学院へ行こう
ついに迎えた、学院への登校日。
学園と学院の違いとか知らないけど、きっと学園モノが始まる場所。
私の物語はここから始まる! そんな予感がする!
「ソフィア。問題を起こすのは程々にしてくださいね」
「ソフィアも学院に通う年になったか……。感慨深いものがあるな」
辛辣なお母様と比べて、毒にも薬にもならないお父様の言葉のなんとありがたいことか。
とはいえ、お母様の言うことだ。問題を起こすこと前提なのは不服だけど、私のことも学院のことも知っているお母様が言うのなら、問題は起こりそうな気がする。
一応心に留めておいて、問題無く過ごして驚かせられるように頑張ってはみるけど。気構えだけ、努力目標って感じでね。
我ながら目標低いけど、本当に何も問題が起こらなかったらそれはそれで寂しい感じするし。
「これからはソフィアと一緒に通えるね」
「はいっ、お兄様!」
そう、そして私が通学することにより離れていたお兄様との距離がまた縮まることは確定しているのだ!
これぞ最大の利点。ああ癒される。お兄様さいこう。
思えば、ここに来るまで色々あった。
自称お兄様の親友が我が家に来たりだとか、自称お兄様の恋人が我が家来たりだとか、それはもう色々だ。
だがそれらの試練を乗り越えた今、私とお兄様の仲を阻むものはもはや存在しない。
さあいざ! 参りましょう! 私たちの通学用馬車へっ!
ウキウキ気分でお兄様のエスコートを待っていると、私の手と視線の意味に気づいたお兄様が気まずそうに頬を掻いた。
その反応だけでもうエスコートされないことは分かった。気分が一気に沈んでいく。
「あー、ソフィア。誤解させたみたいで申し訳ないんだけど……」
お兄様は私を傷つけないように言葉を選んでくれる。丁寧に、お姫様みたいに扱ってくれる。それは嬉しい。それがお兄様の好きなところでもある。
でも、おあずけはやっぱり辛い。
「今日は新入生の試験に先生方が付きっきりになるから、他の学年は休みなんだ」
――恨むべきは神か、女神か。それとも学院長? 王様かな?
たかだか兄と一緒に登校できないくらいでね、いちいち怒ったり悲しんだりなんて非効率的なことくらい自覚してますとも。
でも! 悲しい時は全力で悲しむのが人間として正しい姿なんじゃないでしょーか!
泣くほどではないから泣かないけど、全身で悲しみを表現しちゃうのは感情を持つ生き物として自然な行いであると私、信じてますから!!
だからこうするとお兄様が優しくなるのを知ってたとしても、決して打算的な行動ではないのです。悲しみが溢れてしまっただけなのです、うへへ。
もちろん優しいお兄様は、悲しむ私の頭を優しく撫でてくれる。それだけでソフィアちゃんの機嫌ゲージは全回復だ。
本音を言えば抱き締めてくれてもいいんだけど、お兄様はシャイだから仕方ないね。
それに焦らされるのも悪くない。いざという時、熱く抱きしめられた時の破壊力を想像するだけでいくらでも我慢できちゃう。
「次からは一緒に行こうね」
「はい!」
我ながらいいお返事が出た。
お兄様との登校、楽しみだなぁ。
お兄様も濃い学院生活を送っているようです。