表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1092/1407

神様は運動不足


 部屋に戻ってフェルとエッテを起こし、運動用の服に着替えてから、唯ちゃんを連れて屋敷の庭に転移した。


 ……いやね、聞いてくださいよ。初めは私も夜明けの街中を歩いて向かおーとか思ってたんだよ。


 でもね、よくよく考えたら私って屋敷までの道知らなかったの。貴族街までの道は分かるけど、その先とかもう全然。びっくりするくらい知らなかったの。いつも馬車に頼ってる弊害だよね。


 家からカイルの家までの道とか、神殿から美味しい喫茶店までの道やアネット商会までの道とかなら分かるんだけどね。ちょっと距離あるところは大抵馬車を使っての移動だからさ。どの道をどういう風に通ってるのかなんていちいち確認してないんだよね。


 いやホント、別に座高が低いせいで車窓から街並みが見えないからとかではなくてね。座ったら普通、外の景色とか二の次になるでしょ? 歩くこと想定してずっと道とか眺めてないでしょ? そーいうことよ。


 だから私が道を覚えてなくたって何も悪いことなどないのだ。

 早朝の街中を延々と歩いてたら代わり映えのしない風景に途中で飽きてたかもしれないし、結果的にはこれで正解なんですよきっと!


 ――などと、一通り自分への言い訳を済ませたところで、今日の運動メニューを決定した。


「今日はとりあえず、《身体強化》無しで走っとこうかな」


 なにせ昨日は日課をさぼってしまったからね。

 基礎的な体力の向上には、やっぱり地道なマラソンが鉄板だよね。


 もちろん、こんな地味〜な運動に唯ちゃんに付き合わせるつもりなんて更々なくて。私がせっせこ汗を流してる間は花が綺麗に咲いてる庭園でも眺めていてもらおうとか思ってたんだけど、ここで予想外の事態が発生した。


「私も一緒に走っていいですか?」


「……結構キツいと思うけど大丈夫?」


「大丈夫です!」


 ……もしや唯ちゃん、マゾの人かい? キツいと聞いて満面の笑顔を浮かべちゃうのは、お姉さんちょっぴり心配になるよ?


 唯ちゃんがそういう人なら私も接し方を考えないと……! なんて妄想するのもそれはそれで楽しかったんだけど、そう面白いことが転がってるわけもないのでもう少しだけ突っ込んで聞いてみたところ。なんでも唯ちゃん、運動は久しぶりなのでむしろお願いしてでも走りたいとのこと。唯ちゃんが今まで置かれていた環境を考えれば至極自然な話だった。


 何も存在しない白い空間。その中で一人、半畳ほどしかない空間から出ることもできず、ずーっと独りで誰とも接することなく生きてきたのが唯ちゃんである。


 そりゃ運動できる機会があったらしたいと考えるのは当然だよね。

 むしろ今まで気を使って言い出せなかったのかもしれないと考えると、なんだか急に罪悪感が湧いてきた。カイルで遊んでる暇があったら唯ちゃんのサポートに注力しろよって感じ。ちょっと反省。


「じゃあ、一緒に走ろうか」


 で、適度な反省だけを済ませたら、このことはすっぱり綺麗に忘れる。後はもう、楽しい未来のことしか考えない。


 これぞソフィアちゃん流、楽しい日々の過ごし方である。どやぁ……!!


 やっぱりさ、毎日の生活に笑顔って欠かせないからねー。後悔ばっかの人生じゃつまらないもんね。


 というわけで、一緒に走ろうとは言ったものの、唯ちゃんと私とでは走るペースも違うわけで。


「風景を楽しみながら好きなペースで走るといいよ」とあらかじめ無理に着いてくる必要は無いことを伝えておくと、唯ちゃんはそれはもう元気に「はいっ!」と、実に嬉しそうに微笑んだ。


 ……あー、やばいなー。これはやばい。


 この笑顔は全てのショタっ子達を虜にするね。魅了の魔法に近いトキメキ力をガンガンに放ちまくっている。うっかり恋しちゃいそうな破壊力だよー……。


 幸いこの素敵すぎる笑顔は、今のところ私しか見ていなかったようだ。


 心のシャッターに今の尊い光景をばっちり納めてしまった私は走り始める前からドキドキものだ。高鳴る鼓動を隠しつつ、とりあえずエッテに命令を下す。唯ちゃんを虫さんから護衛しつつ案内役を務めるように!


「キュイッ!」


 エッテからの心強い返答に満足して頷くと、私達は早速、屋敷の周りを走り始めることにしたのだった。



 ――そしてストレッチを済ませてから走り出した、僅か数分後のこと。


 私は自身の身体能力に愕然としていた。


 ……いや、この表現は適切ではないか。

 より正確に言うのなら、私は自身の魔法に頼らない素の身体能力について、まるで把握していなかったのだ。


 ……ある程度分かってはいたことだけど、やっぱりこうして完全に《身体強化》を切って走ると、普段からどれだけ魔法に頼って生活していたかがよく分かるね。まだ一周もしてないうちからもう息が上がってきてるよ。


 これはこれで割と絶望ものなんだけど、それ以上に酷いのが唯ちゃんである。


「っ、はっ、はっ、はっ、はぁっ……」


 もうね、息も絶え絶えって感じ。下手したらそこらの幼児よりも体力なさそう……。


 ってゆーか、そもそもどういう原理で疲れてるんだろう。魔力体って体力あるのか?

 走るのに筋肉を再現して使ってるわけでもないだろうし、唯ちゃんの疲労は見た目以上に原理が難解な気がする。


 ……まあ、唯ちゃんの身体の仕組みはおいといて。


 とりあえず、私は今日もまともに運動ができそうにないということだけは理解した。


 こんなに大変そうな唯ちゃん放って自分だけ運動なんて出来るわけないよね! そこまで人でなしにはなれそうにないよ!!


一方その頃。

今日は普通に起床したカイル少年は、しかし昨日の記憶から思わず下半身の状態を確認して、思わず安堵の息を吐いていたとか……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ