親族友人が超人まみれな件について
フェル、エッテと一緒に朝の日課を消化しに来たはずが、何故かお母様との魔法談義が始まった。
意味不な理由で叱られるよりかは万倍マシだが身体を動かし足りなくて少し消化不良だったりする。
お母様とする魔法のお話は楽しいから、これはこれで楽しいんだけどねー。
「――つまりソフィアの言うところの『常駐魔法』とは、意識せずに使っている魔法の総称になるのですか?」
「そうです、そうです。お母様だって目を凝らしただけで《魔力視》を発動していたりするでしょう? それと似たようなものですよ」
「私の場合は都度必要に応じて発動しています。ソフィアのように多様な魔法を垂れ流しにするような魔力はありませんよ」
「私も垂れ流してるつもりはないんですが……」
ただお母様と魔法について話してると、ところどころで嫉妬みたいなのが混ざってくるのだけが面倒だよね。そこが可愛らしくもあるんだけどさ。
綺麗で有能なお母様に愛嬌と可愛さ以外のあらゆる面で劣っている私が唯一勝てるのがこの魔法分野だからね。たとえお母様の機嫌が悪くなるとしても、ここだけは譲る訳にはいかないのだ。
「以前にも言ったとは思いますが、私とお母様とで魔力量に大きな差があるわけではありませんよ? むしろ余計な魔力を垂れ流していないからこそ魔法に使える魔力がその分多く確保出来ているのだと思います」
「魔力制御の話ですね。理屈は理解しましたが、それが出来れば苦労はしません。ソフィアは何事も自分基準で考えすぎです。自分の考えがここでは異端であることをもっと自覚するようになさい」
「そんなに変なことを言ってるつもりはないんですけどねー……」
「その認識を先ずは改めなさいと言っています」
むーん、ああ言えばこう言う。
そういうお母様こそ認識を改めて素直に私の言葉を聞き入れればいいのにね。そしたら多分だけど、わりと早めに大気に漂う魔力の活用くらいは出来るようになると思うんだけどなー。
しかし私は聖人君子ではないので、何を言ってもとりあえずは突っかかってくるようなお母様に対して、それでも優しく魔法の効率的な運用方法を教えてあげようなどと考えるような精神はしていない。どうせ教えるならカイルとかカレンちゃんみたいな喜びを素直に表現してくれるタイプがいいです。それなら若者に先を越されて悔しがるお母様も見れるしね?
あの二人は《視覚強化》の習得もやたら早かったし、魔力の扱いに適性があるなら大気中の魔力だってすぐに感じ取れるようになるだろう。そうなれば後はその魔力を自分の魔法に活用するだけ――って、その活用するのにも結構コツがいるんだけどね。
……ただ、そのコツさえも爆速で習得されたら……。お母様だけじゃなくて私まで「ぐぬぬ」ってなるかもしれない……。
カイルはともかく、カレンちゃんは本物の天才だからね。心の準備だけはしとかないと、本気で心が折られちゃうかもしれない。
お母様は私のことを天才だと思ってる節があるけど、世の中には天才って結構いっぱいいるんじゃないかと思う。ミュラーやカレンちゃんは言うに及ばず、ネムちゃんだってそうだしお母様やヘレナさんも国が認めるくらいの天才だし、シャルマさんもお菓子作りの天才でお兄様お姉様も完全無欠の天才人で……。
うん、改めて考えると私の周りって化け物だらけだわ。カイルとマーレの幼馴染み凡人組の存在が今は無性に愛おしく感じる。
改めて実感した近くにいる人達の才能に、はふう、とひとつ溜め息をつけば、お母様はそれを私が疲れたのだと判断したようだ。控えめながらも長く連れ出していたことを詫びて屋敷に戻るよう促してきた。
身体が小さくて見るからに体力無さそうに見えるんだろうけど、魔法で普段から活動の補助をしている私は基本的に疲れとは無縁なんだけどね。その分精神的な疲労は蓄積しやすい気はするので、ここはありがたくお言葉に甘えて帰らせてもらっちゃおうかな。疲れた原因お母様だけどね。
それは考えるだけに留めて素直に戻ることに同意すると、「それでは行きましょうか」なんて言われて何故かお母様に手を繋がれる流れになってしまった。
一緒に帰ることは想定済みでも流石にこれは想定外。
失礼かもだけど、お母様にこうして手を繋がれてると……なんだか連行されてる気分になるんですよねー。
「ソフィア? どうかしましたか? ……やはり昨日の疲れが残っているのではないですか?」
「それもあります」
昨日のは中々苦行度が高かったからね。
そうやって何度も話題に出されると、それだけで疲れがぶり返してくる感じがする。
やっぱり終わったことはすぱーっと忘れて、楽しいことだけを考えていたいよね。
「やはり昨日の治療で疲れたので、今日は一日お兄様に癒してもらおうと思います」
普段家でイチャイチャしてるとお母様がうるさいけど、今日ばかりは許して貰えるよね。何してもらったら疲れが一番取れるかなー♪ なんて考えていたんだけど、世界はそこまで私に甘くはなかったようだ。
「……ロランドは昨日の件で忙しくなると聞いていますよ?」
「……ならお姉様に癒してもらうことにします」
綺麗でかわいいお姉様とイチャイチャするのもいいよね、と思ったら「アリシアも今日は用事が入っているはずですよ。ずっと家を空けているのですから当然ですね」とのこと。お姉様に心の中で同情しといた。
となると……ん? もしかして唯ちゃんくらいしか私の相手してくれる人はいないのかな?
これはもう今日は大人しく休みなさいってことかもしれない。
――どこか寂しさを感じる私が物言いたげなお母様の視線に気付くのは、そのわずか数秒後の出来事だった。
類希なる娘の魔法の才について、嫉妬よりも羨望よりも、実は尊敬の念が誰よりも強い母アイリスではあるが……同時にソフィアの軽率さについてもよく知っているので、どうしてもお小言が増えてしまうのが悩みの種。
とりあえずソフィアは、もっと彼女に真摯に対応するべきだと思います。
 




