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微妙に安らげないおやつタイム


 ――おかしい。絶対におかしい。


 リンゼちゃん、唯ちゃんと一緒におやつタイム。それはいい。お母様がいるのもいい。ここはお母様の執務室だしお母様にはこの場所にいる権利がある。急遽二人増えた分のお菓子も補充した。準備自体になんら不備があった訳では無い。


 私が不満に感じていることはただひとつ。


 お母様と横並びに座ったこの座席の位置にあった。


「……なんで私がお母様の隣りなんですか?」


「なにか不満でも?」


 むしろ不満しかないわい!! 唯ちゃんからの「あーん」がこれでは貰えないではないですか!? お母様のおバカぁ!!


 礼儀作法に厳しいお母様の隣りでは気軽に紅茶を飲むことすらできやしない。


 それは対面でも変わらないと言えば変わらないのだけど、やっぱり物理的な距離が近いとね。圧迫感も違うというかね。視線の圧が対面に座った時よりも断然強いような気がするんだ。


 あとアレ。対面だとお母様の目を盗むタイミングも掴みやすいけど、横に座られてると確認の為に顔を上げただけで「……なにか?」って目に打ち据えられちゃうのがどーにも堪らん。魔法を使えばお母様にバレることなく気を抜くタイミングを窺うことも出来はするけど、気を休める為に気を張ってるんじゃ何の為に魔法使ってるんだか分からないって事態になっちゃう。それじゃあ本末転倒なのよね。


 不機嫌を持続させる私に「何がそんなに不満なんだか……」とお母様が困惑を見せ始めた頃、見兼ねたリンゼちゃんから「ソフィアにはお菓子でも食べさせておけば大抵の問題は解決します」なんて暴言が飛び出してきた。このツンツンメイドちゃんが素直で可愛い唯ちゃんを元にして生まれた存在だなんて私は今でも信じられない。


 まあ顔が可愛いだけで全ては容易く許せちゃうけど。


 って、いやいや。仕えるご主人様を軽く見た発言を許しちゃいけない。敬うべきご主人様をむしろ見下しているかのようなその態度、断じて許すまじなんだよ! お母様の目の届かないところでお仕置しちゃうから覚悟してよね、リンゼちゃん!


 キッ、と睨んでみてもリンゼちゃんは何処吹く風。私の抗議の視線なんて存在しないかのように万全の受け流し耐性を備えてらっしゃる。


 そのお澄まし顔をどうやって崩すかと考えただけで、私はもう……もう……ッ!


 うへへ! どんなお仕置しちゃおうかなぁ!


「――ソフィア」


「はいぃっ!」


 嘘ですごめんなさいっ! 精々唯ちゃんと一緒にこちょこちょの刑に処することくらいしか考えていませんでしたっ!


 やりすぎると傍に近寄っただけで逃げられるようになっちゃうだろうし、そうなるとあまりにも悲しすぎるから程々にするつもりではあったんだよ? ホントだよ? と媚びるような上目遣いでお母様を見上げると、意外にもお母様は私の方を向いてはいなかった。やや顔を逸らしたまま、焼き菓子の乗った皿をそっと私の方に差し出してきた。……これはまさか?


「この時間を心待ちにしていたのでしょう? 温かいうちに食べた方が美味しく頂けると思いますよ」


 ――まさか本当に、お菓子で機嫌が治る子供だと思われている……だと?


 お母様にそのように思われていたことが何よりショックだ。


 確かに私の見た目は幼くはあるが、積み重ねた精神の年齢で言えばお母様より多少歳下な程度でしかない。それがこうも露骨に子供扱いされてしまうと……心がだね? なんかこう、キュウッと、引き絞られるような感じがしてね……?


 くううっ、いつまでも成長しないこの幼い身体が恨めしい。


 思えば魔法を併用した徹底的なスキンケアにも問題があるんだろうな。我ながらリンゼちゃんと見比べてもまるで見劣りしていない肌年齢には時折恐怖を感じないこともない。いつまでも子供の肌を保ち続ける己の才能が恐ろしい。


 見た目というのが他人の印象に多大な影響を与える要素であることは自覚している。


 たとえ実年齢が何歳だろうとちっちゃいものはちっちゃい。可愛いものは可愛い。それは普遍の真実なのだ。


「あの、お母様。お気持ちは大変ありがたいのですが……」


「それ、唯が初めて焼いたクッキーよ」


「もぐごくん。えっ、やだ、ものすごく美味しい……もしかして天才……?」


 どうしよう、唯ちゃんが完璧すぎて生きてるのがツラい。素直で可愛くて笑顔が可憐な上に料理上手な妹とか欠点無くない?? お兄様の妹として私も見習わないととか思っちゃったよ。


 お母様がなんか言ってたよーな気もするけどもう忘れた。


 私の全神経は今、唯ちゃんの初めての味を堪能することに集中している。全ての能力を費やしてこのクッキーの味を記憶に留めるべくフル稼働している。


 口に入れた時の食感、舌触り。広がる香りと幸福な味。


 嗚呼……分かるよ。まるで故郷に帰ってきたかのようなこの感覚。このクッキーは私を想って作られたんだってハッキリと分かる。


 唯ちゃんが私を想う気持ち、確かに受け取って――


「……堪能しているところ悪いけれど、そっちは私の作ったものよ。唯が作ったのはその隣りにあるチョコチップ入りのやつね」


「実はそうじゃないかと思ってたんだ」


 どおりで慣れ親しんだ味だと思った。いや美味しいけどね。焼き加減とか完璧すぎると思ったんだ。


 早速教えられた方をもぐむしゃあ。


 ……うん、うん。


 確かに至福って感じる出来栄えではないけど、これはこれでとっても美味しく出来てると思うよ! 流石は私の妹だね!


「あの、私、クッキー作ったの初めてじゃないけど……?」

「いいのよ、ああ言っておけば喜ぶから。実際初めてかどうかなんて大して気にしてないに違いないわ」

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