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ただのぬいぐるみのようだ


「来ましたか」


 お母様の部屋へ赴くと、そこに同席していることを期待していた人の姿は見当たらなかった。失望感から失神して強制退場とかしたくなるよね。


 うぅ、お兄様ぁ。ソフィアにお母様へと立ち向かう勇気をくださいっ!


 本能的に臆する心を奮い立たせ、キリッ! と気合を入れた顔で見上げると、お母様は不思議そうな色合いをその瞳に浮かべていた。私への呆れや諦念、焦燥感や(まま)ならない怒り等々、悲しくも見慣れてしまった感情の一切は感じ取れない。……これは私の願望が見せた幻想ではないはず!


 つまるところ、現状を冷静に判断するに。


 俄には信じ難いことではあるのだけれど、これはもしや叱られないパターンもあるのではないかな?


 奈落へと一直線に向かう昏い穴の真横に突然、燦然と輝く救済への道が開かれた。その光の輝きに魅せられ無条件に飛びつきたくもなっちゃうけれど、いやいや油断は禁物だ。もしも叱られないのだとしたらわざわざこの時間帯に呼び出された理由に説明がつかない。


 お母様が私の睡眠よりも優先したことを考えると、単なるお喋りという線は無くなっている。緊急を要する用件か、さもなくばやっぱり叱る為に呼び出したという可能性しか残らないと思う。


 ……できれば前者でお願いしたいな。それも私に責任がない緊急の案件だったらなおいいね!


 そんな風に思ったのだけど、よくよく考えてみればお母様から伝えられる緊急の用事なんて王族関連か神様関連しか思いつかないことに気が付いた。


 その場合、どちらにせよ面倒というか対処が非常に困難というか、どう転んだところでゆっくり休める未来なんて訪れる気がしない。


 一瞬見えたと思った希望の光は、やはりその先が別の奈落へと繋がっていた。どこにも逃げ場がないというのは予想しててもつらい。とほほんだよぅ。


「何を緊張しているのか大体の察しはつきますが、その件はまた後でお話しましょう。今回呼び出した用件はこちらです。ソフィア、メリーのこの状態について見覚えは?」


「はい?」


 しょぼーんと落ち込んでいる私を見てあわよくば部屋に帰してくれないかと期待したけど、相変わらずのスルー力。お母様に期待するのは無理っぽそうだ。


 だが、今はそれよりもお母様の言葉だ。

 私は机の上に置かれたメリーを改めて眺めた。


 十中八九七面倒臭い頼み事をされると思っていた予想が外れたのは嬉しい誤算だ。嬉しさのあまりちょっぴり気持ちが上向いちゃうよね。


 叱られるのでも面倒事でもなく、用件がメリーの状態についてとは誰に予想ができただろうか。


 お母様の元に預けっぱなしだったメリー関連の話というのは、それはそれで告げ口の心配が極大ではあるのだけども、どうやらそういう内容でもなさそうだった。机の上に置かれたメリーはただのぬいぐるみのように一切の反応を見せない。動きもせず、喋りもしないメリーなんて、これはもうただのクマのぬいぐるみなのではなかろうか。まさか同型のぬいぐるみと入れ替わるサプライズとか? ……仕掛け人がお母様ってことは無さそうだよね?


 とりあえず罠とかではなさそうなので、事情を知るお母様に率直に話を聞いてみた。


「メリーはなんでぬいぐるみのフリなんてしてるんですか?」


 その質問への返答は、ある程度予想はしていたもので……。


「本日の昼過ぎ、急に動かなくなったのです。お陰で提出を予定していた書類を仕上げるのに苦労しました」


 って、いやいや。そこはぬいぐるみに仕事させてるお母様がおかしいんだからね。そこはちゃんと自覚しよう?


 そもそもメリーって私がお母様にプレゼントされたぬいぐるみだからね。それがなんで今ではお母様の助手的なものをやらされているのか不思議でならない。どうせ書類仕事させるなら私がお兄様の為に働かせるのが道理でしょうよ!


 ツッコミどころがポポポンポンと浮かんだけれど、メリーが動かなくなったのは確かに私の睡眠よりも優先される一大事だと言えなくもない。

 それどころか、お母様の仕事を手伝えるだけの能力があるのならば、むしろお母様にとっては私の健康よりも優先して対処したくなる問題だろうことは容易に想像ができてしまった。


 お母様の娘としては、そこはぬいぐるみよりも私の健康の方を心配して欲しかったけどね! でもきっとお母様の頭には「何故メリーは急に動かなくなったのか」という研究者としての知識欲も働いたと思う。ぶっちゃけ私もその謎についてはかなーり気になってるひお陰で呼び出された不満とかそっちのけになってきちゃってる。


 うおー、久々に謎の解明とかしちゃうぞー。深夜テンションでえげつない改造とかも付け足しちゃうぞー。


 まあ深夜テンションと呼ぶにはまだまだ眠気が足りないのだけど、それはそれ。


 何故動くのかさえ疑問が多かったメリーの謎が今、明らかにされる時が遂に来たのだ!!


「うー、ん……? 一応魔力視で見てみたんですが……」


 とはいえちょっと調べた程度でそう簡単に暴けないから謎なのだ。簡単に分かるようならこんな苦労はしていない。


 魔力視で外から診断した限りにおいて、明確な変化と言えるものは……あ、これって悪意が少ないのかな? 魔力との割合を考えると……うん、明らかに前より小さくなってる。


 なるほど。メリーは悪意不足で動けなくなっていたんだね。


 つまり減った悪意を補充すれば、また前みたいに動き回る……?


 ふーむ、不思議な生態だなー。いやぬいぐるみは生き物じゃないから……うん? どういう言葉が適切なんだろ??


ソフィア達が神殿へと行っている間、メリーはずっとアイリスのお手伝いをしていたようです。

なんなら「……とてつもなく役に立つわね」とお褒めの言葉すら貰っていたみたいですよ?

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