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最高の妹


 唯ちゃんの清らかさに当てられて魂をすっかり浄化されてしまった私は、とりあえず足元でキューキュー鳴くフェレットたちに恵みの飴をプレゼントしておいた。それも小さな口でも食べやすいよう大きさを調整した特別製である。


 ……まあ特別製とは言っても、ただ単に手の中で砕いただけなんだけどね。


 大切なのは思い遣ろうとする気持ちだと思うの。


 工程が簡単だとか、雑だとか。その辺の裏事情は気にするだけ野暮ってもんよね。


 この場にいる全員を共犯にすることで、運動中にお菓子を食べるという大罪に対する罪の意識を見事軽減することに成功した私は、今度こそちゃんとした運動を始めるべく声を上げた。


「さあ、そろそろ始めないと朝食の時間になっちゃうからね。パパっと走ってパパっと帰ろっか」


「はい」


 唯ちゃんもエリクサーショックから立ち直った様子。


 もう問題はなさそうだったので、私たちはまた、せっせこ運動をするために屋敷の周りを走り出した。


「……ふむん」


 ……なるほど、こうなるのか。これはこれで興味深いな。


 フェルに先導された私と、エッテに先導された唯ちゃん。一緒に走り出した二人の距離がぐんぐーんと開いていく。その開きっぷりがいっそ清々しくて、なんだか妙に楽しくなってきたわ。ふわっふぅー。


 あ、ちなみに遅れてるのは私の方ね。魔法を意識しただけで唯ちゃん、《身体強化》の使い方までマスターしちゃったみたいでさ。加速度的に足の速さが上がってくの。流石だよねー。


 どこまで早くなるのかなーと見守っている私の遥か前方を、そのまましばらくは快調に飛ばしていた唯ちゃんだったんだけど、その軽快な足取りが急遽ストップ。どうやら私を引き離していることに気付いて立ち止まってくれたみたいだった。


 こんなに離れるまで気が付かないなんて、さては自分の足がみるみる早くなっていくのが楽しすぎて夢中になってたな?


 分かる分かる。魔法の効果が顕著だとついつい夢中になっちゃうんだよねー。


 私が追いついた所で、案の定。唯ちゃんは開口一番、謝罪の言葉を口にした。


「すみません、ソフィアさん。今度は私が速すぎたみたいで……」


「気にしなくていいよー。なんならぐるっと走ってくれば? 足速いのって楽しいでしょ」


「それは……。はい……」


 なんだろう、これは。もしかしてうっかり夢中になって楽しんでたことを恥ずかしがってる? もっと素直に楽しめば良いのにー。


 そう思いはするものの、美少女の照れ顔は貴重なのでこれはこれでアリなんですよね。「いいぞもっとやれ」とまでは思わないまでも、「ご馳走様ですどうかこれからもそのままの君でいて」程度には考えてしまうというか……うん。


 だらしない顔だけは表に出さないように気を付けないとね。


 自身の幸福に謙虚な姿勢も実に唯ちゃんらしいというかね。これからはこのソフィアお姉ちゃんが唯ちゃんの幸せをプロデュースしてあげようと、そんなことをつい考えさせられちゃう儚さがあると思うの。


 まあ一言で言っちゃうとあれよ。唯ちゃんが可愛すぎて堪らんと、そういうことですよね。色んな表情見せてくれるのを眺めてるだけで幸せ太りとかしそう。


 心の中が幸福感で満たされまくったせいか、はたまた多幸感で頭が茹だってしまったせいか。


 気付けば私は、心に浮かんだ感想をそのままポロッと零してしまっていた。


「照れてる唯ちゃんかっわいい……」


 ……油断してると、心の声って割と口から出ちゃうものよね。


 すぐに「しまった」と思ったものの、幸いにも零れた言葉はまだ常識的な範疇だった。うっかり「もっと恥ずかしがらせたらどんな顔するんだろ」とか零してたらどうなってたことか。唯ちゃんが二度と私と話してくれなくなる未来だって無いとは言えない。


 いくら私好みの可愛い女の子が極上の照れ顔を浮かべてたからって気を抜くのは良くないよね。

 これからも唯ちゃんに頼られるお姉ちゃんである為に、私ももっと気合いを入れなければ!


 ――そんなことを考えていた矢先だった。


「……ううぅ、あんまりからかわないでください……」


 ピキュゥン! と心臓を射抜かれた音がした。


 意識が、胸が、胸の奥が勝手に膨らむような感覚を覚える。


 浅く、深く、呼吸を繰り返し。身体の調子を平時のそれに戻したところで、一点だけ、以前からずっと気になっていたことを伝えてみた。


「なんで自覚がないのかは知らないけど、唯ちゃんかなりの美少女だからね。自分の容姿が他人にどう見られるかは知っていた方がいいと思うよ」


「私程度がそんなわけ……」


 は? 何言ってんのこの子は。あるから。そんなこと超あるからね?


 この危機意識のまま日本に戻さなくて良かったと若干場違いなことを考えつつ、私はアイテムボックスから取り出した手鏡を唯ちゃんの手に握らせた。


「ほら、よく見て。テレビでよく見るアイドルよりも可愛い子が見えるでしょ?」


「私テレビとかはあまり見なかったので……。それに可愛いと言うなら、ソフィアさんの方が私よりもよっぽど可愛いと思います。お人形さんのように綺麗で羨ましいです」


「ええ……ありがと……」


 ――なんか逆に褒め返されたんですけど。


 ええー……なにこれ……唯ちゃん超いい子……控えめに言って最高の妹……。



 そうしてそのまま、お互いを褒め合ってはくねくね。美点を述べあっては照れ照れするのを繰り返していた私たちは、エッテとフェルの二匹が待ちくたびれて二度寝を始めてしまっていたことに、しばらくの間気付かなかったのだった。


唯は環境的に褒められることが少なく、ソフィアは「見た目はともかく性格でマイナス」と自己評価が低い。

しかし客観的に見れば二人とも、美を付けて呼ぶのに何ら遜色のない整った容姿の少女なのです。

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