求む、雑草並みの成長成分
唯ちゃんとリンゼちゃんの幼い子組が何やら私とカイルが話す様子を見て楽しんでおられるご様子。
でもそんなの関係ねぇと部屋に戻るか? それとも期待に応えるべくカイルとの会話に興じるのか!?
罪悪感に包まれるだろう前者と、上手く会話を運べればカイルの醜態と唯ちゃん達の笑顔という二重の報酬さえ期待できる後者。
選択肢を頭に思い浮かべた時点で私のするべきことは決まっていたようなものだった。
「神殿での生活も今日で最終日だし、時間が余ったなら部屋に戻って帰る支度でもしたいんだけど……」
この状況、どうする? と選択権を委ねてくれたカイルに対して、私は会話を広げることでその答えを返した。
「まあ、そうだね。なんなら卒業後に必要になるものは置いてってもいいとお兄様から聞いてるけど……カイルはあと一年もあればまだまだ身長とか伸びそうだよねぇ。にょきにょきにょきにょきと雑草みたいに。一体どこまで伸びる気なの?」
いつのもように軽口を叩けば、カイルも私の選択を理解したようだ。ちらりと唯ちゃんたちの方を確認し、覚悟を決めたように溜め息を吐いた。
「いや、雑草ってお前……。どう考えても身長が変わらないお前の方がおかしいだろ。この際だから聞くけど、なんでお前いつまで経ってもちっこいままなの? 飯もちゃんと食べてる。夜も部屋でちゃんと寝てる。それで成長しないのはどう考えてもおかしいだろ」
……夜もちゃんと寝てる、ってなんだ? そのガセネタどこ情報よ?
一瞬不思議に思ったけれど、「部屋で」ってことは、恐らく部屋から明かりが漏れてないことから判断したとかそんなとこかな?
むしろ神殿に来てから夜中に部屋にいたことなんてあっただろうか……。
カイルが夜な夜な私の部屋の灯りを確認に訪れていたことを想像したら、気持ち悪いやら申し訳ないやらで微妙な気持ちになってしまった。無駄足と心配を掛けてごめんだけど、私はカイルが謎の確認作業をしてる間は毎晩、唯ちゃんと二人で楽しい夜を過ごしていたんだ。無人の部屋の確認ご苦労様です。
ただ確かにカイルの言うことにも一理あると思う。
成長の基本は食事と睡眠。それに適度な運動もあれば完璧もいうのは常識だ。
食事は当然毎日してる。
……食事と同等以上に頻度が高いおやつをどう捉えるのかという問題はあるけど、お菓子の食べ過ぎで食事の量が減ったりとかはあんまりないし。食事の時間だって規則的だ。
睡眠は最近はとってないけど、唯ちゃんが来る前はふつーに寝てた。夜中にちょっと激しい運動をする事もあるけど、その後は朝までぐっすりだったし。むしろ夜更かしとか苦手な部類なんだよね私。
最後の運動は言わずもがな。毎朝のランニングとフェル&エッテとのお遊びを兼ねた戦闘訓練は特別な用事がない日は毎日してる。今日だってしてた。
完全な非魔力依存の運動かどうかを問われると辛いところがあるけど、身体に感じた疲労感……は魔力消費による脱力感と混同してる可能性もあるけど、少なくとも筋肉を酷使した後にくるあの独特の局部疲労だけは身体がちゃんと運動をした証明になると思うんだよね。
その後のお風呂でも、身体に残る程よい怠さが気持ちよかったりするし。ちゃんと適切な運動はできてると思う。……余分なお肉だってついてないしね。
ならば何故私は成長しないのか。
毎日決まった時間に食事を摂り、夜も睡眠時間をしっかりキープし、健康に気を使った運動もほとんど毎日のように行ってきた私が、何故に年で数ミリしか伸びないのか。これはもう宇宙の法則に反してると思う。
考えれば考える程におかしい。ありえない。道理が合わない。
「なんで」なんて言葉はねぇ……私が一番聞きたいんだよ!!!
「――逆にカイルはなんでだと思う? カイルや同世代の皆がスクスクと成長していくのに、なんで私だけが成長しないんだと思う? ねぇ、なんでだと思う??」
にっこり笑顔で意見を求めたら、カイルは「うっ」なんて呻いて顔を顰めた。なんて失礼な反応だろうね。
「……俺が悪かったから、そんな怒んなよ。そうだよな、一番大きくなりたがってたのはお前だもんな……」
やめろお前ぇ!! カイルに本気で憐れまれるとそれはそれで哀しくなるんだよ! 惨めさが余計に際立っちゃうから本当にやめて!!?
身長がバカみたいに伸びたカイルに本気で憐れんだ視線を向けられると、もう何を言っても負け犬の遠吠えになってしまうんじゃないかと感じる自分が嫌になる。
男子の身長が高くなるのは当然? 女子は小さい方が可愛いって?
そんなことは知ってる。でも前世で第二次性徴期として全人類のほぼ全ての人間が大きく成長を遂げるはずの時期を越えたこの歳で、ここまで変化ないのってこれもう明らかに病気でしょ!! ファンタジー世界のロリババアじゃないんだよ!?
もう、ホント……なんで私って背が伸びないんだろ。
一時期は胸が成長する兆しを見せたってのに、それもほんの少し膨らんだだけで止まったし。何もかもが明らかにおかしい。
私のことを幼い頃から客観的に見てたはずのカイルだって私が成長しないのはおかしいことだと思ってる。
……やはり、魔法か。魔法でこのつるつるぷにぷにのタマゴ肌を保とうとしたことが原因なのか。
その選択をしたことを後悔する気は無いけど、この問題はいつか必ず解決しないといけないよなぁ……。いつまでも子供体型のまんまは嫌だもんねー。
背丈の差が大きくなってきた当初、僻むソフィアに対してカイルは煽り返してきた過去を持つが、差が開きすぎた頃からソフィアは身長のことで突っかかるのはやめたそうです。どうあっても言い負けちゃうからね。




