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あと十分早く眠っていれば……!


 アジールと遊んだ後にはアネットやアイラさんとも話しをしたし、唯ちゃんがリンゼちゃんを筆頭としたメイドさん達に囲まれてあわあわしている様子も見た。久しぶりの我が家も特に事件などは起きなかったようで何よりである。


 お兄様たちの荷物も忘れずきちんと引き渡したし、これでもう今日するべき私の役目は終わったよね。



 というわけで、満を持して懐かしの部屋(我が城)への帰還を果たす。初期型の戦乙女(ヴァルキリーたん)が部屋の隅に置いてあるのを見ると、いよいよ帰ってきたという実感が湧いてきた。


「はー。……神殿での生活、楽しかったな」


 ベッドに腰を下ろして一息入れると、忘れていた疲労感がゆっくりと全身を満たしていった。この気怠さに任せて眠りに落ちたらどれほどの多幸感が得られるだろうか。


 ……もういい感じに夜も更けてきたことだし。身体は魔法でちゃちゃっと清めて、いつものベッドで最高の睡眠を味わうのも悪くはないかも? と気分を完全な睡眠モードに移行していたところで、突然、扉をノックする音が部屋に響いた。幸福以外の感情を忘れていた意識が一瞬にして現実に引き戻される。


 ……ソフィアちゃん唯一の弱点である「夜ねむくなるのが人よりも早い」ということを知る屋敷の人間の中で、なおかつそれを知りつつもこんな睡眠妨害じみたことが出来る非道な人物は私の知る限りほぼ一人しかいないのだけど、ノックの音がした位置はやたらに低く、響いた音は明確に小さい。それは訪問者が小柄でひ弱な子供であることを示している。


 魔力を検知して同定する必要すらなく、これは間違いなく私専属のメイドであるリンゼちゃんの所業であろう。


 ところでリンゼちゃんってさー、ついさっきまで唯ちゃんとメイドさん達の橋渡しとかしてたよね? なのになんでそっちを放置して私の部屋に来てるんだろうねー? 謎だねー、不思議だねー?


 もうこの時点でもう嫌な予感しかしないわ。


 あーん、幸せな気分のまま眠れるはずだった私の未来を返してようー!


 ――そんなことを考えていたら閃いた。そうだ! 私は既に眠っていたことにしてしまえばいいんじゃないか!? これは良い案だ、是非とも直ぐに採用しよう!!


 恐らくお母様の差し金だろうリンゼちゃんは、一見私に冷たいように見えるかもしれない。だが彼女の本質は思い遣りを知る心優しき真面目ちゃんである。


 ここで私が寝落ちしていれば、それを見たリンゼちゃんが「あら、ソフィアはもう寝てたのね。慣れない神殿での生活で疲れていたでしょうし、仕方ないわね。呼び出すのは明日以降にしてもらうようアイリス様にお願いしましょう」なーんてことがあるかもしれない。


 そうあって欲しいな、そうだったらいいのになと願う気持ちが止められない。……が、現実はそこまで私に優しくは無いだろうなぁ。


 ていうか、疲れてるっていうなら私より明らかにリンゼちゃんの方が疲れてそうよね。


 ほとんど一人で八人分の家事をしたりとか、帰って来てからもなんか、唯ちゃん連れてあちこち回っていたみたいだったし。……なのにこの時間で更に面倒な役割を背負わせるのか?


 ……ど、どうしよう。ここはリンゼちゃんを早く休ませてあげる為にも、ご主人様である私が頑張るとこかな? でもでもこの時間からお母様のお説教が始まったりしたら、終わりがいつになるかも分からないし……!


 このまま無視して寝落ちするのが正解か。はたまたリンゼちゃんの休息を優先するのが正解なのか。


 究極の選択を前に悩みつつも、再び襲ってきた睡魔にその思考さえも放棄し――そうになっていたところで、眠気を打ち砕く音が聞こえた。


 ガチャッ! という快音。それは許可していない扉が開かれる音。


 私の心を休めるための聖域に「でもそんなの私には関係ないわね」と土足で踏み込まれたことを示す侵攻の狼煙だ。


 本来であれば不快感を示してもおかしくないその行為に、わりと慣れてきている自分がいる。


 眠気で重さを増した頭を上げると、そこには予想した通りの人物が、ちっこい背丈ながらも姿勢良くちょこんと突っ立っていた。


「なんだ、やっぱりいるじゃないの。いるならすぐに返事をしてよね」


 この幼メイドさん、他人からの評価は絶大なのに私の前でだけ落第点な行動が目立つのは何故なんだろうか。むしろ意図的にやってるような気さえするよね。


 ……もしかして私からのおしおきを待ち望んでる? これはそのお誘いだったりしちゃうのかな?


 だとしたら私は、リンゼちゃんのご主人様としてその期待には応える義務が――


「アイリス様が部屋に来て欲しいって」


「私はもう寝てたって伝えてくれる?」


「馬鹿なことを言っていないで行ってきなさい。それとも私から伝えましょうか? 『行きたくないって部屋に引きこもってます』と言ったら、きっとアイリス様がすぐにでも――」


「恐ろしい脅しをかけるのはやめてェ!!」


 まあそんなわけはないよね。うん、知ってたからべつに落胆とかはないよ、ホントだよ?


 そもそもお母様に呼ばれたって時点で詰みみたいなものだし。行くよ、行きますよ。大人しく出頭させていただきますよ。


 折角良い気分でぐっすり眠れるはずだったのに、お母様のお説教を子守唄にしなければならないとかこれはどんな罰ゲームなのかな。私が何をしたというのか。


 もはやこの段階に至っては、せめて早くお説教が終わるようにと祈ることしか私に出来ることは無いのだった。南無ぅ。


呼び出し=お説教とソフィアは当たり前のように認識しているが、しかし実態としては単なる質疑応答の割合が多い。ソフィアのトンデモ思考はソフィア以外には分からないので、その確認の為に呼び出されることが大半だ。

が、ソフィアは毎回余計なことを口走るので、結果的にお説教になることがとても多い。要は自業自得ってことなのである。

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