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運動の苦手な女の子


 日課の運動をしようと家に帰ったら運動する前に休憩する羽目になりましたとさ。


 いやこれは流石に想定外。

 唯ちゃんが運動したがることすら見通せなかった私だけど、それにしたって自分から言い出したことなのに、まさか数分走っただけでバテられるとは思わないでしょ。


 唯ちゃんもきっと、自分がこんなに動けないとは思わなかったんだとは思う。唯ちゃんの運動能力を今までの生活から判断するなら、喪神病から復帰した直後のアイラさんと同じように、長年狭い場所に閉じ込められていた過去から運動に必要な筋力が衰えていると考えることも出来る。普通ならそう考えることも出来るんだけど、でもその理屈は、唯ちゃんにだけは当てはまらないんだ。


 なにせ唯ちゃんの正体は神様だからね。


 もしも唯ちゃんが身体を動かすのに筋肉を使っていると言うのなら、それはもう筋肉とは名ばかりの別の何かだ。それ絶対に私の知ってる筋肉じゃない。


 アイラさんなんて目じゃない、数百年どころか数千数万という気が遠くなるほどの時を水も飲まずに過ごしてきたのが唯ちゃんという神様だ。仮に筋肉が残ってたとしても確実に化石になってるでしょそれ。


 いや化石がどうとかという話でもなくて……。

 要はさ。どう考えたって唯ちゃんはもう普通の身体じゃない。元の世界の原理とは隔絶された、魔力のみで作られた魔力体の身体になってるでしょって話。


 で、その魔力体がじゃあどうやって動いているのかと考えれば、それはもう魔力以外にはありえない。人の魂だって言うなれば魔力の塊みたいなものではあるしね。


 さてさてここでクエスチョン。

 筋肉で動かす肉体は疲労するけど、魔力で動かす魔力体は果たして疲労しないのだろうか? その答えは〜、ジャカジャン! 多分する! だって現に唯ちゃんが疲れてるから!!


 ――というのは冗談にしても、魔力操作という点に限れば私だって経験がある。


 疲れは、する。恐らくこれは間違いない。


 でもそうなると新たな疑問が生じるというか。

 唯ちゃんの疲れ方は、私の知ってる魔力操作による疲労とは違うんだよね。


「はーっ、はーっ、はーっ、はーっ」


「……えっと、とりあえず水でも飲んどく?」


「ください……、っ、はーっ……。……すみません、こんなに早く脱落して……」


「まあ、久しぶりって言ってたもんね。ゆっくり休んで」


「はい……」


 糸人形ってあるじゃん。人形劇とかで使うあやつり人形。手足の先に糸が繋がってて、糸を使って人形の動きを操るの。

 身体を魔力で動かすのって割とあれに近い状態だと思うんだよね。


 だからもしも私が私の身体を魔力のみで動かすとしたら、操作に疲れた時は繰糸の精度がまず落ちる。すると人形はどうなるか。


 疲れを露わにする? いやいや、操られてた人形は普通は倒れ込むと思うんだ。疲労困憊な人の真似事なんて、むしろ疲れてたら絶対に出来ない芸当だと思うのだよね。


 だから唯ちゃんは、魔力の操作で疲れたわけじゃない。もちろん身体に存在しない筋肉が悲鳴をあげてるわけでもない。


 この疲れは恐らく、唯ちゃんが自分の肉体を持ってた頃の身体能力に起因してるんじゃないかと思うんだよね。


 さっきは身体の動かし方について糸人形を例に出したけど、唯ちゃんはわざわざそんなしちめんどくさいやり方で自分の身体を動かしてるわけじゃないと思う。もっと単純に、昔の記憶を想起させて「私は日常生活を不便なく送れる」「私は走ることが出来る」といった具合に、記憶の中の自分の動きをそのまま再現してるんじゃないかと思うんだ。


 で、ここからがポイント。


 記憶を頼りに再現する方法ってね、慣れないと失敗もそのまま再現しちゃうんだよね。出来る記憶を持ってないんだから当たり前のことではあるんだけど、記憶の中で出来なかったことは出来ないままなの。意識的にその場面だけを改変するとかしないと、出来るようにはなるわけがないんだよね。


 ……えっと、まあ、つまりですよ。


 日本で普通の小学生として暮らしていた頃の唯ちゃんは、目の前で疲れ切っている唯ちゃんと同じように、運動がダメダメな女の子だったのではないかと思う訳でして。


 最近運動してないからーとか、久しぶりすぎて体がなまっててー、とかではなく。


 単に、唯ちゃんが、運動能力が壊滅的なだけなのではないかな、と。


 私の灰色の脳細胞は、そんな答えを導き出している訳でして。


 ……これ、指摘したら唯ちゃん泣き出したりとかしない? 平気だよね?

 でも小学生って運動能力がステータスの全てってトコもあるし……。


 うぉおお。どうしよう、どうする。私はどうするのが正解なんだろ。


 とりあえず唯ちゃんが落ち着くのを待って、それから走るのを再開……いや再開は無理かな? でも再開しないと唯ちゃんを気遣わせちゃうだろうし……。



 唯ちゃんと一緒に水を飲みながら、運動をしに来たはずの自宅の庭で、何故か頭を悩ませる私だった。


「キュ?(運動するんじゃないの?)」

「キューイ(もうしばらくは休憩になりそうね)」


フェルとエッテも、創造神様の運動能力の低さは想定外だったようです。

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