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一瞬未満の決着


 結局、ミュラーとエッテは十メートルほどの距離を空けて対峙した。


 ミュラーとしてはもっと短くても良かったようだが、エッテが認めずにこの距離を指定。その代わりとして、開始タイミングの決定権はエッテに委ねられている。


 エッテはいつ攻めたっていい。一秒後には動くかもしれないし、焦らしに焦らして五分後にしたってルール上の問題は何も無い。


 だがエッテの性格上、そんなに待たせることはないと――


「ふぐぅ!!」


 思っている間に試合は決着がついていた。


 お腹を抱えて(うずくま)るミュラー。そのお腹から転がり出て、少し離れた位置に移動するエッテ。その口には勿論ハンカチが咥えられたままだ。


 完全なエッテの勝利だった。



◇◇◇



「納得いかない!!」


 子供のような駄々を捏ねているのは見事な敗北姿を晒してくれたミュラーさん。


 この子はあと何回同じことを繰り返せばエッテを舐めることを止めるのだろうか。

 普通に対峙して勝てるわけがないんだって先ずは認めるところから始めないとねー。


「なんで体当たりしてくるの!? 威力も明らかにおかしい! 《加護》中ならノドを突かれたって平気なのに、あの子の攻撃は普通に重く感じたのだけど!!?」


「エッテだからね」


「キューイッ」


 私が褒めるとエッテは胸を反らして勝ち誇っていた。その口元にはまるで優勝旗のように白いハンカチがはためいている。


 やー、文句の付けようがない圧勝でしたね。

 正直なところ、あと十回くらいやればギリギリ避けるくらいは出来るようになるかもしれないけど、初見であの速度はどれだけ心構えしてたって無理だと思うよ。


 多分だけど、エッテ達の速度は人間の反射神経超えてるからね。もちろん魔力で強化すればその限りではないけど、普通に見てたら残像とか見えちゃうレベルじゃないかと。


 そのへん普通の人代表はどう思ったのかとカイルの方を見てみれば、ヤツは私がエッテの相手にかまけている間にカレンちゃんと仲良くお喋りに興じていた。おのれぇ。


「ミュラーが《加護》を使ってるのに、ノドを突かれたことがあるの……? その相手ってもしかして……」


「ああ、剣聖様だな。歳上にも相手になる人がいないって増長した時にはよくノドを突かれて注意されてたらしいぞ」


 ……いや、よく聞いたら興じてるって内容じゃなかったかも。


 もしかしてミュラーが私との対戦で顔ばっか狙ってきてたのって、実は顔じゃなくて首を狙ってきてた感じ? いやでも、あれは明らかに眼球を狙ってた感じだったよね? まあどちらにせよ非道な事には変わりないけど。


 ヤバいのはミュラーではなくセリティス家でしたか。

 いや、この場合は剣聖(バル)お爺ちゃんの教育方針と言うべきかな。


 ミュラーの対人戦禁止令を出した時には「お爺ちゃんさいこぉ!!」とか思ったもんだけど、その後すぐ解禁されたしね。あれはマジでぬか喜びしたわ。


 同じ武人でもカレンちゃんちの筋肉(お父)さんとはぜんぜん違う。


 世間の体育系の方々には是非ともあの運動嫌いの人間にも配慮する紳士さを見習って欲しいものだ。あの人はマジ人格者。見た目はただの筋肉だけどね。


「エッテ、もう一回やりましょう。次こそは()るわ」


「キュイ〜?」


 悔しさをバネに立ち上がったミュラーに「どうせ無理だと思うけどぉ〜?」とでも言いたげな挑発的態度を取る私のエッテ。


 正直私も無理だと思うけど、エッテの調子に乗りまくった顔はちょっぴり歪ませて欲しいと思ったりした。


「ミュラー、目で見てると間に合わないから風の動きを見るといいよ」


「キュイッ!?」


 まさか飼い主の私が相手に助力するとは思っていなかったらしいエッテが悲鳴のような鳴き声をあげた。


 確かに私はエッテとミュラーだったらエッテの味方側ではあるんだけど、人と獣として見た場合には、どうあっても人間の側につくしかないんだよね。


 たとえ可愛い小動物が相手であっても、人族代表がバカにされてる現状はちょっぴりつらい。


 つらいっていうか、私が気に入らないだけなんだけどね。


「風の動き?」


「直線的に移動してくるってことは、その間にある空気を押し退けて迫ってくるわけじゃない? だからその動きに注視して――」


「ソフィアはいつもそんなものを見てるの?」


 そんなものとか言われた。どれだけ魔法で反射神経を底上げしても対応が全く安全圏に満たない時間的な余裕をなんとか生み出そうとする私の努力を、そんなものと一蹴された。これこそつらいわー。


 まあ前世で言われてたら私だって「えー、風を読むの?(失笑)」って感じだっただろうけど、この世界には魔力とかいう便利な万能エネルギーがあるからね。魔力を広げて周囲の魔力をぜーんぶ支配下に入れちゃえばエッテの侵入とか丸分かりよ。実質もう代替感覚器官みたいなものだと思う。


 ただ、ミュラーレベルでさえ魔力の扱いが粗末なことから、この話が理解されない可能性については既に思い至っていた。ともすればそれを確認したかっただけとも言える。


 人という種は、想像に特化していると個人的に思う。


 求め、欲し。想像し、創造する。


 目的を満たしたいと望む欲が、常に人類を一段上のステップへと連れていくのだ。


 だから私は、ミュラーに言った。


「見てるよー。ミュラーが同じ方法を使う必要は無いけど、どうやってエッテを攻略するのかだけは楽しみにさせてもらうね」


 不敵な笑みを携え、「私に並べ」と誇張するように。


「ソフィア、かっこいい……!」

「いや、つーかあいつ、ミュラーの相手すんの嫌がってたろ?なのになんで挑発してんだ?……やっぱあいつはとびきりのバカだな」

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