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獣に惨敗した剣姫様


 私の煽りが効いたのかは分からないけど、ミュラーは決意を秘めたような表情で再びエッテと対峙した。そして――


「ふぐぅ!!」


「キューイ」


 お腹を抱えて蹲うずくまるミュラー。そのお腹から転がり出て、少し離れた位置に移動するエッテ。


 その口には当然の如く、純白なハンカチが咥えられたままで……。


 またしても、誰が見ても完全無欠な、異論を差し挟む余地すらないほどに綺麗に決まったエッテの勝利。


 こうしてミュラーは、見事に先程の一幕を再現して見せたのだった――。



◇◇◇



 その後もなんと。繰り返すこと三度に及んだ。


 三度目は右肩。四度目は左腕。五度目は額に激突してなお、エッテは見事にカレンちゃんのハンカチを守りきった。その表情は晴れ晴れとしているように見える。


 勝者の権利とでもいうように、エッテが「キューイ」なんて媚び媚びの鳴き声をあげながらカレンちゃんに抱かれに行った。一方で敗者は悔しげに俯いたままだ。気遣うカイルの手腕が問われる場面。


 果たしてカイルの選択は。


「まあ、気にすんなよ。いくらミュラーでもあれは無理だって。俺三回目から横から見てたんだけど、それでも全く何も見えなかったんだぜ? あれは多分、剣聖様でも勝てないやつだ」


「……そう、かしら。お爺様だったら、それでも何か、方法を……」


 慰めかぁ。剣聖お爺ちゃんを引き合いに出すのは上手い手だけど、それでもミュラー相手に同情するような慰めはどうなのかな。


 そう思って聞き耳を立てていたから気付いたのだけど、何やらミュラーの様子がおかしい。いつだって余裕ある態度を崩さなかったミュラーが、やけに浅い呼吸をしている。


 もしやと思って確認すればぴったんこ。

 ミュラーの保有する魔力は、もはや絞りカスのように心許無い量まで消耗しているようだった。


「カイル。ミュラー連れてきてここに寝かせて。魔力が尽きかけてる」


「はあ? ……相変わらず無茶するなぁ」


 おお、今のすごい幼馴染みっぽい。カイルがちゃんと、剣姫ミュラーの幼馴染みをしている。


 って眺めてる場合じゃなかった。ミュラーの寝る場所を整えなければ。


 追加のシーツで簡易的なベッドをつくる。

 一瞬カレンちゃんの膝を使わせてもらうことも考えたけれど、あれは意識が明瞭でなければ効果が薄い。なんなら気を緩めた途端に意識が落ちるかもしれないミュラーに使わせるのは勿体ないという気持ちが勝った。


 もっとも有効なカレンちゃんの膝の使い方としては、ミュラーの治療をした私が休む場所としての活用が一番だろうね。身体の休息にはそこそこの効果しかなかったとしても、精神力の回復には関してはピカイチだからね。


 と、ミュラーに肩を貸してやってきたカイルが、シーツオンシーツで整えられた仮寝台を見て呟いた。


「……ソフィアのそれって、あらかじめ入れておいた物しか出せないんだよな?」


「アイテムボックスのこと? そうだよ、それがどうかした?」


「なんでこんなにシーツがばっかり入ってんだ?」


「……それってミュラーを休ませる事より大事な話?」


 私の私的に「おっと悪い」とミュラーを仮の寝台に寝かせるカイル。

 その様子を眺めながら私は、上手く話を逸らせたことを心中で大きく安堵していた。


 ……シーツはですね。夜にベッドの上で運動すると、ちょぴっとばかし汚れちゃうことがあるからね。普段から余分に用意しとくようにしてるんですよ。


 夜の運動が盛り上がっちゃうと、ほら。汗もそこそこかいちゃうからね?

 女の子としては、自分の体臭が過剰に染み付いた物の存在は許すことができないと言いますか。洗い物もまとめての方が楽だし、緊急時にはこうして役に立つこともあるしで良い事尽くめじゃない? だからあんまり細かいことは気にしちゃダメだよ。


「とりあえずこの場で応急処置だけするけど、動けるようになったらすぐ帰るよ。ミュラーもそれでいいね?」


「よくない……」


 カイルの追求を許さない為に割と真面目な顔を作って言ったのだけど、ミュラーはエッテにボロ負けしたのをまだ納得していない様子。魔力が回復したらすぐにでも再戦を望みそうだ。


「ふむ」


 チラとエッテを見ると、こちらも「望むところだよ!」とばかりの表情をしている。


 たとえミュラーが望んだとしても対戦相手が拒めば勝負というものは成立しない。攻めるとすればこちらだな。


「エッテも、どうせ勝負するなら万全のミュラーと戦いたいよね?」


「キューイ」


 当然、と頷くエッテにミュラーはまたしても悔しそうな顔を見せた。


 あれだけの力の差を見せつけられて何故挑む気力が萎えないのか本気で不思議だ。不屈の意志ってこういうのを言うんだろうな。


「というわけで、動けるようにするけど再戦は無しね。分かった?」


「……分かったわ」


 よし。ならば治して進ぜよう。


 ミュラーの身体に触れて魔力の性質を確認。

 私の魔力を変換させて、少量だけミュラーの身体に流し込んだ。


「んは、あぁぁ、くぅ……っ」


 ……どうでもいいけど、魔力弄るとみんなやたらとエロい声出すよね。まあ分かってやってる私も私だけどさ。


 ともあれこれでミュラーは動ける程度には回復したはず。


 さて、それじゃさっさと神殿に帰って、みんなで家に帰る準備を整えるとしましょうかね! お兄様とお姉様のお出迎えもしなくちゃだしね!


魔力を流して反応を楽しむソフィアもソフィアですが、魔力を流された方も、それなりの快感があるようですよ……?

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