聖女ちゃんって呼ぶの好きなの?
その部屋には、王妃様の他に昨日私にトラウマを植え付ける原因を作ったヒースクリフ王子もいた。
それを見ただけでもう帰りたい気分。
「ようこそいらっしゃいました、アイリス様。今日は急なお誘いになってしまってごめんなさい」
「それが必要なことなら構いません、レイネシア様」
……!?
あれっ、えっ、相手王妃様だよね!? お母様の方が偉そうじゃないこれ!? どういうことなの!
混乱して辺りを見回せば、お兄様と王子も驚いてた。
そうだよね、変だよね! ここは驚いていい場面だよね!?
私たちの混乱に気付いた王妃様が柔らかく笑う。
「ふふっ。アイリス様は学院時代、大変お世話になった先輩なんです」
いやそれにしたって……そういうもん?
あ、でもその頃はまだお母様公爵家だったはずだから、王家と近しい立場であっても変じゃないのかも。
「そちらはロランドさんね。学院で優秀な成績だと聞いているわ」
「恐縮です。本日の同行を許して頂いたことにも重ねて感謝致します」
「構わないわ。こちらが急に呼び立てたのだもの。そして――」
王妃様の視線が私に向けられる。
「お久しぶりね、聖女ちゃん」
王妃様めっちゃフレンドリーなんですけど。
いや、知ってる。分かってる。現実逃避は良くないって。
王妃様の気安さよりも、他に気にするべきところがあるって。
――なんでこの王妃様にも聖女呼びされてるの??
嫌な予感しかしない。
もうね、考えたくもないんだけど、昨日王子が言ってた「噂の」ってまさか王宮で噂になってるとかじゃないですよね? 違うと言ってくださいお願いします。
「あの、聖女というのは……」
「今日呼んだのは聖女ちゃんのことなの」
あ、ツッコミ禁止です?
そもそもお久しぶりと言われても形だけの挨拶をした記憶しかない。
王族相手とかそう忘れないと思うんだけど、なんとか無難な会話をしてる間に思い出せたらいいなあ……。
「その前に謝罪からさせて頂戴ね。昨日ヒースから話を聞いてビックリしたわ。聖女ちゃん、大変だったでしょ。ごめんなさいね」
「すまなかった」
「えっと……」
王妃様と王子様が揃って謝るなんて何事だい。そもそもなんの謝罪なのか。
聖女呼びのことなら現在進行形で困ってるからやめてくれたらそれでいいんだけど。
それ以外だとなんだろ、ファンのこと? それか王子に手握られたことかな。
「この子の軽率な行いのせいで多数の新入生が喪神病になったと聞いたわ。そちらは聖女ちゃんが帰ったらすぐに治ったらしいのだけど、その、人数が人数だから」
聖女ちゃん呼びが気になってイマイチ話に集中しずらいんだけど普通に名前で呼んでくれないかな。無理かな。
「ああ、そういうことだったの」
納得したのはお母様だ。
昨日の内に学院で起こったことは説明済みだから理解が早い。というか王妃様はもっと分かるように話して欲しい。
でね?
気づいちゃったんだけど、お母様も王妃様が私のこと聖女って呼ぶの知ってたと思うんだ。たまにお仕事で王宮来てたみたいだし。
その上での、なんでもない事のような反応。
もしかしなくても、思い出せない「お久しぶり」からずっと聖女ちゃん呼ばわりされ続けてたり……しそうだよね。
噂の拡散範囲を知るのが怖い。
聖女ちゃんと呼ばれる度にソフィアのMPが1ずつ削られてそう