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私のヒーロー超かっこよー!!


 お母様と王妃様があらゆる手段で私に言うことを聞かせようとしてくるのをのらりくらりと躱していると、ようやくこのやり方では埒が明かないと悟ったのか、お母様が意味ありげな視線をお兄様に送った。それは私がこの話の最中、ずっと警戒していた動きだった。


 ……私がピンチな状態にあるのを見過ごしてた時点で気付いてたけど、やっぱりお兄様は今現在、私を助けられない状態にあるんだなぁ。とっくに分かってた事とはいえちょっぴりショック……。


 私が悲しんでいることが伝わったのか、お兄様の表情が後悔に押し潰されるような痛ましげなものに変わったのが見えた。ショックはショックだけどお兄様が無条件で私を売り渡したなどとは思っていない。だからどうか、そんな悲痛な顔はしないで欲しい……。


 お兄様の苦悩を少しでも軽減する為、私は出来るだけ軽い調子で先手を取った。


「ちなみにお兄様はどう思われますか? やはりお兄様も、救いを求める声には無条件で応える方が聖女らしいと思うでしょうか? 実際お兄様の自慢の妹と言う立場を強化するのは悪い話ではないんですよね……」


 ふーむ、と悩んでいる素振りを見せる。いや、実際に悩んでいないこともないのだが。


 確かに。確かにまた喪神病の治療をやらされるなんて、考えただけでも「うげぇ」って気分になるのは確かなんだが、でも私が断ったせいでお兄様が苦労をするようなことになるなら話は変わる。


 私が嫌なのは正当な対価も無く気軽にポイポイ頼まれることで、喪神病の治療をすること自体が死ぬほど嫌いな訳では無い。むしろ他人の命を握っているという緊張感はそんなに……って、これはまぁ今は関係の無いことだったね。


 ともかく、多少の段取りを整えてくれるとはいえ基本的に頼んでおしまいの王妃様と、これまたやって当たり前の貴族の義務大好きお母様からのお願いでは欠片もやる気が湧かないのに対し、お兄様の利になるという理由は私にとって充分に動く活力になるのである。


 これが所謂(いわゆる)「普段の行いがものをいう」というやつだよね。普段から優しいお兄様のこと、ソフィアは大好きだもーん。助けになりたいと思って当然だよね♪


 だからまぁ、めんどくさい喪神病の治療をやることになっても仕方ないかなーと普通に諦めていたんだけど、お兄様は私の想像なんて軽く超越した、理想に美化を十回ぐらい重ねがけしたみたいな究極最高のお兄様だった。


「――いや、やっぱりソフィアのやるべき事じゃない。これは僕ら大人が背負うべき責任だよ」


「……ロランド?」


 約束を違えるのか、とでも言いたげなお母様の咎めるような視線に対して、お兄様は臆することなく立ち向かった。「自分は何も間違ったことを言っていない」という態度を余すことなく伝えるその表情は、実に気高く、あまりにも凛々しくて。私は迂闊にも数秒の間、呼吸をするのさえ忘れていたように思う。


 ……うちのお兄様カッコよすぎない? 食べたもの全部吐き出しそうなくらいハートに重いの突き刺さったんですけど??


 何かしらの理由によって、今日のお兄様は私を守ってはくれないだろう。そういう場がお母様と王妃様のよってここには既に作られている。


 そう思っていただけにこの不意打ちは効いた。めちゃくちゃに効いた。


 今ならお兄様に「僕の為に風俗行って稼いできてくれる? 稼ぎは全部パチンコに注ぎ込む予定だけど構わないよね?」とか言われたって「それがお兄様の望みなら喜んで♪」と答えてしまいそうなくらいには心がガッツリ持ってかれてる。キューピットが矢と間違えてバズーカ撃ち込んできたんじゃないかってくらいエグいレベルでハートが撃ち抜かれてる。え、これ心臓死んでない? 私まだ生きてるよね? これって全部夢じゃないよね??


 お兄様かっこよー!!! 超かっこよー!!!

 私のお兄様最高かよーー!! 惚れるわこんなの実の兄だってムリだってこんなの!!!! 夢ならここままゴールインしてーーーー!!!


 お兄様のあまりのカッコ良さに当てられて私の精神は崩壊した。だがそんな状態でも瞳と耳と嗅覚でお兄様を追い求めるのが私である。


 ああもうっ、料理の匂い邪魔ァ!! お兄様の匂いが嗅げないじゃないかあぁぁ!!


「母上は、喪神病の治療がどれほどの危険を伴うものかを正しく認識していますか? 実際に喪神病の者に対して治療を試みたことはありますか?」


「……ソフィアの立ち会いの元でなら、一度だけ」


「僕は一人で試みました。もちろん相手方の了承を取った上で、自分なりに万全の準備を整えて望んだつもりでしたが……その治療は、失敗しました」


「は?」


「今朝のことです。幸い、と言っていいのかは分かりませんが……相手の命にも、僕の状態にも影響はありませんでした。……ただ、患者をいたずらに傷つけただけで終わりました」


 お母様が、あの無表情と笑顔の仮面しか顔面のパターンが無いのではないかとすら疑っていたお母様が、目をまん丸にして驚いている。多分私も似たような表情になっていると思う。


 え? なに? 何が始まったの? カッコイイお兄様が……え? 喪神病の治療? ……それってもしかしたら、この超最高のお兄様の精神が変質してた可能性もあるってこと?



 ――目の前で繰り広げられている会話が、どこか遠くの世界の出来事のように感じられる。



 ――ふわふわと浮かぶ私の意識は、いったいどこを向いているのか。



 私にはもはや何も分からない。


 今の私に分かることは、真剣に語るお兄様の横顔は頭を空っぽにして見ても最高に格好良いという事実だけだ。


頼り甲斐がありすぎて、危険な事にも割と突っ込んでいっちゃう困った兄です。でもソフィアとしてはそこも含めて大好きらしい。

ただ親としては、ある意味ソフィア以上に扱いづらいようで。

間違いなく優秀なのに、何故かいつまでも目の離せない子供しかいないことに、アイリスは今日も深い溜め息を吐いているようです。

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