筆記試験を受けよう
そんなわけでやってきました。
新入生一斉、大筆記試験〜。わ〜。
変なテンションになってる自覚はあります。
いやね、実は私、テストって大好きなんですよ。
前世では「変態」とか「ありえん」とか散々言われたけど、みんなが同じ事をしているっていうあの安心感? 空気?
図書館の静けさとは違った良さがあるよね!
だから教室中の生徒がソワソワしてるこの試験前の感じも好き。懐かしすぎて愛おしさすら覚えるってものですわ。
だから試験のために王子様と引き離されたマーレの愚痴だとか王子様を賛美する言葉だっておおらかな心で聞ける。
もうカイルに飽きたのかとか思わないでもないけどね。
「マーレ。王子様もいいけど、試験は大丈夫なの?」
「大丈夫よ。特別クラスに行きたい訳でもないし」
「あ、そうなの」
そうなのか。
王子様王子様言ってるからお近付きになりたいのかと思ったけどそういうわけでもないのね。
やっぱりアイドル心理はよくわかんないね。
「カイルは……大丈夫。勉強ができなくても学院には入れるからね」
「オマエ失礼すぎない?」
カイルのステータスは運動に極振りだもんね。
勉強ができなくても取り柄があって良かったね!
「少なくともマーレよりは勉強できるぞ」
「えっ、うそだあ!」
本好きな友達、略して本友のマーレより勉強できるとかカイルの存在意義に関わる重大事じゃん! さてはカイルの偽物だな! 替え玉受験だな!
「嘘じゃねーし。前に算術の問題教えたことあるぞ」
えー。本当かなあ。
あれ? っていうか、え? それ、いつどこで?
二人ってそんなに仲良かったっけ? 奥手だと思ってたけどマーレって案外……抜け目ない!?
私の好奇心に満ちた視線に気付いたマーレが慌ててかぶりを振る。
「や、違くて! 本! 算術の本読んでた時にちょっと教えて貰っただけだから!」
へーえ、ふーん、ほーん。
ニマニマ見てると赤くなってく。かわいいのう。
それにしてもカイルが算術ねえ。
騎士団長とか目指すなら部隊指揮とかに色んな教養が必要になるだろうし、叩き込まれてるのかもしれないね。
「なんだよ。俺が勉強出来たら不満か?」
「いや、隊長とかになったら算術くらいできないとダメだろうし、いいんじゃない」
なんせ文字すら危うい貴族が以前にはいたらしいからね。
今はそんな人はいないみたいだけど、学はあればあっただけいいと思う。
「そう考えれば王子様も大変だよね。特別クラスになるために頑張ってたりするのかも」
「え? ヒース様が?」
なぜ驚く、マーレよ。
「だってみんなを導く王族が頭悪かったら、ついていく人は不安になっちゃうでしょ」
言ってから気付いたけど、王子様聞いてたりしないよね。
軽く教室を見回してもそれっぽい人集りは無かった。別の教室で試験を受けるみたいだ。
あの人見つけやすくていいよね。
「つまり、ヒース様は特別クラス?」
「そりゃそうだろ」
何やら考え込んでいる様子のマーレ。
まあ何考えてるかは手に取るようにわかるけどね。
「決めた。私も特別クラス目指す」
「うん、頑張って」
マーレも同じクラスなら楽しそうだ。
ただ、今頃決心しても気合い入れるくらいしか出来ないんじゃないかなとは思うけど。気合いも大事なんだけどね。
「いいんじゃねーの? 目標は高い方がさ」
ふっ、カイルのくせにいいことを言うじゃないか。
そうとも。試験は試験前も大事だけど、同じくらい試験中の集中力も大事なんだ。
極論、人は一回見たものは覚えてる。覚えてるものは思い出せる。ただ、何回も見たものの方が思い出しやすいだけだ。
何回も覚える余裕がなくたって、やる気でカバーすればいい。今のマーレならそれができる。いや、無理にでもするのだ!
頑張れマーレ、負けるなマーレ!
私たちの試験が、今、始まる!
「わーいテストだテスト、頑張るぞー!あれ?何か忘れてるような……ま、いっか!」