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平民の目から見た貴族


 お休みの朝に突如降って湧いたお母様とのお散歩イベント。


 これでクリア報酬が激うまスイーツとかだったらやる気も出るのだけど、そんな上手い話なんてあるわけもなくて。


 お母様の意図を測り兼ねる行動に、私は渋々と従う他ないのだった。


「おはようございます。いつも庭のお手入れありがとうございます」


「おお、ソフィア様じゃないですか! おはようございます! 今日はアイリス様と一緒にお散歩ですか? いやあお二人の美しさの前では俺が丹精込めて育てた華もかすんで見えるもんで、困っちまいますねぇ!」


「あはは……」


 ここにいるはお母様ぞ。そんな言葉遣いで大丈夫か? と思いお母様の顔色をうかがうものの、特に気分を害した様子はないようだった。とりあえずは一安心。


 しかし何が引き金になってお母様の機嫌が悪化するか分からないので、庭師の男性とは軽い挨拶だけを交わして別れを告げた。その間、お母様は【無言の魔女】の二つ名が示すとおり、無駄口は一切叩かなかった。


 ……こんな無愛想な人が雇い主じゃあ雇われる方も大変だな。せめて私くらいは優しくしてあげよう。後でメイドさんに飲み物を届けさせるサービスとかどうかな。


 この新人さんは確か、リンゼちゃんが我が家に来る以前によく私の部屋を掃除してくれていた元気なメイド、ティニアさんを狙っていたはずだ。その恋の橋渡しをしてあげたらきっと喜んでくれると思う。


 期待して待ってるといいよ、青年! と振り返ってみれば、メイドに恋してたはずの彼はお母様の後ろ姿に釘付けだった。もっと言えば、揺れ動くおしりの動きを注視しているように見える。


 我が家にも変態が入り込んでいたことに大分ショックを受けたのだけど、私としてはそれよりも、その足元で私の後ろをちょこちょこと着いてきていたはずのフェルとエッテが花の蜜をちゅーちゅーしてるのが気になりすぎた。


 なんだそれ、いつの間にそんなの貰ってたんだ? 私にもそれ寄越せやぁー!


「……ソフィア?」


「いえ違うんですお母様。今のはあの、その……そう! あの男がお母様のお尻を眺めてたんです!!」


 蜜吸いしたがってた事実を隠すために「今すぐに解雇しましょう!」とばかりに勢い込んではみたものの、その後に続いたお母様からの返答が予想外過ぎて私の思考は吹き飛んでしまった。


「彼は貴族の屋敷で働くのは初めてだそうですから、それも仕方の無いことでしょう。平民から見た貴族とはそういうものです。見目の整った者が多いためにどうしてもそういった視線を向けられることになるのは貴族として生きていく上で避けられない……」


 不自然に言葉を途切れさせたお母様が、私の身体をじっくりと眺める。


 顔をじっと見つめ、胸、お腹と降りていって、腰、太もも、足首まで見下ろす頃には、最初よりも眉が大分下がっているように見えた。多分気の所為だけど、そんなふうに見えた。


 最後には顔に戻ってきて、見つめ返す私の瞳とばっちり視線交わし「ふぅ……」とどこか残念そうな溜め息をひとつ。私のどこがどう残念だったのかを言ってみろやおらぁ。


「……まぁ、ソフィアにはあまり関係の無い話だったかもしれませんね」


「そんなことはないですけどォ!?」


 私だって変態に見初められたことありますしー!! お母様の実家で真性のロリコンにだって絡まれたことあるんですけど!!?


 そりゃあお母様と比べれば貧相な身体でしょうよ。

 胸もないしお尻だって小さいし、女性としての魅力的なパーツは(ことごと)くと言っていいほどに貧弱な装備でしょうよ。そこは認める。


 だが私にはこのさら艶で指通り滑らか極まる髪の毛と! もちぷにっとしてて学院でも大人気の玉のお肌と!


 そしてなにより愛くるしさにおいては学院でもトップクラスにしてお兄様にも「まるで天使みたいだね」と褒めてもらったこの顔面偏差値があるんだからね!!! 胸やお尻なんて所詮は脂肪の塊なんだからね!!!!


 憐れみの篭った眼差しを真っ向から睨みあげると、お母様はそれを負け惜しみであると捉えたようだ。益々憐憫の情を強くしたように見える。


 ……腕で支えられる程の胸がある人には分からないかもしれないけどね。女性の魅力って身体的な特徴に限らないのよ。


 胸なんかなくたってお兄様を満足させることはでき……出来るはず……いやきっと出来ると……。


 …………ううぅうぅちくしょうーー!!


「ていうかなんですかそのポーズは!! お母様普段は胸なんて支えてないじゃないですか!? なんですか自慢ですかもげればいいのに!!」


 荒ぶる感情のままに言葉を吐き出せば、片腕で胸を持ち上げるようなポーズをしているお母様は残念な子を見るような目で嘆息した。


「言葉を慎みなさい。単にソフィアとの差を確かめようと思っただけです。……そんなに心配しなくとも、ソフィアの慎ましやかな身体でも愛してくれる人はきっといますよ」


「ただのロリコンじゃないですかそれぇ!!」


 そんなのやだぁ!! っていうか確かめるまでもないでしょこの差ぁ! やっぱり自慢でしょもげればいいのに!!


 いっそのこと腹いせにお父様でも誘惑してやろうかと思ったけれど、私の得が少なすぎたのでやめておいた。お父様しか得しない作戦とか不毛過ぎる。


 というか、お母様と並んで歩いてると本当にスタイルの差が……。母娘なのだから差があるのが当然とはいえ、それ以上に……ぐぬぬ。



 あーあ。折角もらったおやすみだけど、学院に行って早くカイルで遊びたいなー。そしたらこんなちみっこい私でもそれなりにイケてるって自信が持てると思うんだけどなー。


 人間やっぱり顔ですよ、顔!


 顔面偏差値が何より大事! 他はみーんなおまけ! ……だよね!?


「……私の娘なのに。本当に、なんでこんなに貧相な……」

「心底残念そうにしないでください!!」

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