さあ、エリクサーを食べるのです!
何でもいいから、とりあえず運動がしたいんだけどなー。
唯ちゃんの面倒を見ながら思わずそう考えてしまった私を、一体誰が責められようか。
――はい、それはもちろん私です。私が自分で自分を責めるのです。
なにせ小さくて可愛い女の子は世界の宝だからね。
どんなに我儘だろうとどんなに迷惑だろうと、それが可愛い女の子から齎されたものであるのなら有難く享受するのが何よりも正しい。そこに余計な理屈なんて存在しないのです。
だからね、私が唯ちゃんに抱いてる感情も怒りとかじゃないの。
運動するとあらかじめ伝えていたにも関わらず、ろくに走ることすら出来ない身体で「私も!」と手を上げられるその精神構造とか、まぁー摩訶不思議だなぁーとは思うけどね。そこは大した問題じゃないの。私の関心はもっと別の方に向いているのよ。
要は「神様って本当に疲れるの?」と。それが何よりも気になるのです。
……別に唯ちゃんが嘘をついてるとか疑ってる訳じゃないのよ、その発言の内容が本当に正しいのかを疑ってるの。
この違い、細かいようだけど意味合いが大分変わってくるから要注意ね! 唯ちゃんが私に嘘つくなんて思ってる訳じゃないんだからね!?
とにかく、そんな感じで神様が疲れる原因に関して考察をしたその結果、私はとある仮定に辿り着いたというわけさ。
まあほら、私って割と頭はいい方だからさ。親しい人には「抜けてる」とか「呆れる」とか、「何を考えてるのか分からない」とか「むしろ何も考えてないんじゃないか」とか、好き勝手に言われたりもする私だけどさ。頭は結構良い方だからね。学業成績は優秀だからね。こう見えても問題解決能力は高いのですよ。
で、そんな頭脳明晰な天才美少女ソフィアちゃんが辿り着いた一つの可能性。それは「唯ちゃんが自分は疲れていると誤認しているから疲れている」という勘違いの可能性だったのです!! わー、ぱちぱちぱち!
……えーっと、つまりですね。分かりにくいとは思うんだけど、唯ちゃんが疲れたと思ってるから身体は疲れている時の反応を示しちゃってるんじゃないかなー、と。私はそう判断している訳でして。
なので極論、唯ちゃんを上手いこと言いくるめて「これくらいで疲れるわけないよね!」という方向にさえ持ち込んでしまえば、唯ちゃんが今感じている疲労は綺麗さっぱり消え去るんじゃないかなーとか仮定してみる。
はい、というわけでね。
仮定が済んだらその仮定が正しいのかを試して見たくなるのは、人として生まれてきた以上避けられない欲求ですよね。
アイテムボックスの中をゴソゴソゴソ。
何か使えるアイテムはないかなーと……お、これでいいや。
「唯ちゃん、これ何か知ってる?」
取り出したるは親指大の謎の物体。
宝石のように美しく、透き通った黄金色が見るものを魅了するそのお菓子の名は……別の世界では「べっこう飴」と呼ばれる、簡単おいしいお菓子だった。
「……? えっと……飴か何かですか?」
お、流石は唯ちゃん。ひと目で見破るとはやりますねぇ。
でもこれは、今ここに限ってはただの飴玉ではないんだなぁ。
「ゲームとかした事あるかな? これね、ゲームで言うとエリクサーっていう異世界の定番回復アイテム。舐めると体力全回復、疲労も感じなくなる優れもの〜」
「これがエリクサーなんですか!?」
うおぉぅ、思ったよりも食い付きが良いな。そういえばこの魔法アリのファンタジー世界は唯ちゃんの記憶を元にして出来てるんだっけ? もしや私よりもゲームに詳しい可能性もあったりしますか。
まあゲームの知識なんてどうでもいいや。
今必要なのは「これを舐めていれば疲れとはおさらば! 何処までだって走っていけるよ!!」という思い込みなのだ。
これを舐めただけで本当に唯ちゃんが疲れなくなれば、私の仮定が正しかったのだと実証される。
さあ、元気にまた走り出そうじゃないか、妹よー!!
「はい、どーぞ」
「これが……エリクサー……」
なんか思ったよりもエリクサーの名前がぶっ刺さってるっぽい。
私の知ってる回復アイテムなんてポーションとエリクサーくらいしかないんだけどな。あ、薬草もあったか。
とにかく、そう大層なものじゃないから。気軽にペロッといっちゃってください。
お母様とは違って私の心の声を聞く術を持たない唯ちゃんは、私の希望とは反対に、見ている方が緊張するくらいに恐る恐る、ものすごーくゆっくりとその飴玉を口に運んだ。
「では、い、いただきますね。…………。……味は意外と、普通ですね……」
そりゃ普通の飴だからね。
思い込みの激しそうな唯ちゃんだったら味すらも自分の思い込みによって変化させられるのかもしれないけど、エリクサー味とか普通分かんないもんね。分かんない味は想像だってできないよねえ。
ともあれ、これで準備は整った。
あとは唯ちゃんがこのまま走って、疲れるかどうかを確かめるだけだ。
甘い匂いに釣られて顔を上げた二匹の獣は、出てきたお菓子が飴だと分かった瞬間、その興味を失ったようだ。
口に入り切らない飴玉はあまり好みではなかったらしい。




