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はい、私はもう映画監督やめます


 ――ちょっとくらい協力してあげてもいいかもしれない。


 そう考えるだけなら何も問題は無かったはずだ。


 恩着せがましい上から目線も慣れたもの。私が決定権を握っているという優越感に浸りつつ、しかしその実情は便利使いされる下っ端同然という程よい惨めさ。


 この上でありながら下でもある対等な関係が、前世に近い友人関係を切望する私の心の安定に繋がる。


 ――私はきっと焦っていたんだ。


 カイルという、私にとっては無二の友人。


 私にとって真に友人と思えるのはカイルだけ。

 そこに同性のミュラーとカレンちゃんを加えたいと願い、焦ってしまった。


 理不尽な要求を無条件には受け入れず、しかし時と場合によっては「友達だから」と()()()()理不尽な感情を押し付け合う。その横暴さが個性として許容される。


 そんな私にとって理想の関係を、そろそろ構築できているのではないかと夢見てしまった。


 ……友達を作るのってなんて難しいんだろうか。


 私は今、その事実を痛感している。


 理想の友人など虚構の中にさえ存在しない。

 許されるのは精々、他人の一側面だけを見て「相性の良い人間」と判断した相手との関係を「友情」と名付けることくらいなものだ。



 ――まあ、つまり何が言いたいかっていうとだね。


 少なくとも私が望む友人関係とは、間違いなく()()じゃないっていうことかな!


「違うわよ、なんでこんなに低い位置なの? 私の目線からはカレンの強い瞳が真っ直ぐに向けられるのが見えていたわ。これじゃ明らかにズレてるじゃないの」


「だからこれは補完した映像であって、ミュラーの視界を完全に再現できる訳じゃないの! あくまでも想像なの! ズレるものなの!」


「でも好きな位置から見れるんでしょ? もう少し上からの視線にズラしてよ。あとは角度も……小指の幅くらい左に移動して。あの時に見ていた木剣の入ってくる角度と違うわ」


「そこまで覚えてるなら、もう私の映像要らなくないかな……?」


 ガチャガチャと要求を積み上げるミュラーの言葉に辟易としながら修正をし続ける私。ああ、なんでこんな苦労する羽目になってるんだろうか……?


 確かにね、私は思ってたよ。気兼ねなく軽口が言い合える友達が欲しいって。なんなら互いの心地好い距離感を掴むために悪口を交わせるような友達が欲しいって。でもこれは思ってたのとなんか違う。


 唯ちゃんの発言から映画監督気分になったのが悪かったのだろうか?


 ミュラーとカレンちゃんの対戦映像を「こんなこともできるよ!」と俯瞰で一周、回して見せたのを切っ掛けとして、私への視点変更の要望が殺到したのが始まりだった。


 カイルのはいいんだ。木剣同士がぶつかる瞬間のアップとか簡単だから。スロー再生だって慣れたものだし。


 カレンちゃんのだって問題ない。ミュラーの異常な移動速度、その根幹を成す体重移動を全方位から観察したいって意図も分かるし、いくつかの方向から全身を映してコマ送りのように動かすだけだ。そう難しい要求でもない。


 ただ、ミュラーがね? 満を持して要求してきたミュラーの希望がだね、可能と不可能のギリギリをつく悪辣とすら思える難度だった。


「一回目の交戦直前の映像をゆっくり流して」と言われた時にはまだ危機感を覚えていなかった。その後「ここ。この時の私の視界を見せて」という言葉が出た時にもそれほど苦労するとは思わなかった。だが、確実にそこが私の地獄の始まりだった。


 なんでもミュラーさん、あれだけ終始圧倒してたくせに対戦内容についてはなにか反省点があったらしいんだよね。

 その振り返りがしたいということだったので、ご希望の映像を抽出、私に見えていなかった部分を補完して映像を流したところ、「なにこれ?」ととても不機嫌そうな声をいただきましたとさ。


 修正に次ぐ修正。

 不満な点には明確な修正案を上げられるのがまたタチが悪い。


 やれ視界の位置がまだズレてるだとか、やれカレンちゃんの腕の角度が間違ってるだとか、まーーうるさいのなんの。


 私は二人の戦いを横から見てたんだよ? カレンちゃんの左腕の位置とか見えてるわけないから!!


 もうやり方教えるからミュラーが自分で映像加工してよ、ってなもんですよもおぉぉおお!!!


「もう無理! 終了! これ以上の微調整はもうできません!!」


 どれだけ修正しても終わりの見えない作業に、ついに私はキレた。「うがーっ!」と全てを投げ出して、弄くり回してた映像をプッツンした。


 お姉様、お茶をプリーズですよまったくもうっ! こんな作業やってられるかあ! ぷんぷんだよ!


「あっ、なにするのよ!?」


 ミュラーが悲鳴をあげるが知ったこっちゃない。


 私はやれるだけのことはやった。その上で満足いかなかったというのなら、それはもう初めから叶わない望みだったということだ。


「あんな細かいのは無理なの! せめて私の視界基準で分かることだけにしてくれない!?」


「分かることって……カレンの姿はしっかり視界に捉えてたじゃないの。右半身を見れば左半身がどんな状態かくらい分かるでしょ?」


「分かるかぁ!!」


 思わず怒鳴ると、私がそんな反応をしたことにミュラーは素で驚いているみたいだった。むしろその反応がびっくりだよ!


「え? ……分かるわよね?」


「いや分かるわけないだろ」


「カイルには聞いてないわよ。……カレンなら分かるわよね?」


「ぇ、えっと……」


 眼中にも入れてもらえなかったカイルが眉を顰めている横で、カレンちゃんがいつもどおりオドオドしてた。


 でもその反応は、ミュラーの言葉を理解出来ていない様子ではなく――


「わ、分かるよ……ね? その、足とか、肩とか……。身体は、繋がってるから」


「そうよね?」


 ほら、と振り返るミュラーに、今度は私が愕然となる番だった。


 ……ま、まさか、私だけがカイルと同類……!? ななな、なんてこったい!?


ミュラーと競えるだけの絶大な戦闘力をそれはもう高く評価され、同じ戦闘大好き集団の仲間として認められているソフィアだが、実情は魔法でズルっこしてるだけなので戦闘狂並の観察眼とかないです。

ついでに言うと「本当に戦いが嫌いだったらあれだけの戦闘技術が身につく訳がない」としてソフィアの平和主義発言はスルーされてます。すれ違いって悲しいですね。

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