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神殿生活終了


 神殿に戻って、部屋を整え、食堂に集合。


 みんな揃って食事を終えれば、長いようで短かった神殿生活も終了のお時間となった。


「あー……帰ったら兄貴に色々言われるだろうなー……」と陰気な顔をしているカイル。


「みんなとの生活、楽しかった……」と愛らしく思い出を回想しているカレンちゃん。


「必ずこの借りは返すわ。次は万全の状態で挑む。覚悟しておく事ね」「キュ!」と熱く再戦の約束を交わしているミュラーなど、みんなそれぞれのやり方で神殿との別れを惜しんでいるように見えた。


 もちろんそれは私だって例外ではなくて。


「候補者選びはどう? 問題なく進んでる?」


「大丈夫よ〜。ロランドったら何回確認すれば気が済むの? もっとお姉ちゃんのことを信用しなさいよねー」


「姉上の能力は信頼してるよ。でもだからこそ、いつもの気紛れも心配というか」


「気紛れなんかじゃないわ。私のは直感、天からの啓示よ!」


「……問題がないならいいんだけどね」


 そう、この神殿生活において私が享受していた一番の利点。お兄様との距離が物理的に近い生活というものも今日を最後に終わりを迎えてしまうのだった。


 お姉様とお仕事のお話をしているお兄様はカッコイイ。


 いつ何時でもお兄様はお兄様であるだけで目が潰れるほどのカッコイイ光線を常時全方向に放射しているけれども、私的にはこの斜め後ろ百六十度くらいの角度を推したい。最推しにしたい。


 表情は窺えない。目元にも髪がかかっていてその意思が読み取れる情報は(ほとん)ど後ろ姿に集約される。


 足はどれだけ開いているのか。重心はどうか。顎に手をやっている時は何かしら大事なことを考えていることが多い。その頭の中で私のことを考えていてくれると嬉しいのだけど、実際はどうかな。確率としては五分くらいかな?


 ってああああ!! きた!! きましたよ!!! 真面目お兄様の最推しポーズ!!! 名付けて「考えるお兄様」がきた最高だああぁあああ!!!!


「ふむ」と言ってね、顎に当てた手を握りしめた時に前髪がちょこっとだけ動いてね、いつもより鋭さを増したお兄様の瞳がチラ見えするのギャン萌えするんだ。乙女ハートが圧搾機で絞りカスなんだ、トキメキでしぬぅ。


 はーつら。お兄様が尊すぎて生きてるのがつらい。


 私の瞳が、耳が、お兄様という情報を現実(リアル)に収集して私の中に取り込んでいく。これってもうお兄様が私の中に入ってるのと同じことなんじゃないだろうか。私はもう、お兄様に侵略し尽くされているのではないだろうか。


 嗚呼、言葉を紡ぐ唇が魅惑的過ぎる。そんなの見せびらかしてるとかもう犯罪じゃないんですか? 艶めかしく蠢く指先も見てるだけで身体が疼くし、ふわり微笑んだ顔はもはや致死性の爆弾。見た者は(すべか)らく心臓が爆発する。


 つまりお兄様は世界の半分、全ての女性の死を支配するこの世の支配者だったんだよー! なんなら男だってその魅力で取り込みつつあるんだけどね!! 流石はお兄様(さすおに)過ぎて私の心臓も最早臨界点が近い気がする。興奮がとまらんーッ!!


 ――とかなんとかやってたら、いつのまにか近くに来ていたリンゼちゃんが何かをドサッと私の横に置いた。音に反応して見てみれば、それは洗濯カゴに入った濡れシーツの山だった。


「……えっと、なにかな?」


「これ、洗っておいたから。乾かしてからまた仕舞っておいたら?」


 何故か憐れむような視線を向けられていた。……これはシーツを用意していた理由がバレてる感じ?


 まあ夜の運動対策というのも確かだけど、機会があればまたリンゼちゃんを簀巻きにしてこちょこちょ地獄におとしてあげたいと思って常備するようにしているという裏の理由もあったりなかったり……。

 まあ嫌われたくないから実際にやる機会はないんだけどね。


 そんな使い方でなくとも、あればあったで何かと便利でね。シーツって思った以上に色々と用途があるんだよねー。


 一番のお勧めの使い方は、なんといっても丸めてクッションの代わりにすること。

 やむなく他家の馬車に乗る時とかにこれがあると無いとじゃ全然違う。具体的にはトロッコの中で座るのと電車の座席に座るのくらい違うと思う。お尻の被害に直結するのだ。


 もちろんトロッコとか乗ったことすらないけど、馬車から降りた時にお尻の感覚があるってことがどれだけ素敵なことなのかを私は知ってる。普通に生活しててお尻の骨の存在なんて意識することないでしょ、それって実はとっても幸せなことなんだよね。


 とりあえず洗ってもらったシーツを魔法で乾かす作業は屋敷に戻ってからやる事にして、リンゼちゃんにはお礼を述べてシーツを仕舞った。濡れ物を入れても他の物に影響がないアイテムボックスってちょー便利だよね、アイスを入れても溶けないし汎用性が突き抜けてる。これは人をダメにする魔法ですよ。


 折角なのでお兄様とお姉様の荷物も預かろうかな。

 唯ちゃん……は、預かるほどの荷物は無いみたいね。


 真面目っぽいお話が途切れるのを待ってから二人に近付いて声を掛けた。


「お兄様、お姉様。よければ荷物を預かりましょうか? 馬車に乗せるのも手間でしょうから」


「ありがとーソフィア!」


「ああ、有難いね。それじゃあお願いしようかな?」


 にゅふふ、この程度で喜ばれるなら安いものよ。

 さあさあ《アイテムボックス》さん、お二人の荷物を収納しちゃってくださいな!


 黒い渦がぐおんと荷物を呑み込んだ。私のこの行動により、近い未来に起こる出来事が確定した……はずだ。


 馬車に運び込む荷物がない。それはつまり、お兄様が手ぶらになるということ。


 ――久しぶりにお兄様のエスコートで馬車に乗れるぜぃ! ひゃっほう!!


 お兄様が学院を出てからとんとご無沙汰になっていたこの機会。


 私はなんとしてでもお兄様に手を繋がれて馬車に乗ることをここに誓うよ!!


「ソフィアさんたちって兄妹みんなが仲良しですよね。いいな……」

「あれは特殊な例だから。……私は時々、唯がソフィアに騙されているんじゃないかと心配になるわ。本当に気をつけてね?」

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