ショタの来訪
来客は予想通り王妃様だった。しかし、予想とは異なっていた部分もあった。
なんと我が家に来訪した王妃様の後ろには、何故かアーサーくんが可愛らしくちょこんとくっついて来ていたのだった。その姿を見た瞬間、私のテンションが爆上がりしたことは言うまでもない。
びば、ショタっこ。びば、可愛くてキレイなお子様天使ィー!!
ロリロリ天国の後にショタ成分まで用意してくれるとは、どうやらこの世界の神様はまだまだ私を見捨ててはいなかったらしい。それどころか私専用のシフトを敷いて過剰な程に甘やかしてくれてる雰囲気さえあるよね。
やはり唯ちゃんが創造神な世界は格が違った。この世界は私にとってあまりにも過ごしやすい環境でホント困っちゃう。元の世界の事とかどうしようかな。
ともあれ、今は王妃様への対応を完璧にこなすべき時だ。アーサーくんの来訪でお母様も驚いている様子とはいえ、相手が相手なので貴族としての礼を失する態度を取ったら後で特大級の雷が落ちる。運良く雷が回避できても再教育という名のお説教が待ってる。そんなお休みの過ごし方を私は決して望んではいない。
大人同士が形式ばった挨拶を交わしている間、私は清楚可憐なお人形さんになることに徹していた。同じく品行方正な王子様を演じているアーサーくんに自然と目がいくが、やはりアーサーくんが我が家にいるという現状に違和感を覚える。ていうか本当になんで来たんだ??
想像力には自信のある私をしても、来客があると聞いた時点で「王妃様が来たのかな?」くらいまでは予想出来ても流石にアーサーくんがいることまでは想像がつかなかった。ヘレナさんの研究室以外での関わりはゼロだったと思うんだけど、もしかしてお母様と何かしらの関わりがあったりするのかしら。うちのお母様は王妃様と仲良いみたいだしそれも充分にありうる話だ。
……もしも、万が一、多分ありえないことだとは思うんだけど、もし仮にアーサーくんが「ソフィアお姉ちゃんに会いたくて……きちゃった」なんて可愛らしい理由で我が家に訪れたのだったとしたら、それこそ子供は子供同士との言い分をゴリ押してでも無理矢理通してお母様の執務室に二人で直行。リンゼちゃん唯ちゃんの美少女コンビに生意気系イケショタのアーサーくんを加えたこの世の楽園を築く心の準備は万端用意が調っていると言わざるを得ない。
私一人でからかってる時でさえアーサーくんの反応ははちゃめちゃに楽しいのに、私レベルの顔面偏差値を持つ美幼女二人に囲まれちゃったりなんかしたら、アーサーくんは一体どれだけの楽しみを私に提供してくれることになるのだろうか。それはさぞかし幸福な時間になることは間違いない。想像しただけでお姉さんはヨダレが出ちゃうよ、うへへうへへぃ。
思わず妄想の翼をはためかせてしまった瞬間、ピリッ! とした空気が向けられているのを察知した。お母様からの厳しい視線を頭頂部の辺りに感じつつ、淑やかな貴族令嬢を演出することに注力する。この顔面を澄まし顔で固める技術も、気付けば随分と上達してしまったものだと思う。
……ああ、アーサーくんが猫被ってる私を不思議そうに見ている。
ヘレナさんのとこでは私、大分はっちゃけた言動をしているからね。印象が違って驚いたのかな? 心配しなくても同一人物だから安心してね。
王妃様の足元にくっついて、さも「ボク人見知りなんですぅ。人前に出るのは怖いんですぅ」みたいな態度をとってらっしゃる本性は小生意気な王子様と同じですよ、という意図を込めて上品な笑顔をサービスしてあげた。
見本みたいにキレイな、まるで花が綻ぶような笑顔を作って向けてあげると、アーサーくんは口をきゅっと引き結んですぐに王妃様の向こう側へと引っ込んでしまった。表情は見えなくなってしまったが、その耳がうっすらと赤く色付いている事までは隠せていない。
全くもう……アーサーくんってば、なんなの? なんでそんな無駄な動きをするの?
いやいやもう本当にさあ……君は私をどうしたいの? ケダモノにしたいの? 私をこれ以上魅了して嫁にでもしたいの? おのれは私を萌え殺す気かっての!!
アーサーくんとの無言のやり取りを楽しんでいると、急速に王妃様の発する存在感が増したことに気付く。
反射的に思わず上げてしまった視線を真っ向から捕らえられると、まるで私に言い聞かせるように強い眼力で見つめられたまま、アーサーくんがここに来ている理由を言い渡された。
「急な訪問になってしまったことをまずは謝らせてくださいね。昨日の件で聖女ちゃんが倒れたことを伝えたら、この子がどうしてもお見舞いに行きたいと言って聞かなくて……」
「……っ! …………ッ!」
わー。恥ずかしがってるアーサーくんかーわーいーいー。お母さんに無言で駄々こねてる姿とか永久保存物では??
じゃなくて。
えっと……あれ? この人、以前は確かヒースクリフ王子の恋愛を応援してる感じじゃなかったっけ? ……もしかして単に身近な恋愛話に飢えてるだけだったり?
――あるいは、私に宛てがえるのならどの王子でも構わない、とか?
その可能性に気付きはしたものの、私はあえてなにも気づかなかったフリをした。
王妃様が相手だと感情すらも手のひらの上で操られそうだからね。下手な反応は不利益にしかならないだろうと咄嗟に判断してのことだ。
……まあ私の感情程度、既にバレてる可能性も高そうだけど。
それもこれもアーサーくんが可愛すぎるのが悪い! あらゆる行動で私を魅了してくるのが悪いんだよおぉぉ!!
お出迎え前→「王妃様だったら油断は出来ない……気をつけなくちゃ」
お出迎え後→「アーサーくんかわいいよおおぉぉぉ!!」
ソフィアは己の欲望を最優先に生きています。




