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習熟したものがこちらになります


 ――とてつもなく不本意なことではあるのだけど。


 私と唯ちゃんの為に用意した椅子は、カイルと唯ちゃんが使うことになった。甚だ不本意な配役である。


 いやね、合理的な側面から見ればそれが当然だってのは分かるのよ。小さな女の子と昼前に魔力切れで倒れた半病人。そりゃ優先するべき二人であるのは分かるのだけど。


 なんというか、カイルが唯ちゃんと一緒に休んでるその姿が気に入らない。


 これは別に唯ちゃんの言ったように「カイルめ、そんな私以外の女の子と仲良くしてぇ……!」なんて嫉妬をしてるとかそういうわけじゃなくてね。


 むしろ嫉妬というならカイル側にしてるわ。私も唯ちゃんとイチャコラしたい。


 って、そういう話でもなくて。

 私が頑張ってカレンちゃんたちの相手をしている中、のへへんと気楽に休んでいるカイルが憎たらしいと、これはそういう話なわけなのですよ。


「ソフィア、あの……」


「これでやり方は合ってるの? 全然出来ないのだけど」


 二人にやらせているのは魔力操作の基礎の基礎。魔力球の生成。


 たったこれしきのことすら出来ないなんて――という感情はない。きちんと魔力は狙った場所に向けて動かせている。


 最初から魔力を動かすこと自体は出来ていたので、むしろ流石だと感嘆を漏らしてしまったくらいの出来栄えだった。


「問題ないよ。《魔力視》で確認すれば分かると思うけど、ちゃんと手の間に魔力は集まってるから。あとはそれをもっとぎゅぎゅっと圧縮して、狭い範囲に集中して集めるだけだね」


「手に魔力を集めながら魔力視も〜、なんて出来るわけないでしょ!?」


「ソフィアは頼めば色々教えてくれて、それはとっても嬉しいんだけど、教え方は結構厳しいよね……」


 そうかな? 二人の魔力に同調、無理矢理操作をして「その身体に教えこんでやるぅ! ぐへへ!」とかやってない分、むしろ優しいと思うのだけど。


 あ、もちろん淑女はソフィアちゃんは「ぐへへ」とか言いませんけどね。


 心のヨダレは心の中に留めているからこそ許されるのであって、表に出したらただの変態さんだからね。二人の身体を勝手に操作して、あまつさえ本人の恥ずかしがるような行動を取らせるなんてそんなそんな。


 そんなことはちゃんと妄想だけに留めておきますとも。


 メルクリス家のソフィアさんは、そこらへんきちんとしていますので。はい。


「魔力を操りながらの《魔力視》が難しいんだったら、お互いが魔力操作してるところを観察し合うのもいいかもね。実際に魔力がどう動いているのか視覚的に確認出来れば想像力の補強にもなるでしょ」


「なるほど……それはいいわね。カレン、私が先にやるから見ていて頂戴」


「うん……!」


 うーん。いつ見てもやる気いっぱい、元気いっぱいで傍にいるだけでも疲れてきちゃうね。


 私は元々インドア派なんだ、魔力動かすのなんかほとんど部屋で寝転がりながらやってたからね。ミュラーみたく「ハッ!」なんて、いちいち動作の度に気合を入れてる人の気が知れない。


 私より少し大きいだけの身体の何処にそれだけの元気が詰まっているのか。


 ……《加護》の力で体力も底上げされてる可能性はあるかもしれないな。今度その観点で少し調べてみるか。


 新たな関心事に思考を傾けていると、背後で「お、確かに他人(ひと)のを見るのは参考になるな」とか言いながらまた魔力球出してるアホの子がいた。


 さっき倒れかけたのもう忘れたの? お前はもう少し休んでいろと。無理させるために椅子に座らせたわけじゃないんだわ。


「お上手ですね」


「そうか? ありがとな。君も……あー、ユイも魔力が動かせるんだろ? 見せてくれよ」


「えっ……。その、私の魔力は、少し特殊らしくて……」


 どうしたものかと視線を向けてきた唯ちゃんに、私は笑顔でゴーサインを出した。


 私達の見ている前で悪びれも無く幼女をナンパしてる不届き者に、格差社会の現実ってものを見せてやって下さいよ、唯さん!!


「大丈夫みたいなので、やってみますね。んっ……」


 瞳を閉じ、両手を上に向けて。


 まるで見えない水を掬い取るような形にした唯ちゃんの手から、半球状の魔力の塊がせりあがってくる。


 初めのうちは「おおー」なんて呑気な声を上げていたカイルの瞳が、次第に驚きに染まるのを見た。


 唯ちゃんが手から生み出したのは、魔力で出来た球――ではない。太くて長い魔力の塊が、まるで寝床から顔を出す大蛇のように、曲がりくねりながら唯ちゃんの身体を取り囲んでいく。


「ちょっと、あれ大丈夫なの!?」と心配するミュラーに「いつもあんな感じだよ」と返す私の心情は気楽なものだ。


 そう、もはや唯ちゃんにとって、あの程度は日常的な練習の範疇に過ぎないのだ。


「おお……、お、ぉ……」


 言葉を失ったカイルが痴呆症のお爺ちゃんみたいになってる。めっちゃウケるね。


 そうとも、カレンちゃんやミュラーよりもちょっぴり上手くなったところで、カイルなんかまだまだ唯ちゃんの足元にも及ばないんだからね。自覚したらそこで大人しくしてなさい。


 倒れながら練習したところで大して上達なんかしないんだからね。


「今のは特殊な例だけど、慣れればあれだけ動かしても魔力が解けないようには出来るんだよ。まずは小さな魔力球をひとつ。頑張ろうね」


 こんな小さい子にも出来たんだもんね? と無言で圧力をかけると、ミュラーは「やってやろうじゃない」と見るからにやる気を出していた。

 ちなみにカレンちゃんは「はぇー……すごい……」と尊敬の眼差しで唯ちゃんのことを見つめてた。


 なんだその顔、かわいいが過ぎるぞ。


「……はあー。自信なくすなぁ……」

「えっ、と。なんだか、すみません……」

「ああいや、こっちこそごめん。責めるような態度とってごめんな。悪いのは全部ソフィアだから気にしなくていいよ」

「はい……えっ、あれ?……えぇ?」

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