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圧倒的な敗北感


「んにぃ〜〜ッ! ちょっとタイムぅ!!」


 地面に這い蹲った体勢のまま、思わず全面降伏とも取れる言葉を吐かされることになってしまった。なんたる屈辱……ッ!


 でもね、明らかになんか変だと思うの。こんなに一方的なのはナシだと思うの。


 そりゃフェルもエッテも常人では捉えられない超スピードで動くことくらい理解してるよ。でも昨日までは《身体強化》掛けてちゃんと気を付けてれば避けられたハズなの! 少なくとも昨日まではそうだったの!


 それがなんだい! 今日は五分足らずで何回倒されたんだい!? 走り出そうと思った時には転ばされててろくに走ることすら出来ないとかありえないでしょ!! 私は起き上がり小法師じゃないんだぞっての!!


 まったくもう、堪んないよね。この訓練は運動能力を鍛える以上に魔法を使った状態で身体を動かす爽快感を味わうことが目的なのに、今日は身体を動かす快感とか皆無だわ。まだ土と仲良くなる活動しか出来てないわ。私は風とお友達になりたいの!


 すっくと立ち上がって身体を見下ろす。魔法による防御のお陰で傷もなければ土だってついてないけど、心の中は土塗れって感じだった。フェルもエッテもマジ容赦ない。


「キュ?」


「キュキュ?」


 茂みを揺らして「どうしたの?」って顔した二人が顔を出してきたけど、どうなってるのかは私が聞きたい。今日の訓練は楽しくないです!!


「二人とも、特に本気とかは出してないよね?」


「キュウ?」


「キュッ? キューイ」


 顔を見合わせて首をフリフリ。二人はいつも通りにやってるらしい。


 となると、やはり私か。私が無自覚に不調なのか。


 自身に向かって魔力を放つ。ギュギュンと身体中を一回り検診してみた結果、あちらこちらで僅かな倦怠感がみられるという結果が得られた。


 あと頭ね。やっぱり頭がちょっと良くないらしい。

 バカとかアホとかそっち系の「頭が良くない」ではなく、頭部に不調が見られるって意味の方ね。説明するまでもないだろうけど。


 魔力を用いた簡易検査の後、意識を沈めて体内の魔力を動かしての検査まで行った結果、どうやら私は魔力を感知する能力が低下していることが新たに分かった。自覚症状なかったからびっくりしたよ。


 試しに探査の魔法を広げてみる。

 自身の魔力を薄く広げ、森の中を探ってみると……うん、やっぱりそうだ。弱い反応が感じ取りづらくなってる。木の内部で動く水の動きとか、小さな虫の呼吸とか。そういった微弱な反応が強く意識しないと拾えなくなってる。敗因はこれかぁ。


 フェルもエッテも動くのめちゃくちゃ速いから、避けようと思ったらその初動を捉える必要があるんだよね。だのにこの子ら、どういう原理か動く時にも音とか全然立てないから、居場所を探るのがもう本当に大変で。動いてる最中だと《探査》の魔法でも追い付けないから、いつもは風の動く音とか舞った土同士のぶつかる音だとかを聴いて居場所を判別してるんだよね。


 なのに今日はその細やかなセンサーがまともに機能していなかったみたいで。動き出しの音を捉えることが出来なかった私は、見事ボコボコのボコにやられちゃったわけなんですね。


 ……一方的に負けた原因が分かってスッキリはしたけど、これ、治せるのかねぇ?


「《快癒》」


 とりあえず自身に対して回復魔法を施してみた。


 額を突っつき魔法を発動させると、ほわわっとした温かさを感じると共に疲労感は抜けたけれど、魔力の感知能力については……あー、うーん……。多少は改善してる、かなぁ……?


「キュ? キュッキュ?」


「キュキューイ」


 うん、そうだね。いつも通りの訓練を続けるのは無理そうかもしんない。


 負けたまま切り上げるのは腸が煮えくり返りそうになるくらい悔しいけれど、このまま続けたってまた地面に転がされるだけの展開になるのは目に見えてる。この子らも可愛い顔して心配してるようには見えるけども、訓練を再開したら絶対容赦なく襲ってくるし。これ以上地面さんに接吻とかしたくないのよ。


「ちょっと早いけど、今日の訓練は終わり! 後は普通に走るだけにしよう!」


「「キュー!」」


 宣言と同時、二人は残像すら残さない速度で消えていった。

 普通とは何か。そこに断絶した意識の違いがあるような気がしてならない。


 ……お母様も私に対して、似た様なことを思ってるんだろうなあ、なんて考えが思わず浮かんでしまったけれど、それは私が気にすることではないと思い直した。わざと困らせるような意地悪をしているのならともかく、普通に過ごしてるのに「また変なことをして……」と言われるのなら、それは何が普通で何が変なことなのかを説明しない方が悪いと思う。つまり私は悪くない。お母様の教育不足だ。


 翻ってこの場合は、私がフェル達に対して教育が足りていないということになるのだろうが、お母様とちがって私にはこの意識の違いを正そうとする意思がない。そもそもの話、フェル達は間違った行動を起こしたわけではないのだから。


 勘違いとかすれ違いって、人生にアクセントをもたらす素敵な要素だと思うのよね。そもそも他人を完璧に理解するなんて不可能なんだし。


 普段は思い通りに、でも時には思いもよらない事が起こるからこそ、人生は楽しいのだとソフィアさんは思うのですよ。


 自分のペースで走りながら、私はそんなことを考えていたのだけど……ああでも、一つだけ例外があったなと、不意に浮かんだ事柄があった。


 理不尽な敗北だけはなるたけ少ない方がいいよね。

 手も足も出ずに負ける経験とか、私の人生においては最小限でいいです。もう二度と結構ですので。


 ……次からは訓練の前に、必ず身体検査するようにしよっと!


遊びでも全力で。ただし負け確の遊びはお断りします。

基本的に勝てる勝負しか受けないソフィアちゃんは、敗北への耐性がめちゃくちゃ低いのです。見た目相応なお子ちゃまなのです。

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