聖女じゃないですよう
「聖女じゃないです」
聖女として名高い? 誰が? 私?
無言の魔女なんて称号持ってて実は有名人なお母様ならともかく、私聖女なんて呼ばれたことないってば。
どうしようこの王子様、こんな大勢の前で堂々と人違いとか後で赤面ものだろうに、なんて深い業を自ら背負いに行くのか。これ逆ギレで処罰されたりしないよね?
王子様に恥をかかせた罪で〜とか言われたら私躊躇せずに言っちゃうよ? 「あれは王子様の自爆でした」って。「あまりにも自信満々に仰られたので私としてもフォローのしようがなく」って。
ほら、周りのお嬢様方も戸惑ってるじゃないですか。私が聖女だなんてトンチンカンな噂どこから拾ってきたんですか。御自身の立場を弁えて発言しないとだめですよ王子様。
私が聖女とか、自分で言うのもなんだけど絶対ないから。
まだ神様とか化け物とか呼ばれる方がしっくりくるわ。
それともなにか、この世界では私みたいに可憐な容姿と秀でた能力を好き勝手使ってわがまま放題する人を聖女と呼ぶのか。山賊の前例あるから否定できないぃっ!
そんな可能性もありうるか? とちょっぴりドキドキしたけど、王子様が周囲の反応にようやく何かがおかしいことを察したところを見るに、私は聖女じゃないってことで問題なさそう。
落ち着いたなら是非とも私のフォローをお願いしたいところですね。
女の子たちもほら、自分で言ったわけじゃないからさ、「聖女ですって?」「あの方が聖女?」とか止めて、居た堪れない。
自分の本性自覚してるだけに聖女って呼ばれる違和感すごいんですよ。実はこれ精神攻撃だったりする? だとしたらすごいね、効果はバツグンだよ!
「おま、お前聖女様だったのかよ」
「黙ってね?」
カイル笑いすぎ。逆の立場だったら私も絶対笑うけど。
もうね、周囲の視線が痛い。視線がね圧力持って襲ってくるの。
なんでこんなことに。私なんか悪いことした? ヴァレリーちゃんの脇腹つついた罰? それならあまんじて受けるよ。
「みんな、すまない。彼女が聖女だというのは私の勘違いだったようだ」
くそう、不覚にもみんなの視線を持っていってくれた王子様に感謝の念を抱きそうになったぞ。全部アンタのせいだっつーの! でもありがとう。そろそろ辛かったから助かった。
「だがアイリス様の娘に期待してしまう気持ちも分かって欲しい。既に卒業したアリシア・メルクリス殿も、在学中のロランド・メルクリス殿も魔法の成績は優秀だと聞き及んでいるからな」
へー、そうなんだ。流石はお姉様とお兄様だね!
心の中で御二方を賛美していると、それまで成り行きを見守るだけだった先生が王子様の発言に便乗した。
「確かに、二年のロランド君はとても優秀ですから。彼が自慢していた妹さんに期待をかけてしまうのも当然でしょう」
待って。今なんて言った?
お兄様が私を自慢してたって言ったよね?
目立ちたくないなーって深く考えずに目標を立てはしたけど、お兄様の評判にも関わるとなれば話は別だよ?
ただのソフィアとしてではなく、お母様の娘、お兄様の妹としてのソフィア・メルクリスとしてここに在るなら、私は目立つ事なんて躊躇しない。
期待なんてされてたなら尚更だ。
王子様と向き合っていた身体をヘレナさんに向ける。
そして、瞳に強い意志を込めて、お願いした。
「ヘレナ先生。さっきの試験無かったことにしてもう一度やってもいいですか? 今度は本気出しますから」
「ダメです」
やっぱダメかあ。
王子くんも心中では「お前聖女じゃなかったのかよ!」って言ってるよきっと。
やーいやーい、王子様に恥をかか聖女〜。




