らないと思われるお母様達は、飽きもせずに喪神病の扱いについて熱い討論を交わしていた。


「納得……は、させられるかもしれないわね〜。彼らも一度は諦めていたはずだものね〜」


「【聖女】であるソフィアが『治療の要なし』と判断した。つまりはそれこそが女神様の御心ということにはなりませんか? 人の傲慢によって【聖女】を危険に晒す行為自体が――」


「結論を焦ってはなりません。これまで喪神病は早期に目覚めなければ治らないものとされていましたが、ソフィアは既にその常識を覆してしまっているのです。今回の件で無理に命を繋ぎ止めていた者たちが蘇生したことについてはどのように説明するつもりですか? 今までに諦めていた命だって、ソフィアがいれば助かっていた可能性もあったのだと言われてしまえば――」


 ……今更だけど、私ね。すっげー場違いじゃないかと思うんだわ。


 皆が真面目に話し合ってる時に、お兄様に抱きかかえられながらおやつタイムとか、なに? 私ってば赤ちゃんか何か? って感じ。


 まあ赤ちゃんになるだけでお兄様に『あーん♪』してもらえるならいくらだって赤ちゃんになるけど、お母様どころか王妃様の目の前でってのは流石にちょっと恥ずかしさがあるよね。本当にどの口がって感じだけど、私にだって羞恥心くらいあるんだよこれでも。


 ただ単にお兄様の圧倒的包容力と王妃様提供のお菓子の破滅的魅力の前ではその程度の恥ずかしさは無にも等しいってだけでね。恥ずかしさ自体はあるの。ただ優先順位が下の方になっちゃってるだけなの。


 だからできることなら私も話し合いに参加してね。お兄様に「すごい! ソフィアは本当に凄いね! 流石は僕の妹だよ!」って言ってもらいたかったりするんだけど……なんか私の知らないこともふつーに話してるし、あと単純に話の内容が重い。重すぎる。命とかなんとか、そんなのこっちが考えることじゃなくない?


 助けて感謝されるなら分かるけど、助けなかったからって死ぬわけじゃないじゃん。目覚めないだけじゃん、現状維持じゃん。その辺から意識が擦れ違ってる感じするんだよねー。


 そもそも私には喪神病の人を治療する義務なんてない。頼まれたから応えただけの善意の協力者だ。ぶっちゃけ面倒な事になるならさっさと手を引いておさらばしたい。


 ……っていうか、なんかもうそれでよくない?


 大人達がどんな結論を出そうが結局治療するのって私だろうし、なら私が「もう治療しませーん」って断言しちゃえばそれで済むよーな話な気がしなくもない。


 言う? 言っちゃう? 言ってみちゃう?

 ……とか考えてる間に大人達の話し合いは終わっていた。どうやらお兄様に甘えながら至高のお菓子を味わっていたせいで私の思考スピードは普段より格段に落ちていたらしい。なんてこったい。


 で、私が恥ずかしい姿を晒してる間に終わってしまった話し合いの結果によると、どうやら以後の喪神病の治療についてはナシという方向で固まったらしい。なんでもお兄様が強硬に主張した「治療に伴う危険性」が重く受け止めた結果だとか……でもその流れで私がお母様に叱られることになったのは流石になんかおかしくないかな。


 危険性の説明を怠ったって理由で怒られたけど、怠ってないよ? 私、ちゃんと言ったよね? 喪神病の治療は魔力の操作に慣れてないと危なそうだよーって。


 魔力を操るのが得意な私なら危険性はほとんど無くて、最悪の場合でも目覚める可能性のほとんど無かった人物が私が治療を施したその日に偶然、確実に目覚めなくなっちゃうってだけの話で。私が治療する場合に限れば危険なんてほとんど無いのよ。


 ってゆーかよくよく考えたら、この説明してた時も説明途中でお母様に叱られて話が脱線してた気がする。つまり私は説明しようとしたのにお母様が自分で話を打ち切ってたってことだね。だれかお母様を叱る人物用意してください。


 王妃様……だと、力関係は微妙にお母様が優位みたいだし、お兄様に頼むと私が調子に乗りすぎちゃう恐れがある。お父様に頼むと後で私が報復される。


 ふむ。……ここは女神(ヨル)に頼むのがもっとも適当な――とか、わりとがっつり作戦を考えてたんだけど、お母様が心底お疲れな溜め息を漏らしたことで私の腹いせ計画は終焉を迎えた。


 ……んー、なんというか、お母様って実際私のせいでお疲れな部分ってあると思うんだよね。精神面に限らず、肉体的な部分でも結構、面倒事の後始末とかで、ほら……ねぇ?


 だからなんか、急に申し訳ない気分になったというか。叱ってくれるのも愛情と分かってはいるし……ねぇ?



 結局その日は激論を交わしてお疲れ気味の三人にこっそり《快眠》の魔法など掛けてみたのだけど。


 翌日またちくちくと元気にお小言を飛ばしてくるお母様を見て、私は思ったのだった。お母様はお疲れ気味なくらいが丁度いいな……と。


当事者なのに驚く程に他人事な聖女様。

ある者はその姿を見て「心が強いのね」と感心し、ある者は「やはりお菓子は止めるべきでしたか……」と反省し。またある者は「この子の未来を守らないと」と改めて決意を固めていた。

皆、同じ人物を見た感想である。

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