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神殿のお客様第一号


 さて。重大な事実が判明したところで私の日常は変わらなく過ぎてゆく。


 今日も午後の授業を(つつが)無くやり過ごし、神殿に帰還。今日はヘレナさんとの約束の無い日だったからね。学院で美味しいお菓子にありつけなかった分、遅めのおやつタイムで糖分(元気)の補給を……とか考えていたら、神殿にまさかの訪問者が来襲。学院のクラスメイト達がアポ無しでやって来たのだった。


「やっほーソフィア。来ちゃった♪」


「ごめんねぇソフィア。あたしは一応とめたんだけどこの子聞かなくってさ。でもほら、ここでロランド様が暮らしてるとか、誰でも訪れてもいい施設とか聞いたらねぇ。ほら……ソフィアなら分かるでしょ?」


「神殿、奇麗。おっきい。……それに、神々しい? 神聖な気を感じる」


「貴女、神気なんて分かりますの? まあ綺麗というのには同意できます。清掃はしっかり行き届いているようですわね」


 いち、にい、さん、四人。


 四人ものクラスメイトが事前の連絡もなくやってくるだなんてありえない。彼女たちは突然訪問された側の迷惑を知る貴族に属するお嬢様だ。これは間違いなく手引きした存在が身内にいるはず!


 半ば確信と共に先に部屋を出て四人組の対応を始めたミュラーとカレンちゃんに物言いたげな視線を向ければ、私の意を受けたミュラーが困ったような、楽しげなような……。複雑な感情を帯びた笑みをその顔に浮かべた。


「本当にカイルが言った通りの反応をするのね。彼女たちが来ることはソフィアだって了承してたじゃない。覚えてないの?」


 覚えてないも何も、了承なんてしてませんが。


 条件反射のように否定したくなったものの、ミュラーは基本的に嘘を吐かない。

 私だって無意味な嘘は吐かないが、今回のはそれ以前の問題。記憶にないってことはそんな事実は存在しないってことだ。


 そもそも今日は午前中以降はずっと……あー、お母様が話してた内容が気になりすぎて、若干、そう、若干雑に返事をしてたタイミングがあったような、なかったような……? その時に上手く神殿への来訪を承諾させられてた感じですかね?


 この子ら昨日から引き続き、飽きもせずにカイルとの関係を根掘り葉掘りと聞いてくるんだもの。返事が適当になっちゃったのはむしろ彼女たちの計略の内じゃないかと。決して私が友人たちを蔑ろにしたわけではないのよ。


 まあなんにせよ、友達を大切にするのは大切だよねと、私が密かに思いを新たにしていた最中。ミュラーの向こうからぼそっと「まあソフィアが断っても来てたけどねー」という無情な声が聞こえた。


 どうやらこの状況は思ったよりも綿密に仕組まれていたらしい。

 結局逃げ道はなかったとか堪んないね、まったく。


「確かに覚えてなかったけど、どうやら結果は変わらなかったみたいだね?」


「そういう問題じゃないでしょう」


 まあその通りではあるんだけど。

 日を跨いでも同じことを質問され続ける私の気持ちも分かって欲しいね。


 しかし、四人。四人か。


 これは流石にちょっと、多すぎる気が……せめて二人くらいならまだ希望はあったんだけど……。


 ちらりと応接室の方を確認した私の行動を、目敏く見つけた友人Aが、シュピッ! と高速移動をして私の背中に張り付いた。私の小さな背中に遠慮なく体重を掛けてくるのは、学院広しと言えどこの子くらいのものである。


「今何か見てたよね? ねぇ、何を気にしたの? もしかしてカイルくんがそっちにいるの? それともロランド様? それともお菓子!?」


 相変わらず関心事への嗅覚が凄まじいな。全部大当たりだよ、びっくりするわ。


「今言った全部があっちの通路の先にありますよ」と言ったら今すぐすっ飛んで行ったりするのだろうか。まあお兄様のお仕事の邪魔なんて何があろうとさせないけどね。


「せっかく来てもらったのに申し訳ないんだけど、今すぐに伝えなければならない大変残念なお知らせがあります」


 なので一先ず興味の対象を塗り替えるために、少し大きめに声を張り上げた。礼拝堂にいた一同の視線が一斉に私に集まったのを感じる。


 眉を八の字に曲げ、心から残念だという気持ちを表明しながら、私は血を吐くような決意でその事実を公表した。


「今日の分としてアネット商会に用意してもらったお菓子はガトーショコラ。で、す、が! 急な来客があることは想定されていなかった為、残念ながらアニーと他一名の分は用意出来そうにないんです」


「いや待ってなんで私だけ名指しなの!? 私だって食べたいよ!? それにガトーショコラってあれでしょ、丸いヤツでしょ! 均等に分ければ問題ないじゃん!!」


 ちっ、知ってたか。流石はお喋り好きな友人A、世間の話題には精通している。


 だが当然、そう簡単にはいかない事情があるのだよ。


「実際に見てもらえばその理由が分かると思います。とりあえず皆さん、奥へどうぞ」


 誘導しながら、私は頭を必死に回転させ続ける。


 罪悪感なく私が食べるガトーショコラの量を確保するにはどうする事が最善なのかと。


 限られた短い時間で、果たして解答に辿り着けるだろうか……?


「ところでソフィアさー、なんでさっきからそんな固い話し方なの?普通に話せば良くない?」

「お兄様に見られた時に、この方が対比で良く見られるかと思いまして」

「ん……んん!? それってもしかしなくても私が悪く見られるやつじゃん!?今すぐやめろォー!」

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