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ルール策定


 十分くらい経った頃。(ようや)く「これは無理だ」と悟ったミュラーが息を荒らげながら私に苦情を入れに来た。だから逃げるほうを勧めたのにねー。


「ソフィアぁ!! ちょっと、何よあの獣は!? ソフィアと同じ転移魔法使うんだけど!!?」


「使ってない使ってない」


 気持ちは分かるが、あれは転移とはちょっと違うんだ。


 強いて言うなら……うーん、動物版瞬歩、とか?


 まあ瞬歩なんて漫画でしか見たことは無いんだけど。

 実際に使ってる人がいたら、あんな感じで一瞬で移動してるように見えるんだろうなーって思う。


 瞬間移動してるようにしか見えないエッテ達だって間に障害物があれば移動するのに余分な時間がかかることからも、あれが転移の類いでないのは確定している。


 十分の一秒どころか百分の一秒単位でしか変わらないけど、それでも多少なりとも遅れが出るということは、あれでも一応物理法則に基づいて移動してるのかなーと思うしかないよね。


 謎の多いエッテ達だけど、それでもひとつだけ確かなことは、あの子ら相手に純粋な移動力勝負なんて仕掛けたら負けるのは当たり前だと言うことだけだ。多分ヨル(女神)でも勝てないと思う。


「ソフィアのペットは……何? あれはなんて動物なの……?」


 カレンちゃんが超リスペクトしてるミュラーが手も足も出なかったことで、エッテもまた尊敬の対象に入ってしまったらしい。エッテを見るカレンちゃんの瞳がキラキラしている。


 エッテの飼い主たる私もついでに尊敬してくれると嬉しいなー。


 いやいや、よくよく考えれば友人に尊敬されるってのも微妙かな?

 まあカイルほど失礼でなければ尊敬まではいらないかもね。


 ともあれ、今はカレンちゃんの質問にお答えせねば。


「カレンってイタチ見たことないの?」


「あれがイタチなの? 名前だけは、聞いた事ある……かも?」


 可愛らしく首を傾げるカレンちゃん。私も自然と頬が緩む。


 ……で、こんな幸せな時に限って邪魔しに来るのがヤツという男なんですよね。フェルが余ってるから貸してあげようかとか思っちゃうね。


「俺もソフィアのとこ以外で見たことないぞ。ペットっつったら普通は犬か鳥くらいだもんな」


 へー、そうなんだー。確かに私もこの子ら以外に見たことないね。


 まあこの子らは厳密に言えばイタチでもないけど。というか、動物かどうかすら定かじゃないかも……? 元の大きさは丸太くらいあるし……えっ、てゆーか明らかにイタチじゃないじゃん、カレンちゃんに嘘ついちゃった私。えー、どうしよ。


 いや、いや、落ち着こう。私は「イタチ見たことないの?」としか言ってない。「エッテがイタチだ」と断定はしていない。


 ただエッテが何の動物なのかと聞かれて、「イタチに近い生き物だとは思うけど、カレンちゃんはイタチを見たことがないのかな?」と意図を持って尋ねただけだ。何も嘘なんて言っていない。うむ、何も問題なんて無かったんだね。


 心の平穏を取り戻した私は、十分も走り続けたくせにもう回復してるミュラーに改めて告げた。


「ミュラーも実感したと思うけど、うちの子は他所の子とはちょっと違うみたいでね。走るのがとっても得意なの。でもそれだと追いかけっこが成立しないからエッテにはある条件を守りながら追いかけてもらいます。直線移動以外禁止。それと、方向転換は必ず立ち止まって行うこと。この二点を守りながらミュラーに触れようとするエッテから、ミュラーは飽きるまで逃れ続けてください」


「飽きるまで!?」


「え、今度はそこ? うーん、ミュラーってエッテのことまだ舐めてない? 神殿で一度早く動けるとこ見せたじゃん。あの時何も感じなかったの?」


「必ず倒したいと思ったわ」


「その想いは今すぐに捨ててね。……まあ、捕まえるくらいなら構わないけど」


 言った途端、エッテが「キュイ!?」と拒否感を示した。


 ああ、はいはい。言いたいことは分かってる。ちゃんとエッテが負けないルールは設定するから安心してね。


「ただし、身体にぶつかったのを捕まえるのは禁止ね。速さを競うんだもん、捕まえるって言うなら当然、エッテが動いてるところを捕まえるんだよね? 直線的にしか動かないエッテを避けた上で、待ち構えるのでも叩き落とのでもなくて、手で捕まえる。そういう事だよね?」


 だよね? と強調し、出来るだけ闘争心を煽るような言葉を選んだのに、何故だかミュラーの反応が芳しくない。何やら難しい顔をしていたと思えば――


「あれだけの速度で動くものを捕まえようと思えば、どうしたって叩き落とすことになると思うけど。その辺はソフィアがなんとかできない?」


 なんと、解決策を丸投げされてしまった。簡単そうに言ってくれるね。


 うーん、どうしようかな。ミュラーの反射神経があればエッテの通りそうな場所を叩き落とすくらい出来るようになりそうだけど……。


「キュイッ」


「わぁぁ?」


 悩み始めたところでエッテの鳴き声に次いで、カレンちゃんの悩ましい声が聞こえてきた。内心で「エッテ、グッジョブ」と褒め称えたのは私だけの秘密だ。


 ってうわああ!? カレンちゃんの股間付近がモゾモゾしてる!? 何してるのエッテさん!!?


「エッテぇぇ!! こらっ、悪戯はダメだよ!?」


「キューイィ」


 服からはみ出ていたエッテの足を掴んで引きずり出す。その際、エッテが咥えていた何かも一緒に引きずり出されて……。


 …………こ、この白いの。まさかカレンちゃんのパン――


「は、ハンカチが欲しかったの? エッテちゃん」


「キュイッ!」


 ――だよね良かった!! エッテはエロ動物じゃなかったんだ!!


「………………」

不届きにも、ソフィアと同じ勘違いをした男の子がいたみたいですよ?

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