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ドヤ顔死すべし慈悲はない


「私には出来る」と、そう素直に信じることが魔法発現の第一歩であるこの世界において、先駆者よりも後進者の方が有利であることは自明である。


 それは分かるよ。でもさ、いくらなんでも限度ってものがあると思うの。



 ――手の中で、魔力をじっくりぐーにぐに。


 中庭に用意した机と椅子。優雅なティータイムセットを取り出し贅沢に時間を潰している私の前で、カイルがそんな地味すぎる修行を一時間ほど続けた頃だろうか。


 奴が唐突に「お、できた」などと呟いたかと思えば、その手の中には信じ難いことに、キレイな球状にまとまった魔力の塊が存在していた。手の平から数センチほど離れた場所に浮かぶその球体は、カイルと接している部分が無いにも関わらず驚くほどの安定を見せている。辛めに点数を付けても八十点は下回らない出来だ……。


「おーいソフィア。できたぞ、どうだ?」


「ふんっ」


 シュッ! と魔力を伸ばしてカイルの魔力球を破壊する。


 他人の魔力に干渉するのは普通反発が起こるものだが、唯ちゃんの魔力を取り入れた私の魔力には他人の魔力を奪い取るという特性が追加されている。その効果を高めれば、反発を起こさずに魔力を霧散させることくらい造作もないことよ。ふふん、ざまみろカイルめ。


「あーっ! お前何すんだよ!?」


「ちゃんと安定してるか試してあげたんだよ。ほら、もう一回作ってみ?」


「ったく、しょーがねーな……」


 グチグチ言いながらも、カイルは言われた通りの魔力球を再現した。


 その所要時間は僅か五秒。

 どんなコツを掴んだらそうなるんだと首を絞めながら問い詰めたい。


「ほら、これでいいんだろ?」


「…………」


「え、なんかマズイか? 言われた通り、ちゃんと動かすこともできるんだぞ。ほら」


 カイルの右手に乗った魔力球が、左手の握りこぶしがゆっくりと開かれていくのに合わせて形を変える。五指が徐々に広がるのと呼応するように、球状だった魔力が五つの尖端を突き出し始めた。


 ……え? なんだこれ。


 …………ウニかな?


「どーよ」


 自信満々にこれを披露できる神経が分からん。


 いや、確かに、とても認めたくないし実際にこの目で確かめた今でさえも信じ難いことなんだけど、こんなけったいな見た目でもその魔力は驚く程に安定している。細っこい先端部分も魔力が勝手に解けたりしてない。ちゃんと細部まで集中できてる。そこは認める、認めざるを得ない。


 ……うがー! 問題無いのが逆にムカつくぅ!! なんなのこれェ!?


 伸びた触手みたいな部分が地味に揺れてるのがすっごい気になる。あとその左手。形を保つのに使ってるだろうその左手を、思いっきりぺちーん! と叩き落としたら魔力塊がどうなるのかすんごく気になる。試してみてもいいかな、いいよね?


 だって私、今は指導者の立場だもんね!?

 理不尽な行いもある程度は許容されるくらいの役得はある思うの! いっくぞおぉー!


 いざ行かんと期待を込めて、スススッと近寄ろうとしたのだけど、覚悟を決めるのが遅すぎたらしい。私が近づく前に「ふう」と脱力したカイルによって魔力の塊は解除されてしまった。私を誘惑するようにウニってた魔力は当たり前のように空気に溶けた。


 ……いや、制御されてる魔力なんだからカイルの制御から離れたら大気に還るのは当たり前なんだけどね。


 謎に生き物っぽい動きをしてたせいか、私の認識もちょっとペット枠に入りかけてたかもしれない。冷静にならねば。


「おーい、ソフィアー?」


「ああ、うん。いいんじゃないかな」


 つーか、毎回思ってる気がするのだがね。君らの成長スピード早すぎんだろと。私がそれできるようになるのにどんだけ苦労したと思ってるんだ。


 魔力の制御。魔力球の生成。


 そりゃ初めて思い付いてさあやろうと思った段階ではみるみる出来るようになってはいくよ? 身体からにょろろんと魔力を出すくらいなら一時間である程度安定するのも理解はできる。


 でも繋がってない魔力を安定して浮かべるのは待って欲しい。私それ出来るようになるのにたしか一週間以上かかってるんだわ。


 なんなの、才能なの? カイルは魔力方面の天才なの?


 それとも純粋な子供特有の謎な発想で魔力球を生成してるんだろうか。男子っていつまでも頭の中が子供のままらしいし、私には考えもつかない突拍子の無い発想で魔力球を浮かべている可能性も無いとは言えない。


 私なんか幼い時から一般的な高校生の思考で魔法の法則を考えてたからね。「魔力が繋がってないと魔力球が維持出来るわけないじゃん」の壁を超えるのに一週間かかったのもむべなるかな。


 つまり私がカイルよりも劣っているわけではなく、子供っぽいカイルの発想が偶々ハマって魔力の制御が異常とも言える速度で上達したように見えたと。ようは偶然、上手くいったに過ぎないと。そういうことになるだろうね。


 心の防御機構を全力で稼働している私に対し、今やって見せたことがどれだけの難易度であるかを全く理解していない脳天気なカイルが、再び手を突き出して構えを取った。


「よっ、と」


 ……手の平の先に、当たり前のように生成される魔力球。


 簡単に再現した魔力球を顔の前に掲げながらドヤ顔を浮かべるカイルを見て、私は思った。


 ――今コイツの顔を殴れたら、どれだけ気持ちが良いだろうかとね!!


「ははっ。ソフィアの悔しそうな顔見れんの、最高の気分だわ」

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