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魔法の可能性


 エリクサーという名のただの飴玉を舐め、意気揚々と走り出した唯ちゃん。


 彼女は果たしてプラシーボ効果によって無限の体力を得たのだろうか。



 屋敷の角を走り去っていった唯ちゃんを追いかけた私が見た光景。それは――!!


「お、まだ走ってる」


 多分、効果アリ。


 ちょっとの休憩しか挟んでないのにさっきより走れてるんだもん。これは仮定が正しかったとみて問題ないよね?


 唯ちゃんの隣までバビュンと追いつき併走しつつ、とりあえず一周走り終えた。


「おつかれさま〜」


「お疲れ様でした。あの、これ、凄いですね!」


「そうだね」


 そんなに純粋な笑顔を向けられると、なんだか騙してるみたいで良心が痛むね。凄いのは唯ちゃんの身体なんだけどな。


 普段の癖でついつい「いつバラすのが面白いかな」とか考えちゃったけど、相手が唯ちゃんだったことをすぐに思い出し、勿体ぶる必要がまるでないことに気がついた。


「実はそれね、エリクサーでもなんでもなくて。ただの飴ちゃんなんだよね」


「…………え? そう……なんですか?」


「そうなんですよ」


 それほど意外に思うものかね?

 見た目も味も完璧にべっこう飴だったと思うんだけどな。


 私はアイテムボックスから先程と同じ飴を取り出して、それをよく見えるように唯ちゃんに渡した。ついでにもうひとつ取り出すと、そちらはパクンと口の中に放り込んだ。


「べっこう飴って知らない? 砂糖水を火にかけただけのお菓子なんだけど――」


「べっこう飴!! 知ってます、小学校で作りました! 黄金アメのことですよね!?」


 んふっ、んんっ!


「んふっ、えほっ、げほっ!」


 あー、あー吃驚した。驚きすぎて飴が喉に落ちそうになってしまった。まさか唯ちゃんが急に叫び出すほど興奮するとは……。


 でも、そうね。多分その黄金アメで間違いないと思う。……今の子はべっこう飴って言わないんだね。もしかして私って、唯ちゃんからみたらもうオバサ……。


 んんっ。いや、これ以上深く考えるのはやめておこうね。今はほら、身長も近い事だし。ほぼ同年代みたいなものだよね。


 ……で、えっと、なんだっけ?

 ああそうそう、確か唯ちゃんの貧弱体力のことだったね。


「えっと、実はね。唯ちゃんが初めに走った時、あんなに早く体力が切れるのはおかしいなーと思って、ちょっと実験させてもらったんだよね」


「実験ですか」


「そ、実験」


 飴玉を舐めて走るだけの実験。

 私もそんな実験ならちょっと受けたいとか思ってしまった。が、私を実験の対象とするような人となるとお母様くらいしか思い付かない。


 なんとなく、口元がもにょもにょっと違和感を発した気がした。


 これはあれかな。「口は災いの元」と本能が危険を知らせてるのかな? そういえばここは神殿とは違ってお母様が出没する可能性のある場所なんでしたね。あんまり気を抜き過ぎないようにしておこっと。


 なんとなく周囲を見回してから唯ちゃんに向き直る。


 唯ちゃんは緊張気味に、私のことを真っ直ぐな瞳で見上げていた。うーん、かわゆい。


「唯ちゃん、私に『魔法とはなにか』って教えてくれたでしょ? あれ唯ちゃんにも適用されてるみたいだよ」


「魔法……真摯に願えば望みは叶うというお話ですか?」


「んー、そうと言えばそうなんだけど、ちょっとだけ違くて。今回の場合だと『走ると疲れると思いながら走ったから疲れた』みたいな」


「…………??」


 あれ、伝わんない?

 魔法関係の話だからいけるかとも思ったんだけど無理だったか。そこまで理解してたら初めから走った程度で疲れないし、魔法だって私に教わるまでもなくもっと上手く使えてるか。


 ふーん、成程。成程ねー……。


 やっぱりこの世界の神様といえど、押し付けられた役割じゃあ魔法の仕組みを完全に理解するには至ってないのか。この分じゃ唯ちゃんが知らないこの世界独自の仕組みもありそうだなー。



 ――危険。好奇心。知識の差。魔力の有無。そして何より――唯ちゃんの父親。



 この世界を創造した諸悪の根源を放置しているという事実が、どう転ぶか。


 世界の境界は塞いだとはいえ、穴自体はまだ存在する訳だしね。世界の繋がりはまだ切れちゃいないってことだ。


 今こうしている瞬間にも着々と悪事の準備が整っている可能性を考えると……ううむ、やっぱりあの研究室っぽい部屋を丸ごと瓦礫に変えておくべきだっただろうか。


 まあ過ぎたことはしゃーない。


 次に行く時は、もうちょっと心の準備をしてからにしようねってことで。


 今は唯ちゃんに魔法の説明をしないとねー。


「例えばね。唯ちゃんが『魔法の使える世界なんだから人が空を飛ぶのも当たり前』と思いながら空を飛ぼうと思えば、多分飛べるよって話。逆に『この辺りは空気も薄くて、少し走っただけで直ぐに息が切れる……』とか考えたら、その通りに息がしにくくなると思うよ」


「まさか」


「実際に今、飴舐めただけで走るのが平気になったよね」


 ズガガーン! とショックを受けたような顔をしてるけど、反応が遅くないかな。それただの飴だってさっき言ったじゃん。


 なんか唯ちゃんって、思ったよりも表情が豊かかもしれない。


 もしかして外に出たお陰とか?

 だとしたら、ここに連れてきた私の判断は英断だったと言えるだろうね。



 薄闇が徐々に明るく染め上げられる空の下、忙しなくコロコロと表情を変える可愛くて綺麗な女の子。


 これは唯ちゃん想いの私に与えられた天からのプレゼントだと現状を正しく認識した私は、とりあえず唯ちゃんの純粋すぎる可愛さに、感謝の祈りを捧げておいた。


 なむなむ。どうかその清らかな心で私の邪心も祓っておくれ〜。


可愛いものには感謝を。可愛くないものには鉄槌を。

そんな感じで、今日もソフィアの楽しい一日は始まるようです。

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