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 不思議なおやつを楽しんだ後、少し早いけれどリンゼちゃん唯ちゃんと一緒にお風呂に入ることにした。例のネクロノミコンについての確認をする為である。


 おやつの感想を言い合いながら脱衣を済ませ、仲良くイチャイチャしながら身体を洗い終え、湯船に浸かって気の緩んだその絶好のタイミングを見計らい、私は二人に話を切り出したのだった。


「ところでさ。二人にちょっと聞きたいことがあったんだけど――」


 ヘレナさんの研究室で見た、読めないけれど恐らくは日本語で書かれているだろう謎の本。そのような物を用意出来るのは、日本語を知る私達の中の誰かしかいないと考えたこと。


 それらを順序立てて説明し、本の筆者を確かめようと思ったのだけど……ここで想定外の事態に陥った。


「そんな物があるのね。期待に添えなくて悪いけれど、私はそんな本を書いた覚えはないわよ」


「ごめんなさい。私も知らないです」


 二柱の神様はどちらもそんなものは知らんと仰る。


 いや現在まで変わらずに一人で創造神やってた唯ちゃんはともかく、リンゼちゃんは分身が人間体になってたり、本体が一度消滅したりと様々なイレギュラーを経ているから、どこかで記憶の断絶が起こってる可能性もあるんじゃないかなー? なんてことも思ったのだけど、どうやらそんなこともないらしい。一度消滅した女神の方(ヨル)ならともかく、それ以前に全ての記憶を移し替えたリンゼちゃんの方は分身を作る段階以前の記憶は一部の欠損もなく保持しているのだそうだ。


「まあ完全に覚えているとはいえ、人の身に移し替えたのだから多少の劣化はあるかもしれないけれど。少なくとも私が認識している範囲においては、私の記憶は確かなものであるはずよ」


 ということらしい。人の身でも流石は神様といったところだろうか。


 で、その確かな記憶によると、日本語の本など書いた記憶は無いとのこと。ここまで自信満々に断言されるってことは疑う余地すら無いんだろうね。


 ならばもう一方の唯ちゃんはと言えば。


「私ですか? 私はそもそも本なんて書けなかったし、書いても外に出す手段も無いし……。本どころか、食事だって……」


 そうだった。唯ちゃんはそもそもこの世界の神の座に無理やり据えられてただけで、実質的には監禁状態にあったんだったね。本を書く環境すら無いんだし、そもそも選択肢に入れてたのが間違いでしたか。


「あああ、ごめん、ごめんなさい。嫌なことは思い出さなくていいからね。ほら、今はゆっくり休んで? 気持ちいいことに身を委ねて、他のことはなーんにも考えないで……ね? リラックスして……ね?」


 あーあ、しまったなー。唯ちゃんを疑ったのは失敗だった。


 うう、最近やっと明るくなってきたのに申し訳ないことをしてしまった。これでまた卑屈にならないといいんだけど……。


 催眠術の技術すら使って唯ちゃんの精神をケアしていると、それを眺めていたリンゼちゃんが呆れたように息を吐いた。


「そうやって同じ恩を何回も売っているのを見ていると、ソフィアって自分で言うほど清らかな人間には見えないわよね」


「リンゼちゃんとは多分基準が違うからね」


 そもそも本当に自分のことを清らかだなんて思ったことはありませんよ! そんなのいつもの冗談に決まってるでしょ!

 まあリンゼちゃんが言うほど悪意に染まってるとも思ってないけどね。


 その点に関して言えば、やっぱり悪意だけを抜き取られたこの世界の人達の方が異常だと思うんだよね。悪意がない人間の怖さは悪意がある人間の比じゃない気がする。本能が感じる恐怖心という意味で。


 まあ所詮は今までに本気の悪意を向けられたことがない子供の感想でしかないんだけどね。


 ……んー、でも、そうか。リンゼちゃんでもなくて、唯ちゃんでもありえないのか。


 そうなるとどういうことになるんだろうか? まさかヨルにくっ付いてたシンの方とか?


 あの男神、ヨル以上の人間嫌いに見えたんだけど……実は私の前だからツンデレてただけで、本当は人間大好きとかあるんだろうか。だとしたら明確な殺意を向けられた私は人外判定食らってたってこと? ハハハハ、まっさかぁ。そんなわけないよね。


「シンは人間嫌いだから違うと思うわよ」


「心読むのやめてもらっていいかな?」


 まさかリンゼちゃんまでそのスキルを習得しているとは思わなかった。え? 私の表情が読みやすいだけだって? いやん、そんなに見られたら照れちゃいますよぉ!


「で、リンゼちゃん先生的にはこれ、どういうことだと思う?」


 日本語を知ってる人は限られているのに、その誰もが本の製作に関わっていない。これはいったいどういうことか。


 とりあえず分からないことはリンゼちゃんに聞く。するとね、半分くらいの確率で答えが帰ってきたりするんだよ。リンゼちゃんの神様知恵袋は伊達じゃないのだ。


 果たして今回も、リンゼちゃんの答えは明快だった。


「私達の誰も知らないのなら、それは別の人が書いた物ということになるでしょうね。そもそも本当に日本語で書かれていたのかしら?」


 まーそーなるよね。私も自信なくなってきてたし。


 いくら汚く崩れた、まるで読みづらさを極めたような文字であっても、見慣れた日本語であれば熟語のひとつくらいは拾えなければおかしいと思ってたんだ。やっぱりあれ、形が似ているだけの別の文字だったのかな。


 となると、ヘレナさんから借りれなかったのは逆に良かった可能性も出てきたな。自信満々で「任せて下さい!」って言ったのに実は勘違いでしたとか恥ずかしいもんね。


 ……まあ現状、高確率でその恥ずかしい状況に陥ってるんだけど。



 …………頼まれなかったんだから報告する必要は無いとか、そんな都合のいい考え方……どうかな? ……やっぱナシかなぁ?


ソフィアの心を読むスキルは比較的簡単に習得できるものであるらしい。

ソフィアも知らない事実ではあるが、実は実家のメイド達の中にも数名、似たようなことが出来る人物がいるのだとか……。

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