改めて見ても弱っちい!
――正直なところ、初めのうちは警戒していた。
現在相手にしているカイル。そして、戦うことに前向きな姿勢を見せるカレンちゃん。
この二人の対戦相手がいたところで、それでもミュラーは私との戦いを望むのではないかと、最初のうちは警戒をしていたのだ。
けれどその不安が実現することは無かった。私の予想は外れたのだ。
それもなんと、ただ偶然に外れただけではない。
既にボコボコのボロボロになるまで打たれまくって、もはやミュラーの相手としては価値が無くなったとしか思っていなかったカイルが、カレンちゃんが応援に来た途端に不死鳥の如く蘇ったのだー!! さっすが男の子、現金なものだね!!
ミュラーや私の前では頑張ることなく負ける癖に、可憐なカレンちゃんの前では少しでもいいところを見せたいという男心的なものがあるのだろうか。どうせカイルが弱いのはカレンちゃんだって知ってるんだから今更取り繕ったところで無駄ではないかと私なんかは思うのだけど、いやー男の子は大変ですねぇ。にやにや、によによ。ふふふのふ。
そんなわけで、現在は歯応えを取り戻したカイルをミュラーが喜んでミンチにしている真っ最中であります。
魔力の強化がなかったら腕の骨とか初めの一発貰った時点でよゆーでポッキリ折れてるよねアレ。正に人間をミンチにする乱打だと思います。えぐいよねー。
そして私は、そんなメチャクチャ痛そうな訓練を続ける二人を眺めながら、頑張ったのにそれでも余裕で負けたカイルにどんな言葉を投げかけてあげるのが最も楽しいのかを考えているというね。こんな時間がこの上なく愉しく感じられるのは、やはりリンゼちゃんの言う通り私の中に悪意というものが溢れているからなのでしょうかね。
もうね、その時のカイルの嫌そうな顔を想像しただけでもう、胸のドキワクが止まらないんだよね。
もしも動けなくなるまでボコボコにされたカイルが、カレンちゃんを前にして恥ずかしそうにしてたら、その時はさ。もう絶対、涙目になるくらいに弄り倒してあげちゃうもんねー! ふっへへへ!
「カイルくん、すごいね……」
「うん、そうだね」
個人的にはカレンちゃんの方がすごいと思うけどね。剣術まともに習い始めて一年ちょいでミュラーに迫るとか相当よ?
自分の力に無自覚なのっていつか不幸な事故が起こりそうで恐いんだけど、その時にはまたカイルが被害者になりそうな予感しかしないのはなんなんだろうね。カイルがもし占い受けたら間違いなく「女難の相が見えますね」とか言われそう。なにせ私とミュラーの幼馴染みだしね?
というか、カイルはもう悲しくなるくらい本当に、周りの人達の強さと釣り合ってないんだよね。戦闘のセンスが圧倒的に足りてないの。
フィジカル的には既に最低基準くらいは楽々クリアしてるんだけど、魔力の使い方がどうにもなぁ……。ああほら、今のだって十分避けられる攻撃だったのにモロに食らって。戦術を組み立てる脳が足りないのかな?
まあそれ以前に、あんなに痛そうなのに降参しない意味もわからないのだけど。カレンちゃんの言う通り、マゾって凄いなーとか、そんな月並みな感想しか出てこないレベル。
もし私がカイルの立場だったらどうするかな。やっぱり手首に一発貰って「もう剣を握れそうにないかも……。今日はここまでだね」って状態に持っていくのが安牌かな。
もうね、好き放題に打たれまくってて見てるこっちまで身体がぞわぞわしてきちゃう。折角ミュラーが手加減してあんなに遅くしてくれてるんだから少しは避けるとか受けるとかすればいいのに、ぜーんぶ身体で受けるとかマジありえない。痛覚とかそろそろ壊れてるんじゃないかな?
それにしても、まるで身体で受けるのが目的なような有様で……いや、まさか本当に攻撃を受けることこそが目的なのか? 痛みに慣れる訓練とか……? 根性鍛えてる的な?
いやー、ないねー。そんな地獄の訓練なんて、二人とも好きそうではあるけどミュラーはもっと合理的なはず。カイル叩くのだって連日やってたら飽きるだろうし。
なら、他にはどんな理由が考えられるだろうか。……ミュラーの動きに目を慣らしてる最中、とか?
「ねぇカレン、あれって何の訓練してるんだと思う?」
「えっ? ……いつも通り、隙を打ってもらってるだけだと、思うけど……」
隙。隙ね。つまりカイルは普通に構えて立ってるだけでも隙だらけだと。……まあ確かに、攻撃が全部綺麗に入ってるもんなあ。
……えっ、つまりカイルはあれでも避けようとしてるの? うっそでしょ。
もう一度、よくよくカイルを観察してみる。見ている間にも打たれ徐々に後退をしていく足元。無意味にフラフラと揺れる木剣。身体は完全に痛みに対して縮こまり、既に反撃の意思は折れているように見える。
……えー、防戦に徹してるのにあの速度の攻撃を受けることさえできないの? そりゃあミュラーがつまらなそうな顔になるのも納得だわ。
カイルの弱さは扱える魔力の量を増やせばなんとかなると思ってたけど、どうもそれだけじゃ足りないみたいだね。
判断の高速化と、あと動体視力も強化が必要かな……?
カイルは普通の訓練を受ける前に、少しだけ、個別のお勉強が必要なのかもしれないね。
世界最強女子たちの常軌を逸した要求が純朴な少年に襲いかかる……!!




