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カイルの打たれ強さは誰のせい?


「さーて、ミュラーたちの方はどうなってるかな……って、うわ、これは……」


 学院でちょちょいとカレンちゃんに定石を教え込み、意気揚々と神殿への帰還を果たした私は、もはや訓練場と化している中庭で別人のように燃え尽きているカイルを見た。


 目に見える位置に外傷はない。魔力を伸ばしてささっと診察してみた限りだけど、身体も冷たくなってはいないし、呼吸だってもちろん途切れていない。


 けれど木剣を握り締めたまま柱に寄りかかって眠る姿は安らかで。

 その表情はまるで、もうこの世に未練はないと言っているかのような満足気な雰囲気に包まれていた。


「やっと帰ってきた! もう、二人とも遅かったわね。何してたの?」


「カレンとちょっと特訓をね……」


 私がミュラーの相手をしている間に、カレンちゃんは「……だ、大丈夫?」とビクビク怯えながらカイルの元へ。


 そのまま目を覚ましたカイルと「もうっ、心配したんだから……!」「悪い、また泣かせちまったな……」とか言い合ってたら面白いんだけど、現実にそんなにことは起こらない。怪我人救助の心得があるカレンちゃんは粛々と呼吸の確認、脈拍の確認などを行いカイルの状態に緊急性がないことを確認すると、最後に軽く怪我の状態だけを確かめて私たちの方へと駆け寄ってきた。実にクールな対応だと思う。


「カイルくんって、やっぱり身体が丈夫だよね。あんなに痣がいっぱいあるのになんで気持ちよさそうに眠れるのかな……?」


「ソフィアと私の幼馴染みだもの。ケガには慣れてるんでしょ」


 うんうん確かに……って、ちょっと待てぇい。今のは聞き捨てなりませんよ?


 ミュラーの中で私がどう思われてるのか知らないけど、やっていない事をさも事実のように語られたら堪りませんよ。ここはカレンちゃんが信じる前に否定せねば!


「いやなんで私?? 幼馴染みが原因だって言うなら、それは間違いなくミュラーのせいでしょ」


 いやいやホントに、なんで私のせいになるのかが理解できない。カイルとチャンバラ的な遊びをした記憶とかほとんど無いよ。そもそも怪我するような遊びとかしなかったからね。


 ……まあ、付き合いもそれなりに長いことだし。全く何も無かったのかと問われれば、そりゃあ少しは思い当たる節も無いことは無いけど。


 中でも強く印象に残っている記憶がある。ある日私の部屋で遊んでいた幼少期カイルがふざけた拍子に部屋に飾ってあった物を壊したことがあるんだけど、それがなんと、当時私がとても大切にしていたお姉様からの贈り物だったからさあ大変。


 その時だけは本気で「死ねやこのクソガキぁああ!!!」とブチ切れてガチの殴り合いをしたことがある……んだけど。いやホントに、カイルに怪我を負わせたのなんてあの時だけだし。あれ以降は怪我という怪我なんてさせたことないよ。嘘じゃないよ、本当だよ? ソフィアちゃん嘘つかない。……まあ消した記憶の中にはあるかもだけどさ。


 ともあれ、私はあの一件で深く反省したのでカイルを無闇に傷付けたりはしないのだ。ついでに言うとカイルも私には手をあげない。あれはお互いにトラウマみたいなもんだからね。



 ――とまあ、そんなわけで。


 私としては、その時の事が原因でカイルが変態マゾに目覚めてしまった〜とかでもない限り、カイルの異常性を私のせいにされるのは甚だ不本意なのである。


 ってゆーか順当に考えたらどう見たってミュラーのせいでしょ。


 ミュラーとカイルも昔からの知り合いで、カイルは昔からミュラーにボコられ慣れてる。そう考えるのが最も自然だ。


「ミュラーが今みたいにカイルの身体に教えこんでたんじゃないの?」


 私の発言に、ミュラーが「この子は何を言ってるのかしら」と言わんばかりの呆れ顔を見せた。カレンちゃんからも微妙に可哀想な子供を見るような目が向けられてる気がする。


 しまった、言葉選びを間違えたかな……?


 お兄様分が不足してるせいか、若干発想が下ネタ方面に寄っている気がしなくもない。


 言い訳をするべきかと悩んでいるうちに、ミュラーが溜め息と共に諭すような声音で説明を始めた。


「ソフィアはもしかして、幼い頃の私とカイルが模擬戦をするような仲だったとでも思っているの? 私は子供の頃から【剣聖】の娘だったのよ? 他所の子供と一緒になんてできるわけないじゃない」


 全く、何を当たり前のことを、という雰囲気も隠さずに語るミュラーだけど、マジごめん。多分私、ミュラーの言ってる事の半分程も理解出来てない自信があるわ。えっと、つまりはどういうこと?


 助けを求めてカレンちゃんに視線を向けると、困ったような顔で「その、ミュラーは昔から強かったから……」とのこと。そりゃ強さは一朝一夕には身につかないだろうけど……それが??


 まるで理解していない私の様子を見て、カレンちゃんは更に噛み砕いて説明してくれた。


「えっとね、普通の家では、まだ剣を取り始めた子供のうちだと、大人よりも弱いのが当たり前でしょ? でもミュラーは剣聖様の孫で、小さい頃から普通の大人くらい強かったから……」


「強かったから……?」


 オウム返しに聞き返すと、カレンちゃんはますます困った顔になった。


 え、え? なんだ、マジで分からん。カイルの親より子供ミュラーの方が強かったとかそういう話? でも二人は幼馴染みになってる訳だし……。


 必死に頭を働かせていると、呆れたミュラーが答えをくれた。


「私が同世代の子供と模擬戦をすると、相手の子が騎士になるのを諦めちゃうのよ」


「あっ、ああー……なるほどね」


 そっか、そういうことか。ミュラーって容赦なく顔面狙ってくるもんなぁ。そりゃ子供だったら「もうやだぁ!!」って剣なんか放り捨てて逃げたくもなるわ。


 私は深く納得した。


 つまりミュラーは、子供の頃から他所の子供をいじめ過ぎて対戦禁止になってたんだね。さもありなんだわ。


戦えないお友達だけならそれなりにいたミュラーちゃん。

一方でソフィアの幼少期時代の友人の少なさは、まだソフィア産の悪意が周囲の人々に馴染んでいなかったことに起因しています。

天使の微笑みと無差別の攻撃性(と受け取られてしまう、前世では一般的な感性)を併せ持つ子供。

むしろ母、アイリスが努めて友人になりえる子供を近づけないよう奔走したとか……。

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