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子供かっ!……って、子供だったね


「あ」


 異常に最初に気付いたのはカレンちゃんだった。


 カイルを教師役に任命してのお勉強中。よくがんばったで賞を授与したくなるような授業風景を見せてくれたカイルが、不意に体勢を崩したのだ。


「ん?」


「っと」


 え? 倒れるか? と思った時には、既にミュラーがカイルの身体を支えていた。


 見蕩れるほどにスマートなその身のこなし。

 男女が逆だったなら、間違いなく助けられた側の心臓がドッキンコしていたことだろうと思う。


 ……いや、今のカイルの表情を見るに、体調崩した側にそんな余裕は無さそうかな。


 どうせすぐに治せるからと友人の身体を全く心配していない自分に気付き、我ながらちょっぴり反省した。


「え? え……!? か、カイルくん、どうしたの!?」


「落ち着きなさい、大丈夫だから。カイル、症状を申告して。意識はあるわね?」


「あ、ああ……悪い。なんか急に、身体からふっと力が抜けて……」


 遠隔で軽く《探査》してみた結果、カイルは私の予測していた通りの症状っぽい。私からすればさもありなんって感じ。自己管理くらいしようね?


「カイル〜。それね、多分魔力切れ。調子乗って魔力使いすぎたでしょ」


「は……ああ、なるほどなぁ……。そう言われりゃ、確かにそうかも……。あー、つれ〜……」


「ちょ、ちょっと、立つの諦めないでよ。ソフィア! そこどきなさい。カイル座らせるから」


「え〜」


「えーじゃないでしょ! っていうか手伝いなさいよ、これソフィアのせいでしょ!?」


「わ、私も、手伝う!」


 ぐだぐだやってる間にカレンちゃんが立候補し、カイルは両手の花に支えられてる状態になっていた。


 これは中々良い絵だな、脳内メモリーに保存しとこ。パシャッとな。


 密かにカイルの無様記録ファイルを更新した私は、ささっと机の上を片付けて椅子を引いた。私の小さいお尻で温められた座席に辿り着いたカイルはといえば、美少女たちに寄って集って心配されるという幸運を味わう余裕もないようで、すぐさま丸机に突っ伏して「あ〜〜……」とおっさんみたいな声を上げていた。


 すごいな。何がすごいって、意識があるのに異性の前でこんなにだらしない姿を晒せるその精神が凄まじすぎるわ。なんて男らしい姿だろうか。パシャリパシャリ。


「――さて」


 脳内シャッターを切りまくってカイルのだらしない表情を収めていたら、ミュラーが発する不穏な気配に気がついた。


 さて、ってなんだろ。カイルの紳士度が三点(さて)って意味かな?


 そもそもの話、私に向けて発した言葉とも限らないのになんでこんなに嫌な予感がするんだろうね。

 ソフィアさんは今日のお昼ご飯に思いを馳せるので忙しいんだから面倒事は勘弁してよね。


「ソフィア、診察。カイルが本当に問題無いのか診てちょうだい」


「え? 私が??」


 それお医者さんの仕事では?? と思ったのだけど、ミュラーは呆れた目で私を見ると説明を始めた。


「出来るでしょ? 私だって簡単な診察はできるけれど、所詮は素人だもの。判断する材料は多い方がいいの。医師を呼んでも構わないのならそうするけど、そうなると何故カイルがこうなったかの経緯も説明する必要が出てくるし、カイルが魔力を大量に消費する状況を作ったソフィアにも責任が――」


「分かった、もういい。カイルを診れば黙っててくれるのね?」


「カイルの体調に問題がなければね」


 笑顔で脅してくるミュラーが怖いです。カレンちゃん、どうか私を癒しておくれ!!


 唯一の癒し系友人であるカレンちゃんから優しい言葉を貰って気力充填しようと思ったのだが、気付けばカレンちゃんはカイルに寄り添い、その背中を擦りながら「大丈夫?」だとか「気分が悪くなったら、言ってね?」だとかやっていた。なんて羨まけしからん。


 おいぃカイル、お前カレンちゃんになにやらせてんだ。っていうかその位置、角度、絶対カレンちゃんの胸を見てるでしょ!? 後頭部しか見えなくたって顔がにやけてるのくらいわかるんだからね!


「ちょっとごめんね」とカレンちゃんに断りを入れ、カイルの額を机上にゴンと起き直す。「おいソフィア……」と文句を言ってくる狼藉者の言葉を無視して後頭部に指を置いて魔法を展開。より詳細な魔法での診察を行った。


 ……ふむふむ。ふーむふむ。なるほどねー。


 やっぱり魔力の割合が減ってる以外は問題なさそう。あえて言うならちょっと風邪気味の兆候があるとか、筋肉が多少疲労してるとかないこともないけど、全体で見れば問題なし。概ね健康であると言えるでしょう。


 念の為にほんの少しだけ魔力を分け与えたら診察終了。


「やっぱり魔力不足が原因みたい。倒れる前に気づきなさい、よっ!」と背中を軽く殴打してやれば、「ぐふっ」と大袈裟に呻いたカイルはカレンちゃんからの労りの言葉を受けていた。なんてあざとい奴なんだろう。


「カイルが自分で気付くのが一番だけど、あれはソフィアが気をつけるべきなんじゃないの? 《加護》の使いすぎとかならまだしも魔力を放出する訓練なんて、ソフィア以外にやってるの見たことないわよ?」


「魔力が減った時の感覚なんてどんな使い方してたって一緒でしょ。なんなら魔力に意識を集中してる分、自分の魔力があとどれくらい残ってるのかなんて嫌でも自覚できてたはずだよ」


「そういうものなの?」


「そーゆーもんだよ」


 自信満々に答えるとミュラーは大人しく引き下がった。理不尽な責め方しないミュラーのそういうトコ、私は結構好きだったりする。


 まあ正直な話、私は《加護》の魔力消費なんて知らないんだけどね。


 でも効果から見れば《身体強化》とそう消費量は変わらないだろうし、カイルが気をつけてれば防げてたって点は正しいから問題ないよね。


 私はカイルの保護者でもなし。

 いちいち魔力残量にまで気を配ってなんかいられないっての! 自分のことは自分で気をつけろおー!


「カイルくん、大丈夫……?」

「大丈夫大丈夫。ソフィアのお陰でだいぶ調子が良くなったわ」

「…………も、もしかしてカイルくんは、ほほ本当に女の子に乱暴されると元気が出る、の……?」

「は?……えっ!?いや違う、ソフィアがこっそり治してくれたって話だぞ!?」

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