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真・お説教モード


 私の発言が何かの琴線に触れたっぽい。今まで王妃様に遠慮してか過激な発言を抑えていたお母様が、私に対して明確に怒っているのが感じられる。


 はわわ、はわわわ、どうしようこれ。


 そりゃ普段から迷惑かけてる自覚はあるし、その事については悪いなーと思ってもいるけど、私が迷惑かけないような立ち回りなんかしたらむしろ余計にお母様の怒りを買いそうじゃない? 「こそこそと何を勝手なことをしているんです?」って迫ってくるお母様の顔が浮かぶようだよ。


 つまりこれで怒られるのは理不尽なのではないかと思うわけ。


 それにさ? 私が喪神病の治療するのって今回限りの話だったじゃん? その辺りが華麗にスルーされてるのっておかしいんじゃないかと思うんだよね。



 ――よし、この辺を主軸に戦おう。世界は子供の味方だ、いけるいける。


 そう決意した私は食器を置き、キッ! と顔を上げ――絶対零度を思わせるお母様の眼差しを見て、即座に視線をお皿に戻した。その間、僅か一秒にも満たない早業だった。


 いやあれはムリでしょ。ムリムリカタツムリだって、なんならこの場からだって逃げ出したいよ。アレがこっち見てるって思うだけで鳥肌から羽毛が逃げ出しちゃうよ、羽生えてないけど。


 自分で自分の反応速度にびっくりした。本能ってすごいね、ちゃんと危険を嗅ぎ分けるんだね。


「――ソフィア」


「はい」


 辛うじて人語で返すことが出来た。気を張っていなければ「へひゃぁい!」なんて謎の赤ちゃん声地味たものを返すことになっていたかもしれない。私超がんばったと思う。


 がんばったついでになけなしの勇気が私に囁く。

「これもうムリじゃね?」「全面降伏した方が身のためだって」と。私の持つ勇気は私に似て勝てない戦いはしない主義だった。


 しかし勇気さんの言う通りだ。何も正面切って言い負かすことだけが戦いじゃない。むしろ言いくるめるやり方こそが私の本領と言っても過言ではない。


 ここは視点を変えるべきだ。でないと今にも心が屈服しきってお母様の言いなり人形になってしまう自信がある。こんな自信はいらないのだけど、本能のままに生きてる影響か本能が「勝てない」と強く認識した相手にはとことん弱くなるのが私という人間で、お母様はそれを分かっていて私を勢いのみで封じ込めようとしているようなきらいがある。そんな思惑には断じてのせられる訳にはいかない。


 この勝負に限っていえば「分かりました治療します!」と私が言わない限りこちら側の敗北はない。つまり私にとってかなり有利な条件で勝負に挑めているということ。このアドバンテージを活かさない手はない。


 立場は明らかに私有利のはずなのに、それを勢いのみでひっくり返そうとは……お母様ってばなんて姑息なんだろうね。それが貴族のやり方なのかな? ってネチネチ問い詰めてやりたい気分に駆られるが、実際にそれをやると最終的に負けるのは私なのが見え切っているのでここは黙っているのが正解である。優秀なソフィアちゃんは過去の失敗に学ぶのである。えっへん。


「貴女はまだ子供です。こう言うと貴女は反発するかもしれませんが、貴女はまだ世界のことをよく理解していない子供なのです。子供だからこそ許されていた行動や発言があるのだということをそろそろ知るべき時でしょう。……本来はまだ守られるだけの存在であるべき貴女に有り得ない程の重責を負わせてしまっていることについては、私も不甲斐なく思っています。しかし行動には責任が伴うもの。一度引き受けた仕事にも責任が伴うのが、大人の世界での常識なのです。『もうやだ』だとか、『やっぱりやめた』が通じるのは、貴女が子供でいる今だけなのですよ。そのことを強く自覚しなければなりません」


 おうふ、真面目モードだ。お母様が真・お説教モードに入っておられる。


 理不尽に雰囲気だけで恐がらせられるのも嫌だけれど、こう真面目に叱られるのも心にズドンとクるものがある。私的にはもう少し緩い感じが好みなんだけどなー。


「つまり今はまだ我儘を言っても許されるってことですね?」


 一気に固くなった空気を解す意味も込めて、まだまだ続きそうな話の合間に「ですよね?」と確認するように尋ねると、お母様は少し悩んだ後、呆れたように溜め息を吐いた。まるで私の考えなんか全てお見通しと言わんばかりの態度だった。


「……そのような受け取り方が出来るのも、ソフィアの長所……なのでしょうね」


 ……いや、これはどっちだ? 単に本心から呆れ返っているだけかな? 溜め息の深さが尋常ではない長さだったような気がしないでもないが、お母様の溜め息っていつもこんなもんだったよと言われれば「確かにそうだね」で済む話なような気もする。


 考えていることが全部筒抜けじゃないのは助かるけど、これはこれでなんとも言えない悲しさがあるな。


 私とお母様がいつも通りのやり取りをしている横では、話の最中に急にお説教が始まり、かと思えば唐突な終わり方を見せた我が家特有のお説教風景に驚いた様子の王妃様がいた。笑顔の仮面は健在なのに頭の上にはてなマークが見える、実に面白い状態になっているようだ。


 ……ふむ。王妃様は意外と予想外の事態に弱いのかな?


 声を飛ばす魔法《しゃべる君》でお母様の声を耳元に飛ばし「愛していますよ、レイネシア」とか囁かせたら冷静な思考力を奪えるかもしれない。


 私は今思いついた作戦をそっと心のメモに書き記した。お母様が一瞬、鋭い目で見つめてきたのにはもちろん、全力で気付かないフリをした。


ただのお説教モードだろうが真・お説教モードだろうがソフィアは逃げます。全力で逃げます。たとえ王妃が同じ場にいたってあらゆる手段を使って逃れることに全力を尽くします。間違いなく逃げ出します。

それを知っている母に残された手段は、せめて娘が物理的に逃げ出さないよう程々で話を収めることくらいでした。逃亡魔法に精通した娘、強敵すぎる。

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