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本能が選んだ回避策


 謎の異常な眠気を抱えたまま夕食の席へと移動した私は、そこでありえない姿を見た。


 ――午後に来て既に帰ったはずの王妃様が、何故かしれっとした顔でお父様の席に居座っていたのだ。


 私は直ぐに理解したね。


 ああ、これは夢だって。私はまだ寝ていたんだって。だから身体が変に重かったんだね、今すごく納得した。


 夢の中で身体を動かすのって違和感あるじゃん? 私の状態って多分それだよ。まさか夢の中で寝惚けスタートするとは思わなかったから油断したねー。


 そっかそっか、夢だから帰ってないはずのお兄様もこの場にいるのか。となると、まさか唯ちゃんの隣りの空席はリンゼちゃんが座ったりとか? わぁい、リンゼちゃんと一緒にご飯食べれるの嬉しいなー。


「ソフィア。早く挨拶をして席に着きなさい。いつまで惚けているつもりですか?」


 夢の中でもお母様は口うるさい。というか私の夢ならお母様も王妃様もいらないんだけど。


 どうせ夢ならダンディに成長したイケおじお兄様とか美しく性転換した女体化お兄様とか、お兄様のフルコースが座席にずらりと並んでいてもいいと思うのだけど。もちろんエスコート役は私の大好きなありのままの姿のお兄様で、甲斐甲斐しく私のお世話を焼いてくれるのだ。うふふん、今からでもお兄様に埋め尽くされた幸福な夢に変わらないかなー。


 そんなことを考えていたら、僅かに目線を鋭くしたお母様が「……言っておきますが、現実逃避をしていても何も変わりませんよ。大人しく席に着きなさい」と再度の着席を促してきた。


 夢の中で現実逃避するなとはこれ如何に。


 むしろ夢の中でくらい現実逃避させてくださいよ〜。


「……? ソフィア? ……もしかしてまだ寝惚けてるの? 全く……あんまり世話を焼かせないでよね」


 リアルな夢だな〜と思いながら突っ立ってたら、リンゼちゃんがまたやってきて私の席まで手を引いてくれた。なるほど? 特定の行動を強いるパターンだね。私が席に座ると何かが起こると。


 こういう時は流れに逆らうとすぐに目が覚めることが多いんだよね。


 というわけで、夢の世界の住人であるリンゼちゃんに思う存分セクハラしよう――とする前に、念の為に自分のほっぺたを捻ってみた。防御魔法を解除して、痛みを感じる状態にして、ぎゅーっ!


「……ひはい(痛い)


「……なにやってるの?」


 はい、そうですよね。そんな気はしてたんですよね。これ全部現実ですよね。


 特大の溜め息を吐きたい気分を我慢して顔を上げると、相変わらず何を考えているのかまったく読めないニコニコした顔の王妃様が見える。その近くには笑顔ながらも怒りのオーラが漏れ出しているお母様もいるが、そちらは極力見ないようにした。


 えーっと、なんだったっけ。あ、そうか。私まだ王妃様に挨拶してない。


 お母様ならそれはキレるわ、むしろここまで怒られてないことが奇跡みたいなもんだ。王妃様の意向かな? いや、不確かな予測は止めておこう。


 自分の席に辿り着いて座る前に遅ればせながら挨拶をした。距離が最も近づく位置についてから挨拶をするのは、別に不自然な行いではない。


 ……まあ、もっとも。それが入室時に一切挨拶をしない理由にはならないんだけどね。


「一日に二度もお見えになるとは思いもしませんでした。驚きのあまり挨拶が遅れてしまったことを、どうかお許し頂ければ幸いです」


「あらあら〜、そんなに固くならなくていいのよ〜。私は普段のかわいらしい聖女ちゃんを見に来たんだからね♪」


「絶対嘘だろ」と思いはしたものの、当然そんな言葉を口に出すはずもなく。「寛大なお心に感謝します」と無難な返しをしたところでお母様の怒りゲージが収まるのを確認した。


 一旦収まった程度だけどこれが大きい。今のうちに対処が出来れば被害はゼロだ、がんばっちゃお。


 とりあえずお母様の望むとおりに王妃様の相手に集中しようか。私の軽妙なトーク術をみるがいい〜。


「こんな顔で良ければいくらでもどうぞ」


 きゃるんっ♪ とキメ顔をして見せると王妃様は楽しそうにくすくす笑った。コミュニケーション大成功だ。


「あら、本当に? それじゃあ今日は私の膝に座って食事にしない?」


 ごめんなさい嘘です。適当なこと言ってごめんなさい、本当に反省してるから許してください……。


 変な要求押し付けてくるのやめてよぉ!! そーゆーの要求されると私悪くないのにお母様が怖い目で見てくるんですようぅぅ!!


「はは、あはは……ご冗談を……。それに私と話すよりも、お母様とお話をした方がきっと話も合うと思いますよ?」


「私は聖女ちゃんとお話がしたいんだけどな〜」


 子供みたいなこと言ってもダメです。イヤです。私は王妃様とお話なんかしたくありません。


 助けてお兄様、あるいはお母様! とこっそり救援のサインを送ると、お母様が即座に反応した。だがその口から語られた言葉は、王妃様の登場以上のインパクトでもって私の精神に直撃した。


「レイネシア、戯れるのもその辺りにしておいてください。また喪神病の治療を依頼しに来たのでしょう? さっさと概要を話してください」


「ああんもう、相変わらずせっかちなんだから〜。そんなに急かさなくても話すわよ〜。奇跡を起こす聖女ちゃんは、困っている人がいたらきっと助けてくれるものね〜?」



 ――私が感じていた妙な眠気は、どうやら危険を回避しようとする本能からの警鐘だったようだ。


ソフィアの肉体はハイスペックなのです。肉体だけはね。

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