魔法の試験を受けよう
どうも、この試験方法はここでは標準らしい。
桶にどれだけの水が溜められるか。
どれだけ遠くのロウソクの火が揺らせるか。
木板にどれだけの焦げ跡をつけられるか。
土をどれだけ動かせるか。
「っはあ! うー、魔法って疲れる」
マーレの試験が、終わった。
カイルの試験も既に終わり、残るは私だけだ。
後は私が、この二人と、ヘレナさんと、隣りの列にいる大勢の新入生たちの前で、恥ずかしい呪文を唱えて魔法の試験を終わらせるだけだ。
……どんな羞恥プレイかっ!!
嫌だよぅ、嫌だよぅ。一人の時ならまだしも、こんな大勢の前で「水の精霊よ!」とか背筋がゾワゾワしちゃうよぅ。
カイルたちがやってる時だって「あれを私がやるのか……」って絶望的な気持ちになっていっぱいいっぱいだったのに、本当に自分の番が来るとか、もうどうしたらいいんだろう。あ、ほら、ちょっぴり涙出てきた。
ここでは普通だって知ってるけど、知ってるから平気な訳じゃないんですよおー。
一人でならノリノリでポーズだって付けられますけど、衆人監視の前でやるのはご勘弁願いたいんですよおー。
それもこれもこの王子様がっ! 大量のギャラリーを引き連れてるのが悪い!
くそう、どうにかなんないかなあ。ヘレナさんの先生特権で後日別室でとかにならないかなあ。
こそーり相談してみた。
「ダメですよ。貴女のお母様にも頼まれているんですから、きちんと、して下さいね」
やっぱり? 詠唱もしなきゃダメ? ですよねぇー。はあ。
うう、心の準備が。
グダグダ引き伸ばしてる間に王子様たちがどっか行かないかと念を送ってるのに、あやつカイルと同時に始めたくせにまだ居座っていやがるんですのよ。
しかもなんかチラチラ見てくるし、明らかに私が始めるまで動く気ない。最悪だ。
こうなったらもう心を決めるしかない。発想の転換だ。
私は恥ずかしい詠唱をするんじゃない。音読だ。音の羅列を口から出すだけだ。
呪文じゃないから恥ずかしくない。これは定型文。枕詞。ただそういう決まりだから口にするだけ。断じて意味のある厨二的発言ではない!
よし自己暗示完了。
いっくぞー。
「偉大なる水の精霊よその御力を持ちて清らに流れる水をここに《水よ来たれ》」
量はえっとえっとえっとマーレくらい!
パシャンという軽い音とともに桶に水が貯まる。その量は狙い通り、マーレの時とほぼ同じささやかなもの。
よし、上手くいった。
安堵したその時、身体強化したままだった私の鋭敏な聴覚が、その呟きを拾ってきた。
「なんだ、こんなものか」と。
思わず振り返った先にいたのは王子様。私が反応したことに驚いた様子だったけど、それもすぐに微笑みの仮面に隠された。
「失礼。かの賢者アイリス様の御息女にして聖女と名高いソフィア殿の魔法が見られるとあって、期待が大きくなりすぎていたようだ」
はぁん、聖女?
王子様にガン飛ばしちゃったよどうしようとか考えてたのに全部すっ飛んだわ。
何言ってんだこの人。
マーレの熱い視線!王子は振り向いた!
王子は微笑みを浮かべた!マーレは幸せそうだ!!




