学院で友達と挨拶しよう
学院は、おっきい。
学院に来るのは初めてじゃない。
でもこれからここに通うことになると思って改めて見れば、やっぱでかいなーって思う。簡単に迷子になりそうだ。
でも今日ばかりはそんな心配も必要ない。
馬車を降りてからここまで、新入生の波が途切れることは無いし、先生っぽい人もあちらこちらにいる。迷子対策は万全だ!
やっぱりこれだけ広いと毎年迷子が出てたんだろうなあ、なんて一人で納得してたら、聞きなれた声が私を呼んだ。
「ソフィア〜」
マーレだ。
何気に外で会うのは初な気がする。
貴族の敷地って意味ではここも大差ないんだけど、ドレス姿じゃない私服のマーレが外にいるのって新鮮な感じがする。
とりあえず人の目もあることだし、楚々とした挨拶を交わして淑女らしく微笑んでみた。
すぐに合わせてくれるあたり、マーレも立派な淑女だね。
「よう」
「おう」
そしてマーレの隣には何故かカイルもいた。マジで何故いるのか理解できない。遂に付き合い始めたか?
「ソフィア、おうって……」
「御機嫌ようカイル様。今日という晴れの日を天が祝福しているかのような――」
「そういうのいいから」
こやつめ。
マーレの手前、一応キチンと挨拶してやってもこの反応。
知ってたけどね。
「ほら、カイルもいいって」
「ソフィア……」
なぜだか呆れられた気がする。おかしい。私はちゃんと挨拶したのに。
とりあえずカイルが悪い。
一言文句を言ってやろうと思ったら、その向こうに人だかりが見えた。
新入生が固まって、何かを……女子の割合が多いかな?
「あれ、なんの集まり?」
分からないことは聞く。これ、世界の常識。
「なんだろうね?」
「さあ」
聞いても分からなかった。そんなこともある。
カイルが素っ気なさすぎる気がするけど、どうせ先日のお父様との勝負で惨敗したのを気にしてるだけだろう。寛大な私はお子様の虫の居所が悪いのくらい、寛大な心で許してやるとも。大人だからね。
「新入生が集まってるみたいだし、私達も行こう?」
ほらごらん、マーレも大人の対応ですよ。
空気が悪くなりそうなのを察して機先を制する。きっとそのはず、偶然じゃないはず。
男子ってホント子供だよねー。と言い合える仲間が欲しい。
子供な男子は放っておいてマーレと人混みに近づいてみれば、その集まりの様子が分かった。
中心にいる人物を囲って人の輪ができている。
その人物とは――
「王子様だよ!!」
叫んだと思った直後、人垣の一部と化したマーレ。
早業だった。
マーレが突撃した際にちらっと見えた王子様の横顔は、そりゃまあ確かにお綺麗なもんだったけど、君らパーティーでも見てるでしょ? と思わずにはいられない。
キャーキャー言うほどのもんかねえ?
「お前は行かねーの?」
追いついてきたカイルに問われて考えてみる。
王子様に会ったのに挨拶もしないのは失礼に当たる。挨拶はするべき。
でも、これは果たして会ったと言える状態なのか。
そもそも挨拶に順番待ちする慣習は未だに慣れないというか、ぶっちゃけ出来ることなら回避したい。
王子様も忙しそうだし、私たちに気付いてたとしてもこの状況で挨拶する相手が減って喜びこそすれ、怒ることなんてないでしょ。
結論、無視しよう。
「王子様はお忙しいみたいだから、先に行ってマーレの席でも確保しておくことにするよ」
「ふーん、そっか」
いや、席とかあるのか知らんけどさ。
そしてマーレと別れてから何故か口数の増えたカイルの相手をしながら私は、この後に待つ試験への対応に思いを馳せるのだった。
……王子がずっと私を見てたことになんて気付かずに。
お父様の高笑いとカイル少年の悔しがり方からソフィアが勝手に想像しただけで、別にカイルくんは惨敗してない。惜敗でもないけど。