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脳筋女子の常識


 お兄様の筋肉を触るという妄想。


 成程、それは破廉恥と罵られても仕方の無い所業かもしれない。どこの筋肉を触っている妄想かは知らないけれど、きっとそのお兄様は肌をある程度露出しているのだろうし、異性の素肌を意味も無く撫で回す行為はどう考えたって性的な印象が付きまとう。


 だけどね。


「ミュラーってやっぱりそういうのが好きなの?」


「そういうのってなによぉ!?」


 あっ、もしかしてミュラーって自爆したら大声で誤魔化すタイプなのかな? だとしたらとてもやりやすくて助かりますね。


 ひとまず状況の整理でもしてみようかな。私が「筋肉よりお兄様だよね」と言ったら、ミュラーは即座に「ロランド様の筋肉なんて破廉恥だわ!」と。つまりミュラーにとってはお兄様イコール筋肉?? いやまあ、確かにお兄様の筋肉は中々のものではあるけど大事なのはそこじゃなくて。


 ミュラーにとってお兄様の筋肉は、破廉恥ではあるけど、筋肉と言われたら咄嗟に思い浮かんでしまう程度には魅力的に映る存在だということだ。


 ……ていうかこれ、絶対見たことある人の反応だよね? 何処で見たんだろう、って、まあミュラーの家しかないだろうね。お兄様、今でもミュラーの家に剣術習いに行ってるはずだし。


 ……それにしても、ミュラーが見惚れる程の筋肉、か……。それは、その。なんというか、改めてそう認識しちゃうと、私もちょっと意識してしまうというかね。お兄様の筋肉は、確かにイイよね。


 今日もさりげなく触ったりはしたけど服越しだったし。太ももの筋肉はレアな感じがして優越感に浸れるいいものけど、触り心地を楽しむのなら断然腹筋と か二の腕とかね。そっちを触らせてもらって「うわぁ……硬い……」とか言ってる方がね、女の子として意識して貰えるよねって話。


 ……ん? そういう意味では、未だに膝上が定位置な私は女の子というより単なる子供と……いやいや、でもちゃんと女の子として扱ってもらってますし。お兄様も割とドキドキしてること多いから、きちんと異性として見られてはいるハズ。


 ……しかし、そうかぁ。ミュラーがねぇ。ふぅん。


「いや、分かるよ。お兄様は素敵だもんね。ミュラーもお兄様の素敵な筋肉に見蕩れちゃったんだよね?」


「そんなこと言ってないでしょォ!?」


 はっはっは、隠すな隠すな。その真っ赤に染まった頬が何よりの証拠ではありませんか。でもちょっとばかし声が大きいかもしれないね。


 お兄様を褒め称える話題ならいつだってウェルカムだとはいえ、カイルやお兄様がいつ通りかかるかも分からないこんな開けた場所で話を続けるのには流石に抵抗があったので、そっと遮音結界を展開してみた。ミュラーは私が魔法を行使したことにも気づかない様子で相変わらず顔赤くして喚き続けている。


「わ、私はただっ、ソフィアが変なことを言うからぁ!!」


「変なこと」


 変なことねぇ。……言ったかな? どれのことだろ。


 どのことを指して言っているのかが分からなかったので素直に聞いてみたら、どうやら「身体を洗いながら親しい異性である兄のことを考えるだなんておかしい」ということらしい。そんな発言をした覚えは無いが、その行動自体は否定ができない。


 私はさりげなく論点をズラした。


「家族のことを考えるくらい普通でしょ。変って言うなら身体を洗う度に筋肉の成長を確かめてるミュラーの方がよっぽどだと思うけど?」


「そんなわけないでしょう。その日の成長を確かめないなら何の為に修行をしているのよ。こんなの誰だってしてることでしょう」


 いやいやそんなわけないでしょ。そんな誰もがミュラーみたいな……え、してないよね? してるの? いや……んん?


 まさかと思い、数時間前の情景を思い出す。


 私がお姉様に洗われていた時のことは分からないけれど、カレンちゃんがお姉様に洗われていた時には、自分の肉体を確認するような動きは……して、いなかったように思う。


 ……うん、してなかった。していなかったはずだ。


「少なくともカレンはしてなかったけど」


「そんなわけないでしょう」


 あら一蹴。

 そこまで自信満々に言いきられちゃうと、私も自信持てなくなってくるな。


 なんたってカレンちゃんは、どー考えたって筋肉陣営に属する人種だからね。多分考えてる事も私よりミュラーの方が正確に理解ができる。家柄で考えてもミュラーとカレンちゃんは非常に近しい。同種の人間とさえ言えるだろう。


 ならやっぱり、ミュラーの言うことが正しいのかな? 一昨日一緒に入った時はどうだったっけ。


 うーーむ。体型とかはよく覚えてるんだけど、行動はなぁ……いちいちそんな確認してなかったからなぁ……。


 私が真剣に悩む様子を見て、ミュラーも異変に気付いたらしい。僅かに目を見開くと「……本当に?」と窺う声が。


「……もしかしてソフィアもしていないの?」


「するわけないでしょそんなこと」


 今度は大きく目が見開かれた。


 ミュラーの背後に幻想の落雷が発生し、「そんな馬鹿な!!」というオノマトペが見えた気がした。


「なんでしないの!? そんなんじゃ人生に張り合いがないでしょう!?」


「いやいや張り合いって」


 そんなことを言われても、そんなものに張り合いなんて求めてませんし。


 今日神殿に来てた子達だって、筋肉に張り合いを求めるくらいなら恋に求めるタイプでしょうよ。


「り、理解できない……」


 ついには頭を抱えて縮こまってしまった。


 私からすれば、ミュラーの方がよっぽど理解できないんだけどねー?


「あら?聞こえなくなったわね」

「ソフィアが遮音結界でも張ったんだろうね」

「それはつまり、隠さなきゃいけないようなことを話してるってことね!?」

「姉さん……。あんまりやりすぎるとソフィアに嫌われるよ?」

「じゃあロランドが盗聴した内容を教えてくれるの?」

「…………」

「あらあら、やっぱりまだ盗聴してたのねぇ。やりすぎて困るのはどちらかしらね〜♪」

「……………………」

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